どれくらいの確率で破裂するの? 未破裂脳動脈瘤について② 再編版 | ある脳外科医のぼやき

ある脳外科医のぼやき

脳や脳外科にまつわる話や、内側から見た日本の医療の現状をぼやきます。独断と偏見に満ちているかもしれませんが、病院に通っている人、これから医療の世界に入る人、ここに書いてある知識が多少なりと参考になればと思います。
*旧題「ある脳外科医のダークなぼやき」

前回から脳動脈瘤の話をしてます。




今回は手術の適応の話などにすると書きましたが、


その前にとりあえず、


脳動脈瘤ってどれくらいの頻度で発生するのか書こうかと思います。




まず、男女どっちがおおいでしょう?


これは女性が男性の2-3倍も多いんです。





そして、あるデータによると


50-60歳代の成人の約6%に動脈瘤があるということがわかっています。




60歳代の女性では9%程度とするデータもあるので、


実は思っているよりも、結構頻度の高い病気です。




10人に1人くらい、ということになりますね。




歳をとればとるほど動脈瘤の保有率も増えるようです。。




また、ある種の遺伝病で動脈瘤が多い病気もありますが、これはかなり稀です。


有名な例として、


多発性嚢胞腎症という病気の方は動脈瘤をもつ頻度が25%とも言われています。




さて、


実は結構みんなが持っているこの動脈瘤ですが、


破裂率はだいたいおおざっぱに、


年1%くらいと前回書きました。




ただ、これは大きさによって変わってきます。


ISUIAという国際的な動脈瘤の研究によると、もちろん場所によっても変わりますが、


7mm以下では、年0.5%前後。


7-12mmで 年0.5-2.9%程度


13mm-24mmで3%前後


25mm以上だと6-10%程度


というデータがあります。




要は大きければ大きいほど破裂率は高いんです。


当たり前のように思えますね。




あとは生活習慣としては、高血圧や、喫煙が破裂のリスクとなったりします。




動脈瘤がある、といわれた方は、


塩辛い食事やタバコは厳禁なわけです。




また、これらのデータは世界的なものですが、


日本人に限って言えば、


だいたい年間破裂率1.9%くらいというデータがあります。




なんとなく、2%前後とするデータが多く、


欧米人と比べて、


日本人の方が破裂しやすい傾向があるようです。




実際に外人の手術をする先生に言わせると、


「向こうの人間は血管も太いし、壁も厚い!だから動脈瘤も頑丈だ。


比べて日本人は血管が細く、繊細で薄いから、手術も難しいんだ!」




ということだそうです。


だから日本人は動脈瘤の破裂率が高いんでしょうか。




せめて日本人でも血管が丈夫ならいいのに、


という感じですね。




さて、


次はやっと治療の話となりますが、


治療には手術によるクリッピングと、血管内治療によるコイルの二つの選択枝があります。


だいたい、こんなイメージです。




クリッピングは名前の通り、


外からクリップで動脈瘤の根っこを潰してしまう治療です。


うまく根っこだけ挟んで潰せば、動脈瘤だけを潰すことができます。




一方で血管内治療によるコイル塞栓というのは、


この動脈瘤の内部にコイルを巻いて詰めてしまって、動脈瘤を潰します。




外からの治療と、中からの治療といった違いです。




Boston scientificさんのpageから画像は拝借しました。


↓クリッピング




ある脳外科医のダークなぼやき



↓コイル塞栓術




ある脳外科医のダークなぼやき





どちらが優れているか?




ということに関してはいまだに議論が続いているような状態です。




2003年に血管内治療のコイルがクリッピングに勝るという研究結果が発表されましたが、


これにはいろいろ問題が多く、いまだに結論は出ていません。




ただ、


一つ言えることとして、


クリッピングは昔からある、ある程度信頼のおける治療法であり、


いまだに少なくとも日本ではスタンダードです。




コイルはここ10年程度で急速に発達しており、


今もどんどん道具が改良されてきているので、今後も結果はより一層よくなると思われますが、


なんといってもまだ新しい技術なので、


ほんとに長期的に大丈夫なのか?ということに関しては誰もわかりません。




コイルのほうが傷もないですし、圧倒的に患者さんの負担は少ないです。




すぐに日常生活に戻れますし、


入院期間も短く、上手くいけば患者さんは楽な治療です。




これは間違いありません。




しかし、


たとえば動脈瘤を破ってしまうなどのアクシデントがあったとき、


コイルの場合は急には対応できません。




手術であれば、


動脈瘤は目の前にあるので、こういうときも血を止めることができます。




そういう意味でコイルはある意味、ハイリスクではあります。




今のところどちらも一長一短です。




しかし、そもそも、


クリッピングにしろコイルにしろ、もろに術者の力量の影響を受けます。





エキスパートのクリッピングなどはこういった平均データに比べても全然安全ですし、


結局、術者の力量次第なところもあって、


一概に平均的に見てデータでどっちが優れているとは言えない世界なんだろうとおもいます。




こういったことを踏まえて、手術適応や手術の話などは


次回に続こうかと思います。




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