3月24日放送のNHKスペシャル「ふるさとか移住か・・」をみてしまった。浪江の町長の苦悩を取材したものでしたが、かわいそうなぐらい先の読めない首長と行政そしてそれらに振り回される青年会議所という感じでした。もちろん未曾有の事態なので当然のことですが、人の思い入れや感情がどれほど事態を悪化させ、時間とコストを浪費させたかを証明したようなドキュメンタリーでした。とくに、青年会の方が何としても戻るという考えから線量の高さを知って、町の集団移転を町長に提案し、断られてから移住を決意し、さらに仮の町構想が出てからそこへの移転を望む。というたいへんな葛藤の流れに人ごとではなく身に染みました。最後に奥様から移住せずに仮の町で本当に落ち着いた生活ができるのと詰め寄られ、言葉を無くしている姿には同情と共に奥様の意見の方が良いのではと思ったりしました。それは、事件の当事者でないからそう冷静に思えることで、自分の問題である飯舘村に関してではどうだろうかと考えさせられてしまいました。


翻って、飯舘村を見ればまさに同じことが起こっています。ただ、浪江町がうらやましく思えるのは、町長が住民の意向を聞き、アンケート結果にも促されて、次善の策へと梶を切り出している点です。飯舘村ではどうなるのでしょうか。経産省の役人が3.11の直後から入り込み、村を自分たちの災害シミュレーションのテスト現場としているような扱いをしています。さらには除染は国是という悪魔の言葉を村長に使わせ、天下り先へのバラマキ行政を押しつけています。


浪江町には行政の悪魔は入っていなかったのでしょうか。町長はいみじくも町の他所への移転は合併を意味するとおっしゃり、苦渋の表情を見せました。飯舘村の村長も同じく、合併を嫌い、移住や新飯舘村建設を拒んでいるのでしょうか。そこにはどんな正義や未来があるのでしょう。村や町を護るとは住民を犠牲にすることなのでしょうか。まるで戦前の日本を見ているようです。我々に特攻隊員になれといっているのでしょうか。同じ特攻なら東電と経産省と官邸に突っ込みたいです。


新天地の会と名づけた有志の会で、飯舘村の住民にアンケートを取りました。現在500通以上の返信が届いています。この結果を見て、菅野村長は浪江の町長のように方針を変える器量を持っているのでしょうか。または、野田総理や経産省、環境省、文科省は本気で被災地について寄り添うことをはじめるのでしょうか。このアンケートはあくまで有志が行ったものです。何の権威も国や村の意向もありません。住民が自ら言いたいことはこれだろうということを質問にしたものです。だからこそ価値があると私は思っています。


住民の中には新天地の会の目的がわからんとか何をしたいのかが不明だとかそういう声も聞かれました。我々にはこのアンケートで原発を止めるとか村を捨てるとか村へ帰るとかそういう目的はありません。住民の今の気持ちをそのまま見える形にして、一人一人の声が誰か一人の声だと決めつけられて無視されてきたものを拾い集めて実際は本当に一人だけの声なのか、賛同者が実は多いのではないかということをはっきりさせたかったのです。


行政がこのアンケート結果を無視して今まで通りの規定のバラマキ政策を続けることを止める力は我々にはありません。しかし、この事実を目の当たりにして、声を一緒にあげていただける国民がいてくれれば、国や村の対応も変わるかも知れませんし、少なくとも我々への勇気づけにはなると思います。浪江町が今後仮の町構想を出してもそれはそれで茨の道でしょう。しかも、線量が比較的低いとはいっても十分に安心な場所にはならないと思います。そのあたりが行政の限界かも知れません。であれば個人の選べる選択肢をできるだけ多く用意して、個人の復興への意識に頼ることの方が国のコストもそして住民の未来にも良好な結果を招くと思います。


国や村の仕事は東電に対して十分な賠償を出させることが第一であり、除染は国是ではなく、選択肢の一つにすべきです。賠償までの期間が長引けば住民の活力も萎えてしまいます。受け入れる方も十分に自立した活気ある人のほうが良いに決まっています。瀕死の状態で、生活保護のような住民を受け入れたいと願う自治体もないでしょう。