慰安婦決議案は「重い」か | 日本のお姉さん

慰安婦決議案は「重い」か

 米国の第110連邦議会に提出された、いわゆる従軍慰安婦問題に関して日本政府の公式謝罪を求めた決議案をめぐる騒動で、十分に注目されていないと感じる点が三つある。
 一つは、米政界での、この決議案の重みだ。
 米連邦議会で扱う決議案の数は膨大で、第109議会(2005~06年)には下院だけで1716本が処理された。成立すれば法的拘束力を持つ両院共同決議案は102本だけで、残りは成立しても法的拘束力のない下院決議案と両院一致決議案だ。これだけ膨大な数になるのは、有権者や圧力団体の要望に配慮する姿勢を見せる「選挙対策」の意味合いのものが多いからだ。問題の決議案も両院一致決議案で、普段は米メディアが関心を払うことがないたぐいのものだ。
 日本側が誤りを指摘するのは当然だが、決議案を提出した側にすれば、安倍首相の反論に韓国や中国が反発し、米メディアも取り上げるようになって注目度が上がることは望外の成果と映っているはずだ。
 二つには、問題の決議案作成にかかわった人々が、河野官房長官談話のせいで歴史を「誤解」したのかどうかということだ。
 提案した議員のスタッフや支持者の多くは日本事情に詳しい「専門家」だ。日本でどんな議論が展開されているかは熟知している。
 戦時中の日本の行動を批判して謝罪を求めた決議案も今回が初めてではない。日本企業が戦争捕虜を強制労働させた、と非難するものもあれば、今回同様、従軍慰安婦問題を理由にしたものも数回提案され、日の目を見なかった。
 彼らは「誤解」しているのではなく、「確信」で動いている。日本側がいくら「事実誤認」を指摘しても改まらないゆえんだ。
 三つには、決議案作成の背後にある韓国、中国系コミュニティーの政治力だ。
 決議案を主導した日系のマイケル・ホンダ下院議員(カリフォルニア州15区)の地元では、韓国系の票がものを言う。日系米国人は第2次大戦時に強制収容所に送られた歴史もあり、群れて目立つことを避け、米社会に溶け込む生き方を選択してきた。あえて日本に背を向けた人もいれば、対日強硬派で売った日系政治家も少なくない。そのためか、「塊」としての日系米国人の政治力は弱い。
 一方、紐帯の強い韓国系や中国系は米国各地にコミュニティーを広げ、その組織力で影響力を増している。〝祖国〟以上に「反日」に振れやすいとも言われる。将来、アジア系の人口比がさらに高まり、それが「反日」に向かうなら、その帰結は日米関係の弱体化だ。
 幸い、日系は若い世代が日本に好意的な関心を向けている。日本のポップカルチャーなども触媒となったようだ。日本と距離を置いた年配の世代も近年は「郷愁」を口にするという。
 中国系や韓国系の反日感情を和らげるには、日系の変化と同様、地道に「日本ファン」を増やしていく以外にはない。
(伊藤俊行) 3/11読売朝刊