UNIQLOの進撃が止まらない。平成大不況も、どこ吹く風とばかりの絶好調は、創業60周年を、ありがちな単なるアニバーサリーイベントで終わらせることも許さない。
昨日、授業で、学生を連れ、ラゾーナ川崎に入るUNIQLOのフィールドワークに向かったが、神奈川県内最大規模を誇る同店内では、およそ十分なリサーチ活動など、その混み具合に阻まれた感が強い。
それにしても凄い。フル稼働するレジカウンターには長蛇の列が連なる。並ぶことの嫌いな私には全くもって理解を超えた現象だ。立ち止まってレジの金額表示をじっと見ていると、5,000円~19,000円の間に、殆どのお客の買い物はおさまっている感じだが、手に持つ店内かごはどのお客も、大体8割方の埋まり具合。
5,000円越え、そう、5,000円以上買うと、60周年記念(10億円還元キャンペーン)で、合計10万人に当たる1万円のキャッシュバック対象になるわけだ。であれば、買わないと、というモチベーションもあるし、折角並ぶんだから少々の買い物じゃあつまらない、という意識も働くのだろう。
逆にろくすっぽ買うものがなければ、無理して1点掴んでレジ待ち長蛇の列に加わる勇気も、決して生まれないと思う。
そんなお店の前に立ち、5分間出てくる客の数を調べたら、70人。その内、UNIQLOの買い物袋をもっている客が15人。みな一様にでかい袋を持っていた。約2割強の購入だ。
一方ほぼ同時刻、同じラゾーナに入るGAPでも同じ調査をしてみたら、出てくる客が38人。内、GAPの買い物袋を持っている客は4人だった。約1割強。
ちなみにGAP店内でスタッフを注視すると、「こんにちは」から始まり、「こちらの商品○%引きです」と商品片手にいきなりの出迎えスタッフも。商品をさわっている客にはすかさず、「他のお色もありますよ」「サイズお探ししましょうか?」「奥に50%OFFの○○もありますよ」とニッコリ笑って声をかけている。
UNIQLOでは、接客は必要最低限。商品整理と品出しが主たるジョブになっているようで、聞かれない限り、ポジティブに働きかけることもない。むしろ単位面積あたりにスタッフが少なすぎるくらいだ。
私としては多少相手をしてくれるようなGAP的な接客の方が好みだが、余計なことは言われたくない、という人にとっては、UNIQLOは余計な接客ストレスと無縁なわけだ。ま、この日のUNIQLOにとっては、実際には気の効いた接客をする人的余裕が皆無とも受け止められたが。
それにしても客数も購買率もUNIQLOが圧倒してしまうのは、やはりイノベーションを怠らず、ヒートテックのような新機能を毎シーズン投入し、大きくなってもベンチャースピリッツを忘れない、メーカーとしてのUNIQLOの強さなのだろう。
そこにもってきて、60周年だから、感謝を込めて10億円還元します、という潔さ。還元セールといいつつ、値引き商品を増やし、結局は買いなさい、的オーラ満開の、よくある百貨店の手法とは一線を画している。実に、レジで1万円をもらう客が出現している、リアリティ満載の還元方法は、人の心にきっと響くと思う。
「服を変え、常識を変え、世界を変えていく」という目標のもと、これからも、服の力で、世界中の人の生活や人生を豊かにしていきたい。その決意の表れとして、わたしたちの感謝の気持ちを、少しではありますがお返しさせていただこうと思います。(UNIQLO 60周年記念企画の詳細情報より)
こうした決意こそが、真のブランディングにつながっていくのだろう。アパレルを売ってはいるが、ファッションを売っているわけではない、という気概が上の文から伝わってくる。世界中の人の生活や、人生にコミットしていこうという、まさにコアビジネスを通じた社会貢献意識は、企業の社会貢献の王道だと思う。
外付けデバイス的にとってつけたようなCSR活動、なんていう話ではなく、コアな仕事で堂々と貢献。これこそが21世紀の企業に求められる姿勢と信じて疑わない。ホームページのメニューから、デコレーション的に設けられた「CSR活動」の項目が消え、企業の理念や生き方そのものに社会貢献の文脈が普通に編みこまれていってこそ、企業はゴーイングコンサーンに向かっていくものと思う。