「飲んじゃった。美味かったな」
「そうですね。美味しかったですね」
結局、我慢できずに水道水を飲んでしまった2人は、
渇きが癒されたことで、心配よりもむしろ安堵を感じていたんだよな。
えっ?何の話かって?
●ここ の話しの続きなんだけど、いえ、読むほどのものじゃないですって。
ちゃちゃっと要約すると...
サハラ砂漠のオアシスの街のホテルで、ボク「なつむぎ」と同行のT氏が、
深夜にのどが渇いてどうしようもなくなって、
「飲んだら腹を壊す」
と、ガイドブックに断言してあった水道水を飲んでしまった。
そういう話です。
*****
翌朝、2人の目覚めは実に爽快。腹なんて、痛くないない。
タンジェからカサブランカへのバスの旅の途中に、
ハエだらけの肉を喰らっても大丈夫だったボクらの強靭な胃腸には、 ●ここ
サハラの水道水なんて敵ではありませんでした。
清潔すぎるヤワな日本人とは、既に一線を画しているって、
ちょっと「してやったり」な気分だったりして。
「なんかさ。水道水を飲んだせいか、いままでよりも気持ちの良い便意を感じるよね」
「そうですね。ここの水道水、むしろ胃腸にいいのかもしれないですね」
なんてね。
でも、困ったことに気が付いた。
部屋にはバスルームがあるんだけど、水が来ない。
これは、前に書いたよね。
もちろんバスタブもシャワーも役に立たないけれど、
でも、水の来ない洋式便器は、いったいどうしたものだろう。
「Tさん。どうしましょう。フロントのとこのトイレに行きますか?」
「いや。水を汲んできてタンクに入れよう」
「どこから?」
「プールからだよ。あそこが一番近いから」
「でも、トイレの度にプールまで往復するのは面倒ですよ」
「1回でいいじゃないか。自分のしたウンコを見られるのが嫌か、他人のしたウンコの上にするのが嫌かだな」
「って、どっちも嫌ですよ」
そのあたりから2人は、
「2階建てウンコ。2階建てウンコ」
なんて言いながら興奮状態でさ。
そろそろいい年になりかけたオッサンと、
あまりピチピチではなくなりつつある青年が、
まるで小学生男子のようにウンコネタで大騒ぎでした。
*****
さて、無事2階建てを完成させたところで、水を汲みに行きました。
どっちが先だったかは覚えてないな。
バスルームにバケツが置いてあったのは、ホテル側がこの展開を読んでいたんでしょう。
プールサイドには、チェックインの時にも居た金髪美人がくつろいでいて、
ボクらがバケツでプールの水を汲んでいる時の、
彼女らの視線は痛かったけど...
でも、ちゃんと2階建てを流すことができたとさ。
めでたし、めでたし。

あ、
そうそう、
プールサイドの金髪美人の正体について、お話ししなくっちゃ。
シャワー代わりにプールで泳いだ後、
ビールでも飲もうとプールサイドの東屋に行くと、
金髪美女の中の1人がいた。
「やぁ、キレイなお嬢さん。もしよかったら、ボクと一緒にカクテルでも飲まないかい?」
と言う代わりに、
「観光ですか?」
って聞いてみた。
すると彼女は、ボクに結構フレンドリーな感じなんだな。
「君みたいな魅力的な女性と、この砂漠のオアシスで出会えるなんて、人生はなんてロマンチックなんだろうね」
って言う代わりに、
「ご家族といらっしゃったんですか」
と言ってみた。
「ええ、そうよ」と、笑顔の彼女。
そこで、「よかったら、そこのビーチチェアで、お互いのこととか話しあわないか」
と提案してみる代わりに、
「いつまでいらっしゃるんですか」
と尋ねてみた。
あはは。砂漠の町で水着の金髪美女に出会ったところで、
結局はまぁそんなもんです。
彼女の話しによると、
みんなカップルでこのホテルに来ているんだって。
男たちはドイツの有名自動車メーカーのテストドライバーで、
車の性能のテストのために、早朝から昼までサハラ砂漠を走り回るのだそうです。
かっ... かっこいいなぁ。
片や、ハエのたかった肉を食っても、
衛生上問題ありの水道水を飲んでも腹を壊さない東洋人。
しかも朝、ポリバケツで水を汲みに来てるのを見られちゃってる。
かっ... かっこ悪い。