3.0 概要 | 竹内芳郎の思想

3.0 概要

 彼が<世界史の現況のなかでマルクス主義そのものの再検討をはじめた>時代と名づけたこの時期(1968年頃から1975年頃)は、彼の研究生活において最も多産な時期であり、ほとんど切れ目なく、多方面にわたる充実した論考を発表し続けている。そして、この時期の最後にまとめられた『国家と文明』は、戦後間もない頃から始まった彼の思索の歩みにおいて、明らかに一つの集大成をなすものとなるのである。
この時期の主な仕事は、三つの政治論文集(『国家の原理と反戦の論理』(1969年)、『国家と民主主義』(1975年)、『現代革命と直接民主制』(1976年))、それと近い系統にはあるがやや特殊な性格をもつ論文集『課題としての<文化革命>』(1976年)、言語論『言語・その解体と創造』(1972年、増補版1985年)、そして『国家と文明』(1975年)、である。
 これらの多様な方面にわたる仕事を、前章に引き続き、①マルクス主義研究、②文化革命への道、③日本的現実および時代との対決、という系統に分けるならば、ごく単純に割り切ってしまうと、①には『国家と文明』が、②には『言語・その解体と創造』および『課題としての文化革命』が、③には三つの政治論文集が、それぞれ該当すると言えるだろう。しかし、この時期においては、これらの仕事は深く交錯してゆき、とりわけ①と③の課題は、マルクス主義研究の深化をつうじて発掘した<直接民主主義>思想、および、それを中心とした新たな革命思想の形成に向けて収斂してゆく。また、②と③の系統も深い結びつきをもっており、特に『課題としての文化革命』所収の論文「大学闘争をどう受けとめるか」は、日本的現実との対決という課題そのものに取り組んだものであるとも言えるだろう。そして、これらの思索の集大成が『国家と文明』だったのであり、これは次の時期の『文化の理論のために』と並んで、彼の主著をなすものとなるである。こういった次第であってみれば、これら三つの系統の仕事を単純に分けてしまうことは、場合によっては不適切であるかもしれないのだが、ここでも全体の見通しを良くするために、前章と同じ区別のもとで、彼のこの時期の思索の歩みを紹介してゆこうと思う。