如月安寿の華麗なる異世界。

如月安寿の華麗なる異世界。

ちょっとズレた世界へようこそ。
あたしはいつもここであなたを待ってるわ。

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~帰郷~


お久しぶりね。元気だった?

久々の実家ね。

少し痩せたんじゃない?

ごはんちゃんと食べてる?

彼氏は出来た?

ごめん。今のなし。

あたし?相変わらずよ。

平々凡々。刺激も希望も無いけど

それなりにまぁ生きてるわ。

ねぇ。あなたのお話し聞かせてよ。

離れていた間の事。

昔はいっぱい話してくれたよね。

お月様一緒に眺めながら。

あなたはいつもひとりで喋って

泣いて怒って泣いて最後に笑って

そしてありがとう。って眠りに就いた。

あたしはあなたが小さな寝息を立ててから

そっと毎晩囁いた。

おやすみなさい。ってね。

ねえもう夜よ。明日には帰っちゃうんでしょ。

あなたが言う戦場へ。

お月様も待ちくたびれてるわ。

二階に上がる階段の聞き慣れた足音。

やっと解放されたのね。待ちくたびれたわ。

お母さんという生き物はお喋りが大好きでなかなか

放してはくれないからね。

お母さんもきっと淋しいんだね。

行ってらっしゃい!頑張れ!!って言いながら

あなたが出て行った後にこの部屋に来て

窓を勢いよく開けて歌を歌って

掃除機当てながら少しだけ泣いているの

あたし知ってるんだから。

彼女には言わないけどね。

あなたは電気も点けずにあたしを抱き締めた。

ねえ。何で泣いてるの?

ねえ。何で何も言わないの?

ねえ。何で。

あなたの涙はいつからこんなに

汚れてしまったの?

あたしの知らないあなた。

あたしを抱き締めたままあなたは眠りに落ちた。

おやすみも言わずに。

お月様も見ずに。

いいのよ。ゆっくりおやすみなさい。

今夜は。

小さな物音にも怯える事無く。

戸締まりや火の元も大丈夫よ。

朝がくるまで。あたしがあなたを守っててあげる。

あたしは薄汚れた大きなピンクのブタのぬいぐるみ。

あなたについて行きたいけど

ちょっと無理ね。

だからここに帰ってきたとき

あなたを魂ごと抱き締めてあげる。

そして

あなたの苦悩と悲しみを貰って

あなたに優しさと強さを与えるわ。

そしてその小さな胸が爆発しそうになったら

またここに戻っておいで。

あたしが全部貰うから。

おやすみなさい。

今夜はゆっくり。

朝日が迎えに来るまで。

明日が迎えに来るまで。