胃ろうについて 皆さんどう考えますか? 再編版① | ある脳外科医のぼやき

ある脳外科医のぼやき

脳や脳外科にまつわる話や、内側から見た日本の医療の現状をぼやきます。独断と偏見に満ちているかもしれませんが、病院に通っている人、これから医療の世界に入る人、ここに書いてある知識が多少なりと参考になればと思います。
*旧題「ある脳外科医のダークなぼやき」

胃ろうという言葉は結構世の中でも一般的になってきたのではないでしょうか?

昨年度にNHKでクローズアップ現代か、NHKスペシャルで胃ろうが取り上げられたことによって、
患者さんの中にも胃ろうについてかなり詳しい方が増えています。

といっても、
胃ろうってなんだ?と思われる方もまだ多いと思うので、
簡単に説明します。

胃ろうというのは、体の外から胃まで直接チューブを入れるものです。

胃は体の左側、肋骨のちょうど下辺りに高さにあるので、
このあたりからチューブが皮膚を貫いて入って、直接胃の中に入ると思ってください。

皮膚、筋肉、腹膜、胃といった感じで貫く事になります。
胃液が漏れないように胃をつり上げて腹膜に密着させて固定した状態で、

チューブを貫くようになります。

いかにも痛そうにも思えますが、
日本では相当の数の胃ろうの手術が行われています。

だいたい年間20万人ほどの胃ろう増設手術が行なわれているようです。

胃ろうの患者さんはいずれ100万人を超えるなるのではないか?と言われているようです。

世界有数の胃ろう大国でしょう。

内視鏡を使うことで、

20分くらいで簡単に胃ろうが作れることになってから、
急速にこの胃ろうが作られるようになりました。

胃ろうの目的は、もちろん、
胃に直接栄養を入れることです。

口からご飯を食べられなくなった人がこの胃ろうを作ることになります。

人間が栄養をとるルートは大きく分けると、
腸管を使うルートと、他にも静脈に直接点滴で栄養を入れるという方法もあります。

静脈を使うルートというのは血液の中に直接、
糖分やアミノ酸、脂肪製剤などを入れる方法で、

太い静脈から行うものを中心静脈栄養と言います。
以前のこの記事の上でもCVカテーテルのところで紹介しました。

ただ、
やはり自然に消化管から栄養を入れる方が生理的であることは間違いありません。

当然、様々な面でこちらの方が良いとされています。

胃や小腸といった消化管は食べ物が入らないと、
どんどんと弱ってしまいます。

廃用性の萎縮と言いますが、
腸管の粘膜がどんどんと萎縮してしまうのです。

免疫力が下がるなど、いろいろな弊害が起こります。

栄養補給のルートとしては、
消化管を使うルート中心静脈栄養より優れているのです。


消化管を使うルートの場合、
胃ろうの他にも鼻から胃へチューブを挿入するNGチューブ(マーゲンチューブ)を使う方法や、

鼻から小腸までチューブを挿入するEDチューブというものもあります。

ただし、こういった鼻から入れるようなチューブの場合、
ずっと鼻から咽頭、食道とチューブが留置され続けることになります。

長期間留置してしまうと鼻の粘膜が痛んでしまいますし、

副鼻腔炎など感染の原因にもなってしまいます。

そういった点で同じチューブの中でも長期間留置を考えると、
胃ろうが好まれる事も多いです。

ただ、皆さんご周知かもしれませんが、胃ろうにも大きな問題があります。

それは、胃ろうの適応という問題です。

口からご飯が食べられなくなった方に胃ろうを作るので、

実際にどういう方が多いのかというと、
認知症の進んでしまった患者さんと重症の脳卒中の後遺症の方が多いです。

現実として、

胃ろうを作られる人の内の実に7割もが自分の意思決定の能力がなく、
回復の見込みもない状態なのです。

つまりは、
ほとんどの人が自分が決めたわけでもないのに胃ろうを作られているのです。

乱暴に言えば、
本人が望んでいないかもしれないのに、延命をさせていることにもなります。

自然界の常識で考えてしまうと、
意思決定の能力もなく食事もとれないような状態の動物が生き続けることはないでしょう。

明らかに、人為的な、ある意味では不自然な形の延命なのです。

こういった意思決定力のない患者さんの場合とは逆に、
胃ろうが最も推奨される状況というのは、どういった状況でしょうか?

それは、
本人の意識があり、意思決定ができる上で、なんらかの理由により口から物が食べられない場合です。

これはたとえば、
食道癌などの病気で食道狭窄がある状態や、

脳梗塞後で意識ははっきりしているのに飲み込む力がなくなって誤嚥してしまう場合などが当てはまります。

脳腫瘍によって下位脳神経麻痺になってしまった場合も、
チューブによる栄養の適応になりますね。

こういった状態では胃ろうは最も適切な栄養補給の方法になりますし、
最もな適応です。

回復が見込める嚥下障害というのは胃ろうが最も役に立つケースです。

また、たとえ意識がなかったとしても、
そういう状態になる前に本人の意思表示がしっかりとあれば、これもあまり疑問を残しません。

ただ、
回復の見込みなく、意識もなく、本人の意思も分からない寝たきりの方に胃ろうを作る場合、

それは
誰の心の内にも疑問を残します。

こういった場合、本人の意思ではなく、
主に家族の意思によって胃ろうを作ることが決定されます。

しかし誰も自分の家族の胃にチューブを入れたいなんて思うはずはありません。

それにも関わらず、
胃ろうを作る決断を下すのは、

「それしか方法がない」と考えるからに他なりません。

本当に胃ろうによる延命を本人が望むのか?

という問題に加え、
この問題には日本人の死生観に関わる根本的な問題が含まれているように思います。

皆さんはこの胃ろうの問題をどう考えますか?

次回も、胃ろうにまつわるその他の問題点などについてもう少し書きます。

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