オタク5 | クドのわふわふ>ω</ブログ

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作詞や作詩、たまに小説書いたり論文書いたりしてます

手をもじもじさせて恥ずかしそうに見る御月。さっきの言葉は小さくて聞こえなかった。
「でもさ、楽しいよね」
「え?」
 御月は顔を赤くして顔を背ける。そして俺に顔を合わせずに話を続ける。
「私、こんな経験したこと今まで一度もないんだ。大人しいというポジションが最初から決まっていて、クラスメートに遊びに誘われても断るしかなかった」
「…………………………」
 無言無表情で俺は青いかき氷を口に入れる。
「本当はプール、映画、バーベキュー、他にもたくさん友達としたかった。あの時の私は何一つ出来なかった。でも――」
 重い昔話をしているはずなのに、彼女の声は明るかった。
「――今日初めて友達とそれが達成出来た」
 奇麗な彼女は奇麗な笑顔をする。その笑顔に俺は思わず魅了されてしまった。オタクの女の子に魅了されたのを否定したかった自分がそこにいた。
「まだウォータースライダー一回しか遊んでいないだろ」
 御月は一度のウォータースライダーで気絶したので、プールでは一度のウォータースライダーで遊んだこととかき氷を食べたことしかしていない。
「うん、確かにあれしか遊んでいないね。でも満足だよ。私はもうこれ以上望んでは駄目な気がするんだ」
 御月はどこか嬉しそうでどこか寂しそうだった。
「そんなことねえよ」
「そうなのかな?」
「当たり前だ。俺はこれからも御月や仔那珂と一緒に遊びたいと思っている。さっき言っていた映画、バーベキュー以外にももっともっと」
 前を向いて強く俺は言った。今日はまだウォータースライダーしかしていない。でも、皆と来られるだけで面白かった。だからこういう機会を今日で終わらせるのは勿体ない。こんな機会はこのプールで終わらしたらいけないんだ。
「ははは、和磨は非オタクじゃ無かったの? だってこのプール何から何まで萌が取り入れられているよ。建物から料理まで。このかき氷もメイドさんが描かれたカップが使用されているし」
 そして御月は、メイドさんが描かれているかき氷のカップを目の前に突き出す。
「確かに俺も自分自身が分からない。オタクはまだ受け入れられないけどさ、昔よりは良いものと考えているよ。オタクの人って全員が電波なことを口にするだけの人種と思っていたんだ。でも違う。夢を持っているんだよ」
 かき氷を床に置き俺はしみじみと話す。
「夢?」
「砕けた言い方かもしれない。でもオタクの人って熱意があると思うんだ。ファミスちゃんは俺の嫁とか声優ラブとかそれに対する熱意が強い。だから俺はそこが凄いと思う。俺は熱意すら無いんだから」
「少し認めた?」
 御月は穏やかな性格に珍しいちょっかいを出す。
「ほんの少しだけだよ」
「あはは、本当?」
「本当、本当……ってどうした?」
 媚笑を浮かべ肩を寄せる御月。
「和磨君、知っている? オタクや大人しい子ってさ……少しでも優しくしてもらうと他の人以上にその人のことが気になるんだよ」
「あはは、御月もそうなのか?」
 俺は朗らかな気持ちになり笑う。
「うん……って何も分かっていないでしょ。客観的ね」
「え? いや、オタクと大人しい人は普通の人以上に恋に落ちやすいんだろ」
「むう………やっぱり何も分かっていない……(この鈍感)」
「あははは、はは(何かマズイこと言ったかな?)」
 間を持つ為にとにかく笑い続ける俺。
 そんな俺達を見て仔那珂は浮き輪を投げてくる。
「何ヘラヘラしてんのよ、和磨! さっさと泳ぐわよ。御月も」
「呼ばれているよ、和磨君」
「お前もな」
 二人顔を合わせ更に笑う。
「兄ちゃん急いで! 波がもう直ぐ来るよ!」
「御月も急いで」
 俺は床に濡れて落ちている浮き輪を手に取り、ザブンと波のプールへ入る。その後に御月が続くように入る。
 そして俺は景気の良い声で三人に言った。

「さあ、もうひと泳ぎしますか!」
「楽しかったか、光河?」
「うん、兄ちゃん」 
あれから俺達は波のプールを楽しんだ。その後に流れるプールで身を任せ、最後にプール売場で売っていた水着ショップで時間を使った。二人の水着の試着は似合っていた。そして弟も試着したわけで…………それは凄く似合っていた。女物の水着が。
そして楽しいプールも終わり、現在俺と光河は帰宅中である。今は明るくもないが暗くもない。何かに例えることが出来ない微妙な明るさだ。
 弟(鬘を被って女装モード)は純真の笑顔を俺にする。
「そうか。そいつは良かったな」
「うん!! 次も連れて行ってね」
「はは、そうだな……って連れて行くわけない。今回はお前が勝手に尾行してきたからプールに入れてやったんだ。しかも俺の自腹だしな」
「ケチ――、じゃあ次もこっそりついていったらいいのかな」
「ははは、って止めろよ」
 微笑を浮かべる俺。子供の考えていることは意外と盲点をつくので面白い。またもう一度ついていったら仲間に入れてもらえるという発想。光河が考えそうなことだ。
 でも今日は本当に楽しかったな。コスプレ好き(女装)の弟、BL好きの仔那珂、幼女とコス好きの御月、三人と一緒に行ったプールは楽しかった。前の夏に末代や街部と普通のプールに一緒に行った。その時も面白かったけど今日は今日でいつもと違って新鮮だった。やっぱりプールは良いな。
「ふっ……」
「どうしたの、兄ちゃん、気持ち悪いよ、いきなり笑ったりしたら」
「馬鹿言え。光河」
 勘違いしていたのかもしれない。オタク文化は最悪なものだから無くして欲しいと。でも実際はオタクと遊んでも素直に笑えたし本当に楽しかった。
 …………本当どうかしている。オタクを嫌いと思う自分が消えているなんて。
「はは、あはは」
「兄ちゃん……笑茸でも食べた?」
 弟(仮)は俺のことを白眼視する。
 しかし、俺の自分の中の大事な整理は続く。
 もしかしたら俺はもう非オタクでなくなっているのかもしれない。オタクを嫌いという気持ちが今は浮かばない。ということは………………、
 自分が分らなくなって混沌していると、聞き覚えのある声が掛かる。
「あれ、和?」
「和磨じゃねえ?」
「ん? ああ、街部と末代か………奇遇だな(良かった)」
 ラフな服装のクラスメートに偶然遭遇する。
内心ほっと安心する俺。もしも御月と仔那珂がいたら大変なことになる。次の日に顎にパンチをお見舞いされるかもしれない。
しかし、安心をするのはまだ早かった。
「和、やけに可愛いお嬢さん連れているな」
「………君は和磨とどういう関係なの?」
 二人は興味津津に俺の弟を見る。二人の眼には女の子しか映っていない。それもそのはず俺の弟は童顔の女顔、白髪の鬘にスカートを穿いている。これで女に映らない人間は中々の眼力があるといえよう。
 しかし、どう言い訳しよう? こいつは俺の妹だ! と言いたかったんだがこいつらは俺の兄弟構成を知っている。勿論オタクの事実は教えていない。教えたら絶交は無いだろうが今のように柔和な会話は出来ないだろう。
 従ってここは親戚辺りの言い訳が妥当だろう。
 質問が俺でなく、光河に対してなので俺が口を出すのはよくないだろう。
「(光河分かっているよな?)」
 親戚と言え! オタクとはバレたくないだろ!
 こくこくと頷く弟。
耳打ちをすると怪訝な目で見られて怪しまれるので、俺は眼で訴えかける。大丈夫だ。兄弟は意思疎通が以心伝心レベルで出来るのだよ。ふふふ。
「で、結局和の何なの?」
「もしかして和磨の親――」
 二人は眼をキラキラ輝かせて聞く。
「(さあ言え光河! 日常は我々のものだ!)」

「私は恋人です♪」

「「え?」」
 最初は街部と末代の一文字だった。
そして俺が遅れて同じ一文字を口にする。
「え?」
 何を言っているんだ、光河? 悪ふざけが過ぎているぞ。そんなことを言ったらこの馬鹿達は…………。
 恐る恐る彼らの表情を伺うと、彼らは怒りのオーラに包まれていた。赤と黒が波になっているようなオーラ。
「あの…………」
「和磨あぁぁぁぁぁぁぁ――――――――――!」「和うぅぅぅ―――――!」
 弁解する前に怒鳴られる俺。二人は目を黒くして拳を固める。
 そして近づいてくる街部と末代。
 少しずつ、少しずつ、
 その拳を俺に振りおろそうと近づいてくる。
「え……ちょっ………おい、嘘だ。これには理由が……」
 顔から汗がだらだらと出てくる。そして両手を前に出して説得しようとする自分。
 しかし、近づいてくるその拳。
「和磨あぁ……」「和うぅ……」
 ぐっ……仕方ない。ここは真実を告げるのみ。
「そいつはオタクで女装趣味の男だ! だから俺はそんな奴を恋人にする気はさらさら無いしそれに………俺は女が好きだ!」
 女好き発言は問題のような気もするが今はその後のことなど考えん。今大事なのは今を切り抜けること。ただそれだけ。
 そして俺の真実を聞いた二人は光河を指差す。
「和磨………俺はがっかりだ。こう見えて俺はお前を買っていたんだ。学校でも学校外でもお前を買っていたのに…………とうとう嘘をつくとは。こんな子が男な訳ないだろ。常識の範囲内で嘘つけや」
 街部が俺に対し失望の念を見せる。そして彼の拳はぷるぷると震えていた。
あれは力入れているな…………。
「違ぅ」
「和……僕も呆れたよ。オタクはふくよかな体型。眼鏡でアニメの絵が描かれたリュックやトートバッグ持つ人でしょ。……それにこの子が男な訳がない。だってスカート穿いて髪も白髪ロングだ。誰が見ても女の子決定」
「違ぅ」
 確かに俺も昔は末代のようなオタクへの偏見を持っていた。でも実際は違う。御月や仔那珂のようにすらっとしていてマドンナ的存在の人もいるんだ。それとな、お前らがどう言おうとそこにいる光河は男だ。
 そして更に続く俺への呆れ声。
「ロリコンは無いわ。このクソオタク」「しかも恋人……引くわぁ」
 二人は俺へ更に接近し、拳を振りおろすと俺の顔面へと当たる距離になった。
「あの……お二人とも………これには訳が」
 つい敬語を使ってしまう俺。
 そして俺は最後の悪あがきで弁明をしようとした。
 二人はにっこりと笑う。
「え?」
 そしてその刹那、俺へと悲劇が舞い降りた―――

「「問答無用!!」」

 ―――痛みという確かな衝撃と変えて。
 これも全て女装趣味の光河のアドリブのせい。ラノベ的アドリブしやがって………。
「オタクなんて嫌いだああああぁぁぁぁぁぁぁぁ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――!」
 そして、非オタクの叫びは、帰り道を駆けて行った。
「来たあぁぁぁぁ―――! ショタラブセレクションの愛輝くんのフィギュア! これ予約無しだと中々見つからないよ!」
「予約してなかったの?」
「うん、色んなフィギュア見ていたら忘れていたの………あたしとしたことが本当に迂闊だったわ」
「そうなんだ。でも私は小さい男の子のフィギュアは興味が無いな。私はこっちの幼女コーナーに置かれているフィギュアに興味あり」 
現在俺達が立っている秋葉原店にはフィギュアだけでなくアニメ限定カードやゲーム、ライトノベル、漫画、グッズと様々なものが置かれている。しかし、最新のものは置かれていない。最新の物や特典がつくものは大体アニメイト、とらのあな、と言った有名店である。
 その秋葉原店のフィギュアコーナーでぴょんぴょんと飛び跳ねて喜ぶ仔那珂。そしてその近くの幼女コーナーで仕切られているフィギュアを眺める御月。
 それは無邪気で可愛い笑顔だった。
「愛輝くんのフィギュア高いけど………あたしのモチベーション上げる為には仕方ない出費かな?」
「ああ、この幼女戦士フィギュア完成度低い………絵師さんの足引っ張りすぎ!」
 無邪気且つ純真無垢でフィギュアを眺める二人。
 別にそれは良い。趣味なのだから。
 ただ、
 一つ聞いていいか?
「何で俺もここにいるの?」
 ぽかーんと立っている俺。その問いに二人はフィギュアを眺めたまま答える。
「和磨に荷物持ちをさせる為」
「和磨君にオタクの素晴らしさを知って貰う為」
「はあ?」
 訳が分らない。
 俺がオタクに理解を示すはずないだろう。前のプールの帰りに思い知らされたよ。その後の悪友二人との状況は、メールで何度も説明したけどまだあの二人はロリコンと俺を罵って怒っている。夏休み中にはどうにかして誤解を解きたいものだ。
仔那珂に『買い物に一緒に行こう』との電話の着信音で起こされたと思ったら、まさかこんなことに巻き込まれるなんて。服屋で服の買い物を持たされるならまだいい。だけどこの場所で待たされるのは酷だ。仔那珂のメールに『勿論、勿論、勿論』とテンションマックスで送り返した純情がバカみたいだ。
店内の時計は十二時二十五分を差している。そして今日の日付は八月十三日。
「ああ、これも買おうかな……」
「可愛いな、幼女戦士のリフリーちゃん。買おうかな~? でもミルクちゃんのバージョン変化後も欲しい………」
 二人は時間を気にせず、次々と標的を変える。
「………………あの、そろそろ昼食にしませんか?」
 現在我が腕は二つの買い物袋でいっぱいになっている。その買い物袋は黒くて中身が見えないようにしているのだろうが、アニメグッズが飛び出しているのでカモフラージュを成さない。
「う~ん、もう腹減ったの、和磨?」
「うん、うん、うん、腹が減って死にそうだ」
 正直腹など減っていない。でもバッグ持ちで疲れた腕を休ませるには良い休憩時間だ。
「うん、あたしは賛成。御月はどう?」
「私も構いません」
 二人がそう言ったので俺は安心して腕の力が抜ける。
 そして、
持っていた袋が店の絨毯に強く打ちつけられる。
「ああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ―――――――――――――! ムキショタ3・5の番外編ゲームが入っているのに!」
「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁ―――――――――――――! 幼女戦士のミルクちゃんのミルク装備のフィギュアが入っているのにぃ!」
 二人は俺に怒りを向ける前に、打ちつけられた買い物袋に駆け寄る。幸い二人の心配する物は傷一つついていなかった。
「ああ、良かった。傷一つついてない」
 しかし、打ちつけたのは事実。変わることのない過ちである。
「和磨…………」「和磨君…………」
 二人は怒りの視線を俺に向ける。そりゃあ当然である。
「二人とも結果オーライだ」
 引きつった笑顔を二人に送る。
 すると仔那珂は一学生に厳しい言葉を俺に送った。
「和磨、飯代あんた持ちね」
「え!?」
「え、でも仔那珂さん……それはちょっと和馬君が………それに今日は……」
 今日? 今日がどうかしたのかな?
「(御月!)」
「(ああ、ごめん。仔那珂さん。つい……)」
その言葉を聞き、仔那珂は御月に耳打ちをする。何を話しているんだろうか?
「大丈夫、大丈夫。和磨は太っ腹だから」
「そうなんでしょうか?」
 二人はあろうことか飯代を俺に奢らせようとしている。
 そんなのは嫌だ。と口には出せない。仔那珂のあの怖い笑顔を見た瞬間に。
 だから俺はいつも通りヘたれを継続するだけ。
「俺に任せなさい」
 その時の俺の笑顔がぎこちなかったのは言うまでもない。

 昼食を取る為に訪れた場所はメイド喫茶ラブ☆メイ。ここは人も来ない隠れスポットなので安心して昼食を取れる。しかし、値段が高いことに付け加えて雰囲気に馴染めない。ここは本当に適当な場所だったのか?
 馴染めない理由は勿論この環境。
 玄関先で掛かるメイドさんからの挨拶。
『『『お帰りなさいませ、ご主人様、お嬢様ニャ』』』
「ただいま~」
 御月は元気よくただいまの挨拶をする。すると幼顔で黒髪ポニーテールのメイドさんが景気よく御月に話し掛ける。胸には研修中と書かれたバッチが付いてある。
そう言えば御月はここのバイトだったな。
「あれ? 御月さん何で? ああ、今回はシフト関係なしに遊びに来ているんですか?」
「うん」
「そうなんですか? ははは、なら分かりました。御月お嬢様」
「あはは、固いよ。唯」
「ははは、当たり前ですよ。仕事中ですから。それに先輩ですし」
 仕事か…………俺は別に構わないけど他の客は聞きたくない単語だろうな。
「ああ、そう言えば御月お嬢様、今日はにゃんデイなので語尾に『にゃん』が付くようになっているんですよ」
「いいなぁ。ああ、私も今日シフト入れておきたかったなー」
「はい、今日は楽しいですよ」
 彼女は笑わず口にした。本当に楽しいと思っているのだろうか?
「にゃんデイ?」
 空気を読んで二人の会話に入らないと決めていた俺は思わず聞いてしまう。俗にいう俺はKYなのだろうか?
「にゃんデイは語尾に『にゃん』を付ける日なの。他にもたくさんあるんだよ。ツンデレデイはツンデレになって主人の注文も素気なく聞くの」
「素気なく? ご主人様なのに!?」
「うん、メニューも渡すんじゃなくて投げるよ」
「はあ!?」
 予想がつかない。メニューを投げる? 最悪の対応じゃねえか! そんなことでよく店が潰れないな。クレームが来てもおかしくないぞ。
「でもそれがサービスだよ」
「サービス!?」
 それがサービスってことは…………客はドMなの? 
「で、ご主人様が帰ろうとしたときはデレながら呼び止めるの『また来てよ。ご主人様』みたいなことを言ってね」
「何その変わり身!? 完全に魔性の女だな!」
 つい大きな声を出してしまう俺。
 突き放しておいてからの引きとめ!? ……オタクの方の興奮ポイントが俺には分かりません。いや、本当にどうかしていると思う。
「他には何かあるのか?」
「う~んとね、毎月二十一日に兄ちゃんの日があるかな」
「兄ちゃんの日?」
 何だ、それは? 兄弟構成を聞いて兄の人には何か特典があるとかそんなところか?
「うん、兄ちゃんの日にはお客さんに『お兄ちゃん』って優しい声で掛けるの。でも呼び方のオーダーはご主人様次第だからお兄ちゃんの他にも『兄貴』『お兄さん』『兄様』『兄タン』といった具合にたくさん呼び名が変わってくるんだ」
「…………兄タンは無いだろう」
 オタクの皆さんの気持ちを無視して発言するのなら俺は言いたい。お前ら何で兄貴呼ばわりされてんの? ここにいるメイドさんは妹でもないし義妹ですらないだろ。
「逆に姉ちゃんの日もあるよ。私達が姉役をするの」
「姉か………」
 実際に姉がいる俺は、ここのメイド喫茶で姉の日に行ったらどんな気持ちになるんだろ
うか? 複雑だろうな。他の女の人に名前を呼ばれる…………一度行ってみたいかも……っていかんいかん。これだと完全にオタク思考だ。
「らぶ☆メイは比較的姉属性の方が多いかな?」
「そうなのか……」
 いらない情報を耳に入れ苦笑する。
「他には…………」
 御月は楽しそうに続けて語ろうとする。聞いていたら永遠に続きそうので俺は御月の話を強制的に終らした。
 まだ店の玄関だから長話は敬遠すべきだろう。
「ああ、もう言わなくていい。というか言うな。その話だけで日が暮れそうだ」
「むう、これからが面白いメイド喫茶の情報だったのに………」
 御月はつまらなさそうな表情で拗ねる。
 ………俺から聞いておいてこの言い草はあんまりか。
「御月、とにかくありがとう。色々知れた。言わなくていいって言ったのは御月の説明で十分知れたということだ。勘違いするなよ」
「それなら嬉しい」
 言い方を変えたら御月は満足そうに笑顔を見せてくれた。やっぱり御月は一番笑顔が似合っているな。まるで向日葵のような笑顔だな。
「話は終わりましたか? ご主人様、お嬢様。よろしければ席へご案内します」
 黒髪ポニーテールの女が俺に聞く。
 しかし、俺は何故かこいつの言動に納得がいかない。俺は頷くことも返事をすることもなく頭をかいていた。
「和磨、どうしたの? 案内してもらわないの?」
「ああ……ちょっと待って」
 子那珂に言われ、俺は右手を前に出し、待っての合図を出す。
 もう少しでこのもやもやが判明しそうなんだ。そして俺の謎は思ったより早く解けた。ある会話によって。
『お帰りなさいませ、ご主人様ニャ』
『ただいま~』
 入ってくる一人の客。青いリュックを背負い黒の眼鏡を掛けている。そして服にはワンポイントのアニメキャラの絵が描かれていた。
 ………この人完全に常連さんだろう。ただいまっていうかここに来る気満々だったよね? 
『ふふふ、そのにゃん口調可愛いでござる』
『本当ですかにゃ? ご主人様』
『当たり前だろ。僕チンは君のご主人様なんだから』
 青いリュックの男はでへへと気味悪く笑う。
 …………ござる? 僕チン? それにこの人何で上から目線なの?
『ではご主人様、席へご案内するニャ』
『ふふふ、頼むよ』
「…………………………………」
 メイド喫茶の常連さんは皆こんな感じなのか?
 俺が別世界の人を見る目で見ていると、黒髪ポニーテールのメイドさんが困った顔で話しかける。
「あの、そろそろご案内しても………?」
 このメイドの口調を聞き俺は謎が解ける。
「あのさ、今日はにゃんデイなんだろう? 他のメイドさん見ていて分かったけどさ、お前語尾のにゃんを忘れてるぞ」
「あ……にゃん」