白血病治療のための骨髄移植によって、
元から罹患していたHIVが体内から消え去るという奇跡が起きた患者の話をしています。
一体、何故HIVが消えたのかというと、
遺伝的にHIVに対して耐性のあるドナーの骨髄が移植されたからです。
この、
遺伝的に耐性のある、ということがどういうことなのか?
というと、
それは免疫細胞表面に存在するタンパク質によります。
HIVが主に破壊してしまうのは、
免疫にとって重要な役割を持つヘルパーT細胞という細胞です。
この細胞は免疫系の司令塔のような役割を持ちます。
これが破壊されて行く事に寄って、
免疫力を失って行く事がHIV感染の恐ろしさです。
このヘルパーT細胞にHIVが侵入する時に使われるのが、
細胞表面に存在するタンパク質です。
名前をCCR5と言います。
車の車種のような名前ですよね。
このCCR5を使ってHIVは細胞内に侵入し、
感染していきます。
しかし、
遺伝的にHIVに対して耐性のあるヒトでは、
このCCR5が存在しません。
こういった人はHIVには感染しないのです。
この遺伝的な変異は白人の約1%に存在しますが、
我々にとっては残念な事にアジア人やアフリカ人には極めて稀な変異のようです。
今回の奇跡の患者のケースでは、
このCCR5欠損のドナーの骨髄が移植されたことで、
骨髄提供を受けたレシピエントのHIVが消滅しました。
白血病の骨髄移植の際には、
まず徹底的な抗がん剤治療にて、患者の白血病細胞を骨髄ごと破壊し尽くします。
その後に骨髄の移植を受けるので、
最終的には患者の血球系の細胞は全てがドナー由来のものに置き換わることになります。
つまり、
HIV耐性の免疫細胞系に置き換わったことで、
体内のHIVが消滅したのです。
HIV耐性のある免疫系がそのまま移植されたからなのです。
こう考えてみると、
なるほどの結果ですよね。
しかし、
この治療法は一般的には使えません。
このケースだけでの特例とも言えるでしょう。
それは何故か?
そもそも骨髄移植にはHLAと呼ばれる型が一致しなければいけません。
そうしなければ移植後に激しい免疫反応が起きて、
移植した免疫細胞が患者の組織を攻撃してしまいます。
これが一致するドナーを探す時点で大変です。
そしてその中でCCR5の変異のあるドナーを探すというと、
本当に奇跡の確率でしょう。
今回の奇跡の患者のケースでは60人のHLAが一致するドナーの中で、
主治医が更に一歩踏み込み、CCR5変異のあるドナーを見つけ出したことが、
奇跡なのです。
決して偶然起こった事ではなく、
この主治医のアイデアが類い稀な奇跡を生んだと言えます。
今の所、
この患者の体内からは現代の最高の検査を持ってしてもHIVは検出されていないようです。
HIVに関しては完治したと言ってもいいのかもしれません。
ただ、
その上でも偶然にこのケースと同様のドナーが見つかりさえすれば、
HIVに対してもこの治療を受けるべきかというと、少し難しいです。
それは、
この治療を受ける為には強力な化学療法と骨髄移植そのものに大きなリスクが存在し、
更には移植後も免疫抑制剤の内服を続けなければいけないからです。
コストの面でも相当高額になります。
抗HIV薬を飲み続けるだけでも十分に長く生きて行ける時代において、
いくらHIVが完治するかもしれないといっても、これだけのリスクを負う人はいないでしょう。
今回のような奇跡のケースは、
そういった意味では二度と現れないかもしれません。
しかし、
この結果はHIV治療法の開発について、新たな進歩をもたらそうとしています。
HIVの完治も夢ではない時代が近づいているのかもしれません。
その方法については次回にまた続きます。
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