如月安寿の華麗なる異世界。 -2ページ目

如月安寿の華麗なる異世界。

ちょっとズレた世界へようこそ。
あたしはいつもここであなたを待ってるわ。

~ショッピングセンター・3~


顔はしわくちゃ。関節は軋む。腰が痛い。白髪だらけ。

老いてゆく。目に見えて。

でもあなたもあなた達も何も変わらない。

怒り、悲しみ、傍観し、慈愛に満ちている。

ああ。あなたはあなた達は何も変わらない。

あたしだけが変わってゆく。

ねぇ。あたしが死んだら。

あなた達はどうするの?

怖くて聞けない。

彼の話が本当ならきっと生まれ変わる事が出来るんだろう。

綺麗な魂になってもう一度この世に生として

産み落とされるのであろう。

でも。きっと生まれ変わってもあなたには逢えない。

あなたは生まれ変わる事を拒否してここに居るから。

きっと永遠にここにいるんだろうね。


ねぇ。

この銀色のドアの向こうはどんな世界になっているんだろう。

死ぬ前にもう一度ショッピングセンターを歩こうよ。

膝が痛いからゆっくり歩こうよ。

ねえ。行こうよ。

何で行かないの?行きたくないの?

じゃあひとりで行くわ。ちょっと行ってくるね。

ドアノブに手をかける。

何十年も口を利かなかった少女が口を開いた。

ねぇ。あなた。幸せだった?

あたしは目を丸くした。

当たり前じゃない。彼と一緒にいれたのよ。

それだけで十分じゃないの。

ホントにそう思ってる?

ホントは温もりとか未来とか欲しかったんじゃないの?

そりゃ彼に触れることは出来ないし勿論子供だって

つくることも出来なかったけどそれでもあたし

幸せだったわよ。

そう。それがあなたの幸せ。

でもね。普通の女の子の幸せじゃないよ。

くだらないわ。普通って何?

100人が同じことをすることが普通で

一人が違うことをするのが異常なの?

それならそれでいいわ。

あたしはあたしの幸せを追求したのよ。

それが異常と言いたければ言うといいわ。

この言い方は違ったね。普通っていう言い方は変えるわ。

本来。

本来あなたはどうしたかったの?

僕が生きてるとか死んだとか問題抜きで。

本来。

本来あたしはあなたと未来をつくりたかった。

キスして抱き合って同じものを食べて

傷付けあってでも許し合って。

可愛い子供を育ててその子が結婚してまた子供をつくって

そしてどちらかを見送って

最後に一緒のお墓に入りたかった。


そう。それがあなたの本心。

あなたは未来が欲しかった。

過去に捕らわれる事で自分を抑えていた。

抑えるんじゃない。逃げていたのよ。

過去は優しいからね。

ねえ。

今更何を言っても遅いわ。

後悔先たたずって言うじゃない。

あたしはこの道を選んだ事は後悔していない。

彼を愛して彼と過ごして彼を理解して

何もかも受け入れて一緒に暮らしてきた。

あたしの愛は誰にも理解出来なくてもいいの。

自分の愛はきっと自分の中でしか生きられないし

万人に受け入れられる事は無いからね。

あたしは十分愛したし愛された。

もうそれだけで十分なのよ。


あら。やだ。話し込んでいるうちにお店が閉まっちゃうわ。

ちょっといって来るね。

行ってきます。


銀色のドアの向こうは光の渦だった。

眩しい。久しぶりのドアの向こう側。

ありがとう。サヨウナラ。

背中に少女の声が聞こえた気がするが

喧騒にかき消されていった。



あたしはショッピングセンターの廊下に立っていた。

何だろう。あたしなんでこんな所に立ってるんだろう。

とてもとても長い時間どこかに居た気がするけど。

なんでコンナニ清々しいんだろう。

ああ。チョコを買いに行こう。予備がないと心細いもんね。


ショーケースに並べられたチョコ。

一番好きなナッツ入りが残り一個になっている。

これください。

誰かと同時に言う。店員が困っている。

ふと隣の男性客をみる。彼もあたしを見た。

ああ。そこには懐かしい顔があった。

死んだ彼氏によく似た顔だった。

そう思ったのもつかの間。

彼は敵意を剥き出しにしてあたしに譲れと言い放った。

あたしもついムキになり

その顔でそんな事を言った事に腹が立ち

こっちが先に店に来てたのだから優先順位はあたしになると

大きな声を出してしまった。

すると。彼はいきなり銀色の細長いモノをあたしの

脇腹に突き立てた。何度も何度も。

叫び声と朦朧とする意識の中であたしは遠い夢を

思い出して血の味のする口で呟いていた。



ねぇ。あなた。誰と取引をしたの?