今回は前も少しこのシリーズで書いた癌性髄膜炎という病気の話です。
この病気は以外にもあまり認知されていない病気だったりします。
他の臓器の癌が脳転移した場合や、
脳原発の腫瘍のどちらでもこの癌性髄膜炎という状態は起きます。
基本的には進行癌の状態で起きる病気なので、
終末期の病気と考えていただいた方がいいかもしれません。
ところで、
この、終末期という言葉はよくないということで、
ある有名な先生は有終の医療と呼んでいるらしいです。
いい発想ですね。
しかし、この癌性髄膜炎となってしまうと、
残念なことに一般的な感覚では有終の美とは程遠くなってしまうのかもしれません。
というのも、この癌性髄膜炎という病気は、、
末期の患者さんの生活レベルを非常に大きく損なう病気なのです。
そして、
非常に残念なことに、
この癌性髄膜炎という状態、実際にはかなりの頻度で癌の末期に起こっているのですが、
実は医療関係者の中でもかなり認識が薄い病気です。
しかし、
きちんとした治療が行われれば、症状の進行を止めたり、
余命を伸ばすこともできる場合があります。
では、
この癌性髄膜炎ですが、一体どのような状態なのでしょうか?
簡単に言えば、脳や脊髄の表面に癌細胞が増殖し、
脳や脊髄をおおっている髄液の中に癌細胞がたくさん浮かんでいるような状態です。
前に脳はパックの水に浮かんだ豆腐のような物だと書いたことがありますが、
この水の部分に癌細胞が浮かんでいて、脳の表面全体に転移するような状態です。
もちろん、髄液中の癌細胞が生着してそのまま固まりを作ったりもします。
症状はさまざまです。
しかし、脳の重要な神経は全て表面から出て行きますし、
脊髄からの神経も全て表面から出て行くので、これらが侵されます。
それによって最も多い症状が脊髄からの神経への影響で起きる、
痛みです。
頭痛も起きますし、
大半の方が精神的な症状も起こします。
さらには半数近くで麻痺などの筋力低下まできたします。
また、膀胱直腸障害といって失禁、失便してしまうようにもなり、
これは相当に患者さんの生活を落とします。
突然失禁したり失便してしまうようになってしまったら、
外出することもままなりません。
というわけで、発症すると、
極端に患者さんの生活を落としてしまいます。
さて、
かなりの頻度で実は起こっていると上に書きました。
では、どのくらいの頻度なのでしょうか?
癌と診断された患者さんの中で癌性髄膜炎と診断されるのはわずか5%です。
しかし、亡くなった人の解剖例などからでは、
おおよその癌患者さんの20%程度で癌性髄膜炎を起こしていたという報告もあります。
つまり、
癌でなくなった方の15%は癌性髄膜炎を発症し、
たとえ上に書いたような症状が出たとしても気づかれずにいるのかもしれないのです。
癌の末期だからいろいろな症状が出ても仕方ない、
といったように済まされてしまうことも少なくないのでしょう。
つまり、
進行を防ぎえる状態であるにもかかわらず、
認識されていないがために、放置されることが多い病気なのです。
これはとても残念なことです。
もちろん、元の状態や元の癌の種類にもよりますが、
癌性髄膜炎は発症してから未治療の状態では余命は平均で6週間程度と言われています。
あくまで平均としてですが、2ヶ月もないのです。
しかし、
治療が行われて、その治療が効けば、
長くて6ヶ月から1年弱までその余命を延ばすこともできると言われています。
治療によってすでに出現してしまった麻痺などを改善することはほとんどないとされていますが、
進行は止める効果があるようです。
そういう意味では、
これこそ早期発見が最も重要なのです。
診断は症状の聴取、MRI、髄液の検査などで行いますが、
なにせ医者の間でもあまり認識されていなかったりするので早期発見されることは少ないでしょう。
治療には放射線療法と、抗がん剤を髄液に直接注射する髄注療法、
全身化学療法の3つがありますが、
ここでは脳外科の関与が多きい髄注療法について書きます。
ちなみに、髄注療法や全身化学療法で、一番多く使われているのはメソトレキセートという薬です。
ただ、この抗がん剤を髄液に注射するやり方は、
脳の表面から1mm程度までの浅い癌細胞にしか奏功しないため、
固まりを作った場合などは放射線療法となります。
このメソトレキセート髄注の奏功率は報告にもよりますが、60%程度とする文献もあります。
もちろん、元の癌の種類にもよるのですが。
しかし、この治療。
行っている病院はまだ少ないようです。
それは、
実際にこの治療を行うにはいくつかのハードルがあるからです。
長くなってきたので、次回に続きます。
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