オタク3 | クドのわふわふ>ω</ブログ

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作詞や作詩、たまに小説書いたり論文書いたりしてます

 
「でも残念ね。ムキショタは完全予約生産版。だから予約をしていないと滅多なことがない限り店頭に現れないの。だから多分もう………探しても時間が掛かるわよ。パソコンで探してもプレミア価格が付いて高いだろうしね」
「マジかよ…………」
 ああ、姉にオタクを暴露される。そして俺の家族がオタクと言う事実があっと言う間に流れて、俺は世間から弾き飛ばされる。
 頭を抱え込み、顎をテーブルに付ける俺。すると仔那珂が何かを手渡してくる。
「ムキショタ1? ムキショタ2? これどうしたんだ?」
「たまたま持ってきてたの。ムキショタは1と2は予約出来たんだけど3は予約に間に合わなかった。そこで適当にふら付いていたら見つけた訳。でも和磨も同時にムキショタ3に手を出した訳でしょ。だから貸してあげるわよ。このムキショタ」
 彼女は照れながらムキムキのおっさんと小さい男の子が抱き合っているゲームを手渡してくる。
 俺はそれを喜んで受け取る。
「ありがとう、本当にありがとう」
「良かったですね………和磨君」
 御月は少し引きながら微笑みかける。苦笑いに似た表情だった。
 でも助かった。これで世間から消えなくて済む。
「本当にありがとうな。仔那珂」
 ショタBLの彼女が今は天使に見える。これで俺の明日もどうにか繋げそうだな。
 しかし、仔那珂は俺を違う目線で見ていた。
「何てことないって。お互い様でしょう。BLのお宝探しをしているのは。同じBLオタク同士助け合いましょう」
 は?
「あの何か勘違いしているかもしれないけどさ………俺BLじゃないよ」
「え? だってあんたコレ………」
 ムキショタ3を持って仔那珂は眼で何かを訴える。
「和磨君BLオタクじゃ無かったの?」
 逆に少し嬉しそうな御月。
「だって仔那珂に会った時言ったじゃねえか。俺の為に買うものじゃないって」
「あれは照れ隠しと思ったのよ」
「何そのキモイ照れ隠し!」
 何で男の俺がムキムキマッチョと小さい男の子のゲームを買う為に、照れ隠ししないといけないんだよ。
「じゃああんた何オタクなのよ?」
「俺は非オタク。つまりオタクじゃない」
 彼女達は手を小さくポンと叩き頷く。
「へえ、あんたオタクじゃなかったのね……」
「非オタクでメイド喫茶に入っていたのかぁ……」
 そして直ぐに店内『ラブ☆メイ』は二人の声で鼓動することとなった。

「「はいぃぃぃぃぃぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいぃいぃぃぃぃいぃぃぃ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――!?」」

 大きく口を開けて驚き顔の二人。御月まで仔那珂と同じ音量で叫んでいた。
「あの雰囲気絶対和磨もオタクでしょ!」
「そうそう。和磨君、今の話からオタクじゃないって言うの?」
「いやさ………俺の家が……」
「本当はあたしのことキモイとか思っているんでしょ和磨!」
「和磨君、私のコスプレもキモイとか思っているんでしょ?」
「そんなこと一言も言ってないだろ………」
 別に似合っていて可愛いと思うけどな………え? 俺今何を考えた? 可愛い? オタクを? え? え? ああ、何か今日の俺は疲れている。
「和磨!」
「和磨君!」
 二人は怒り顔で睨み、俺に迫ってくる。
「だからさ………」
「和磨君!」
「和磨!」
「話を聞いてくれえぇぇぇぇぇ―――――――!」
 そんな怒り顔の二人をどうにか宥めようと頑張る俺がそこにいた。
 七月七日という織姫と彦星が唯一出会えるこの日、俺達三人は天の川では無く、秋葉原で出会ったのだった。
「熱い、熱い、熱い、熱い、熱い……………」
 七月二十日、俺は机に突っ伏せて苛立ちを復唱する。
「別に良いだろ。だって今日で学校最後だし」
「明日から夏休み。それに今日は終業式の約三時間で下校出来る」
 机に突っ伏せた俺の目の前に現れる悪友二人。街部と末代。
「うるさい………夏の暑さの八割はお前らだろうが。六割が街部で二割が末代」
「んなっ……和磨、お前暑さを俺のせいにする気か! しかも何で俺が六割!?」
「特にうるさいから………」
「理不尽!」
 街部はその後もなんたらこうたら口にしていた。睡魔と熱気に支配されている俺は更にこいつの騒音までストレスの原因となる。
「ああ………それにしてもこの熱さは異常だろ」
 地球温暖化により暑さが上昇している地球。冬にこの暑さの余分な分を持って行ったらいいのにと思う自分がそこにいた。更にストレスの原因は、学校にクーラーが設備されていないこと。
 団扇で俺を煽ぎ始める街部。
「確かに熱いよな………」
「僕もそう思う。こんな日はプールでも入りたいよね」
 末代の言葉を聞き街部は目を光らせる。
「それ良い! 今度三人で近くのプールに泳ぎに行こうぜ!」
「うん、良いね、真! 僕も賛成! 和も来るだろ?」
 プールか……それも良い、と一年前の俺なら首を何度も振ることだが今回は違う。
「悪い。俺バイトあるんだ」
「えぇぇ………マジかよ……どうする司?」
「う~ん……和が来ないとなるとな……」
 二人は思案顔になってどうするか相談をしていた。そんな二人に俺は心の中で謝る。悪い、バイトは嘘だ。実際は先約がいるんだと。その先約が終わるまではいつ何時プールに行くことは許されない。
「まあ良いや。暇が出来たら連絡くれよ。和磨」
「うん、遊べなくてもメールは送ってくれよ、和」
 そんな二人に俺はいつもの口調で言った。
「覚えていたらな」

 終業式が終わり俺は一人で下校中。
 ふっふふ~と鼻歌混じりに下校する。
 携帯のメール受信を開けるとそこには俺のパラダイスがあった。

『From 洞爺御月
 Subject プールに行きませんか?
 メールとか男子にしたことが無いから間違っていたらごめんね。(女子にもあまりしたことない(笑))
 実は私のバイト先でプールの無料券が余ったらしいんだけど良かったら一緒に行かない? 仔那珂さんも招待しているので良かったらメール下さ~い。
 もし良ければ日を追ってメールするね』

「ふっふふ………」
 勿論メールが来た二十秒後に『行きます』と敬語で送った俺。
「あはははは、はははは、はは」
 スキップしながら帰る俺。喜んでいる訳ではないぞ。これ、しかし。
 前二人とメールアドレスを交換してから俺は頻繁に彼女達とメールをしている。二人と秋葉原で出会ってそのままでは無いのだ………ちなみに姉にはムキショタでどうにか誤魔化せた。と言ってもムキショタ1しか渡していない。次に買って来いと言われた時に渡せる予備を置いて置く為に。
このメールが来たのは四日前『行きます』と送ったメールの返信はその二日後。プールに行く日は八月一日と決まった。なら何故その日の前に街部、末代とプールに行かないかというと簡単な言葉でお答えできる。
 女子とプールに行った輝きが薄くなるからだ。
 もしも同じプールに行ってしまったら「ああ、ここ前と同じだ」とつまらなくなってしまう。だから最初は女子達と泳ぎたかったという訳だ。
 しかしあれだな。オタク女子が嫌いと言っておきながら、プールに誘われたら断れない自分がここにいる。
「ああ、早くプールに行きたい!」
 それどころか上機嫌な俺は、早く時が過ぎろと心の底から思った。
 男なんてそんな単純なものだ。
「ああ、八月一日よ、早く来い!」
 家に帰ると相変わらずの惨状だった。
 家に入った瞬間アイドルの曲が俺の耳に入る。これが朝から晩まで続くので本当に鬱陶しい。
 靴を脱いで直ぐの所で兄弟に声をかけられる。
「あ、兄ちゃんおかえり」
「お………おう」
 目の前にいるのは赤と黒のストライプのスカートを穿き、白いロングの鬘を被っている。そしてキャミソールを着ている女の子…………では無く男の子の蓮見光河。現在小学四年生である。
「兄ちゃん、この服似合っているかな?」
「あ………ああ」
 凄く似合っている。実際には似合ってはいけないんだがな。性別的に。
 光河は化粧無しで女の子のような顔をしている。だからまさに女の子の姿だった。声は高く華奢な体つきなので元々女装の素質がある訳だ。
 だがそれがどした? 男なのだ、彼女は……いや、彼は。
「兄ちゃん、次はどんな服を着て欲しい?」
 ゴスロリか………純白のワンピース……それかミニスカート……
「止めろ。忠告するがお前は弟。決して妹では無い」
 いかん、いかん、自分の理性が吹っ飛びそうだった。
「むう………兄ちゃん……」
 光河はアヒル口にする。可愛い………では無い! 何を考えているんだ、俺は! この場合はロリコンになるのか? 男だからショタコン? でも………女装趣味の男ならロショコン? 
「っていうか兄ちゃん最近浮かれてるよね? どうしたの?」
「何を言っている光河! 俺は一%、いや、百分の一%も浮かれてなどいない」
「ふうん………」
「ははは、光河、いい加減女装趣味を止めることを思慮するんだな」
 自分のキャラに合っていないことを口にし、その場を立ち去り自分の部屋に入ろうとすると光河に呼び止められる。
「ねえ兄ちゃん」
「どした光河?」
「夏休み暇だからどっか連れて行ってよぉ」
 おねだり口調で言ってくる妹………では無く弟。
「時間が出来たら……」
「むう……」
 弟はつまらなさそうに俺を見る。
 俺はそう言って弟に背を向けた。この時の俺は、まさかあんな事態になるとは少しも思わなかった。

 
 ジリジリジリジリジリジリジリジリジリリリリン――――
「ん………熱い~………眠い~……って今日はプールの日じゃねえか」
 今日は八月一日。御月と仔那珂と一緒にプールで泳ぎに行く日である。
 勢いよく起き上がり目覚まし時計を見る。時間は九時二十分。集合時間は十時なのでゆっくりする時間は無い。水着は昨日荷物に入れて準備している。財布の中身も少なくはない。
「よしっ、いざプールへ!」
 速攻でパジャマから普段着を着て荷物を持つ。そしてドタドタと階段を下りて適当な菓子パンを口に入れて俺は家を飛び出した。
 家を出た後、俺は玄関近くに置いているマイ自転車に跨りペダルを漕ぐ。そして荷物が自転車の籠に入らないので俺は荷物を背中に掛ける。
「うおぉぉぉぉぉぉおぉぉぉ――――――――――――――――!」
 八月一日は真夏。太陽が燦燦と輝き俺の体力をじわじわと減らしていく。
 急がないと電車に間に合わない! ダッシュ、ダッシュ、ダッシュ、ダッシュ―――。
 神奈川の電車は東京よりも数が少ない。と言っても田舎にくらべたら随分数が多く首都とほぼ変わらない。しかし、その一分、二分の違いが遅刻を招く結果となるのだ。
 だから俺はペダルを思い切り回す。少しでも緩めてしまったら女子が俺を待つことになってしまうからな。それは恥ずかしすぎる。
『うっ、うっ、うっ……………』
「?」
 ペダルを回していると何やら荷物から声が漏れる。分からない。日本のバッグ業界はとっくに生きるバッグを作ったというのか? しかしまだ『うっ』としか言っていない。もしかしたらバッグの揺れた音かもしれない。
『うっ、うっ、うっ……………痛っ』
「?」
 次はバッグから『痛っ』とはっきり聞こえた。幻聴では無いはずだ。
 しかし、解せない。どうなっているんだ、俺のバッグは? 確認したいが確認できない。もしも止まって確認していたら百%遅れる。だからこの件は後回しだ。
 でも気になるな………。
 このバッグに何が入っているんだ?
 そしてようやく着いた駅で、自転車置き場にマイチャリを置く。俺はダッシュで切符を購入して電車へと乗り込んだ。
 電車の中は涼しく、ペダルを全速力で漕いだ汗ダラダラの俺を癒してくれた。
「よしっ、これでどうにか間に合いそうだ」
今日俺達が行くプールは、秋葉原で最近出来た『プールメイド秋葉』。あの電化街の建物を買収して作った施設である。アニメイト、とらのあな、などの有名な萌ショップを楽しみに秋葉に来る人も多いが最近はこのプールを目当てに来る人の方が多いように見える。
「…………………………………」
 そんな楽しみの前にまずはこの危険物をどうにかすることが先である。
 電車の席に座り、俺は荷物のチャックを恐る恐る開ける。
よくよく考えてみると俺はこんな大きな荷物を用意した記憶は無い。もう少し小さいサイズで自転車の籠に入る物だったはず。あの時の俺は遅刻しそうでそこまで気が回らなかったのだ。
バッグのチャックを開けると男子物の水着があった。それは当り前である。そしてその下に……………、
 ―――スクール水着が入っていた…………。
 スクール水着いぃぃぃぃいぃぃいぃいぃぃ―――――――――――――!?
 心の中で叫ぶ俺。もしもこの電車で叫んでしまったら、俺は大変気まずい時間を送らないといけないことになる。変態としての視線で見られることは間違いないのだ。下手すれば警察沙汰。
「な、何でこんな物が………」
 しかも高校生サイズで無く小学生サイズの大きさ……………。
 荷物の中身を警察に見られたら、即ポルノ法違反で縄に掛かる。訳を話して釈放されてもそれは気分の悪いものだろう。
 っていうかそもそもの段階で…………、
 何でスク水が入ってんの? 陰謀? 濡れ衣?
「訳分からん……」
 電車で荷物を人に見られてもいけないので、俺は乗員に背中を向けてバッグを開ける。
「スク水に………大量の鬘?」
 黒髪ポニーテール、ピンクのポニー、紫のロング、他にも色々な鬘が下の荷物を隠すように敷き詰められていた。
 そしてこの時俺は謎が解けた。下に何が入っているのか………。
「おい、光河出て来い」
『……………………………………………』
 バッグは喋らない。それは当たり前だ。しかし、バッグが人の体温ぐらい温められているのは不自然だ。
「光河、三秒以内に出てこないと女装写真を町内にばら撒くぞ」
 光河は学校の友達に内緒で女装している。つまり知られたくないのだ。コスプレ趣味のことを。実際のところ光河が姉のようにオタクを隠していないなら逆に俺は脅されてもおかしくはない。
「い~ち、に~………」
 二秒が経過した時、高い声がバッグから聞こえる。
「ちょっと兄ちゃん、三秒はあんまりでしょ。せめて十五秒は時間が欲しい」
 歪に歪んだバッグから出てくる顔と右手。
 その顔は俺が良く知っている顔であった。
「さっさと出て来い。話はそれからだ」
 俺は青筋を立てて本気で苛立っている。
「そんなに怒らないでよ~」
 半泣きで訴える弟。汗がびっしりとついている。よっぽどバッグの中が熱かったのだろう。しかし、同情する気は一切ない。
「さっさと出て来い!」
 半泣きだろうと関係なしに頭を叩く俺。
 バッグから体全体を出すことが出来た弟は、現在電車の座席で正座をしている。
「で、お前は何しに来たんだ?」
「えっと、兄ちゃんに付いてきた」
 弟はうっすら涙を浮かべて言った。
「何で?」
「ええと…………暇だったから……」
「暇だから? 友達と遊べばいいじゃないか。お前だってトモ君やマコト君と言った友達がいるんだろ。あれは架空友達か? あ?」
 俺はカツアゲする不良と同じように弟を容赦なく脅す。
 すると俺は光河に返しにくい発言をされる。
「うん。トモ君もマコト君も架空友達で実際は存在しないんだ。だから兄ちゃんに遊んでもらいたいなぁって………」
「え? 本当に? あの友達の名前嘘なの?」
 弟の友達架空発言に目を見開いて俺は裏声が出てしまった。
「うん………意地を張っていただけ」
 弟は涙をポロポロと流す。
 ヘビィ――――――――――――――――――――!
 重い、重い、重い、重い、重い、重い。
 こういう場合はどうしたら良いのだろうか? そんなの関係無しに怒り飛ばせばいいのだろうか? でもそれは余りに酷のような気もする。
「だから駄目かな? 僕家でいてもやることないし……」
 チワワのような眼で『捨てないで』と言わんばかりに見てくる光河。
 そんな弟に俺は強く言えず、ついには許してしまった。
「分かった。でも今日は友達と遊びに行くから大人しくしておけよ」
「やったー、いえぇい! 今度はトモ君とマコト君と優斗とも呼んでこよう!」
 同情して許すと光河は態度を一変して両手を挙げて喜んだ。
「お前な………さっきまで………ってあれ? お前まさか架空友達ってのは……嘘なのか? 本当はバリバリ友達いるじゃねえか!」
「あ……」
 光河はマズイと言った表情で口に手を当てる。
「光河あぁ………どういうことだ?」
「まあ良いでしょ。兄ちゃん」
 弟は目を細めて子ども特有の怒れない笑顔を作る。
 もし今から一人で帰れと言っても小学生一人は不安だし……女みたいな顔だから危なっかしいし………はあ……。
 溜息をついて俺は再び同じ注意を言った。
「大人しくしておけよ」


「和磨―――――――――――!」
「和磨君―――――――!」
 プールメイド秋葉につくと二人が手を振りながら俺を呼ぶ。
 遅れたと思い携帯を開いたが、九時五十七分で集合時間の三分前だった。
 既に行列が出来ており開店前から皆並んでいる。プールメイド秋葉の入口にはメイドさんが手でハートを作っている絵が描かれている。それ目当てか写真を首に掛けている人が多いようだ。
「ごめん、待たせてしまったかな?」
「別に待っていないわよ」
「うんうん、私もそんなに待ってないよ」
 二人は意外にも優しく迎え入れてくれた。
 そして俺達は行列の後ろへと並ぶ。本当は関係の無い光河も一緒に。
 くそっ、本当は無料で来られたはずなのに、こいつがいるせいで俺は自腹を切ることになってしまったじゃないか。
「それよりもその子は誰なの? 可愛いわね」
 御月は目を輝かして俺の弟を指差す。
「ああ、ごめん俺の兄弟だ。勝手に付いてきた妹では無く弟………いや、性格にはオカマかな?」
「に、兄ちゃん……」
 光河の頭にポンと手を置き紹介する。
 こいつは非常に完成度の高いオカマ。オタク用語では男の娘とも言うらしいが実際のところオカマに変わりない。
「オカマってことは男なの? もしかして女装趣味を持っているの?」
 御月の次に仔那珂が光河に興味を持つ。
「うん、まあそうなるかな」
「兄ちゃん、僕が女装オタクのことは秘密だって言ったのに」
 光河は裏切られた感マックスの顔で俺を見る。
「二人はお前と同じオタクだし別に言っても良いかなと思ってさ」
「うぅ………兄ちゃん、こいつらは何なの? 僕と同じ女装趣味の二人?」
「馬鹿っ! 二人とも女の子だよ!」
「嘘だぁ、だって兄ちゃん女の子と遊んだこと一度も無いじゃん」
「うるさい! 余計なことを言うな!」
 光河が初対面の二人に天然の悪口を発言する。ついでに兄貴の俺にも。
 俺は悪口を言われた二人の顔を窺って「ごめん、こいつ口が悪いから」と光河の頭を下げさせた。
 しかし二人は悪口など耳に入っていなかった。それどころか二人は大好物を目の前にした表情でごくりと生唾を飲む。
 そして、
 二人は光河に飛び込んだ。
「光河く~ん」「光河ちゅわ~ん」
 仔那珂と御月の二人は俺の妹っぽい弟を挟むように抱き抱えて頬をすりすりとしている。
そして「ああ可愛い」「持って帰りたい」などと変態発言を連発していた。ロリコンとショタコンがどちらも欲しがる男の娘のようだ。
「……………………………ツー(鼻血が出る音)」
 どうやら暑さのせいで俺の鼻はやられているらしい。
「光河く~ん」「光河ちゅわ~ん」
 二人は教室の時の威厳な姿がまるでなく光河に抱きついている。
「止めっ………兄ちゃん助けて……」
 光河は露骨に嫌な顔をする。そして二人の力に負けてしまう。光河は男と言ってもまだ小学四年生。高校生女子の二人の力には力は及ばない。
「光河あぁぁぁぁぁぁ―――――――――!」
 今の光河のポストは女子人気のテディベア、リ○ちゃん人形、東京ディ○ニーランドのミッ○ー、ポケ○ンの黄色いネズミのような立ち位置。
 滅茶苦茶羨ましい! 俺も光河のように揉みくちゃにされたい………いかんいかん、そんなことを考える俺では無い。最近オタク文化に淘汰される気分だ。
 だから今俺がする行動は羨まし………ではなく困っている光河をあの二人から分離することだ。
「はいはい、二人とも落ち着け。まだプールに入っていないだろ。だからその辺にしてくれ。光河も困っているから」
 しかし、俺は会話の単語の一つ一つに気にかけていなかった。
「「まだ?」」
 そして彼女達は素直に光河を離した。
「分かってくれたか……」
 どうやら理解してくれたらしく素直に弟を離してくれたらしい。
「プールに入ったら光河ちゃんとたっぷり遊ぼうっと♪」
「あたしが先よ。光河くんは一応男の子だからどちらかと言ったらショタ寄りでしょ」
「そんなのは関係ないよ。顔が女の子みたいなんだから」
「「むむむむむうぅぅぅぅぅ――――!」」
 二人は睨みあって光河の争奪戦を続行している。何で? 
「あの二人とも……何で光河の争奪戦をしてるの? プールでも光河は―――」
 光河は渡さないと口にしようとしていたが二人の眼を見てとても言えなかった。言ったら最後地面の底に次ぐ底に落とされそうなのでな………。
「さっき和磨言ったよね。まだプールに入っていないだろって」
「ああ、言ったかな……」
「確かにそうだと思った。プールに来たのにプール前に抱きついていたらがっつき過ぎだもんね。だからプールに入った後にね☆」
 彼女は学校の傲慢な性格からは思えない可愛い笑顔をする。
「ああ………『まだ』をそう取った訳」
 …………『まだ』の二文字の使い方を今後検討することにするよ。