北海道日本ハムファイターズコンサドーレ札幌が本拠地とする札幌ドームは、2001年に札幌市などが出資する第三セクターとして開業。2002年のFIFAワールドカップ開催も念頭において造られたため、さまざまな障害者にも対応した設計がなされた。



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(写真は札幌ドーム公式HPより引用)



 例えば、階段を回避するためのエレベータ。だれでも使える車椅子。障害者用駐車スペース。オストメイト対応の多目的トイレ。117を数える車椅子用スペースなど…。対応は、万全のはずだった。



 しかし、この札幌ドームにも対応しきれず、観戦を楽しめない障害者が多いことは、あまり知られていない。



 筆者は、ある日のファイターズ戦で、思いがけない言葉を聞かされることになる。それは、観客席の通路から下の方を残念な表情で見つめる、初老の男性からの言葉だった。
 様子がおかしい男性に、筆者は「どうしたのですか?」と話しかけると、男性はこう答えたのだった。
「自分は足に軽度な障害を抱えているんですよ。普通に歩けるから、車椅子席のチケットは必要なかったんだけど…。でもね、これだけの急傾斜で、何十段もあるスタジアムの階段を下りて、自分の席に着くことは、出来ないんだ。娘が後で来るのだけど、自分の介護を出来るのは、娘だけなんだよね」。
 筆者はその言葉を聞くと、すぐに警備員に連絡。その警備員によって、通路には一時的にパイプ椅子が置かれ、男性は家族が来るまでパイプ椅子で過ごすこととなった。



 言われてみれば、この札幌ドームには大きな問題がある。スタジアムに入るためは、1階コンコースから階段やエレベータを使い、いったん2階コンコースに行かなくてはならない。写真のこの部分が、スタジアムへの入り口となる。





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 しかし、いったん2階スペースからスタジアムへ入ると、もうエレベータも何もないのだ。


 筆者が赤線を引いた部分が、2階コンコースとスタジアムをつなぐ、内野席唯一の通路だ。




 赤線から下にある席数は、野球開催時で43列、階段の段数にして67段もある。赤線から上にある席は32列、階段の段数にして67段もあるのだ。

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 外野席は25列、階段の段数にして50段もある。写真で見ても分かるとおり、大変な急傾斜になっている。しかも、通路は筆者が赤線で引いた最後部にしかなく、どこの席へ行くにしても、この急傾斜をまるで登山のように登ったり降りたりしなければならないのだ。


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 これらの階段は、通常の階段よりも幅が狭く、健常者にとっても使い勝手が悪い。そのため、少しでも足が悪かったり、病弱だったり、高齢だったりする観客からは、「非常に厳しい階段だ」という声が上がっている。


 実際、大阪から来たという観客は、筆者に「京セラドーム大阪には、これほど傾斜のきつい階段がない。観客席も『上段席』と『下段席』に分かれているため、傾斜も緩やかで、コンコースにも『上段席』と『下段席』へ行くためのエレベータが設けられているため、移動に苦労しない」と、顔から汗を流し、息を切らしながら話してくれた。




 その言葉が気になって、筆者は何度か札幌ドームに足を運ぶと、やはり急傾斜の階段に悪戦苦闘する軽度の障害者、何度も足を止めて休憩を取りながら階段を上る高齢者、家族の介護を受けながら自分の席に着く観客が多いことに驚かされるのだ。


 幅が狭く、急傾斜の階段であるため、“周囲の善意”だけでは、どうにもならない。それどころか、介護に関して知識のない人が手を貸すことによって、逆に「危険な状態」を作ってしまう可能性もある。




 札幌ドームでは、重度障害者団体を招いて、さまざまな聞き取り調査を行っている。しかし、軽度障害者や高齢者、病弱な観客からの聞き取り調査は行っていない。通路際に「優(やさ)し~と」という席も設けてはいるが、それでも対応できない人々が多い。



 本来であれば、軽度障害者などからもしっかりと聞き取りを行い、スタジアムに介護の専門家を配置すべきなのだ。そうでなければ、だれもが楽しめるスタジアムには成り得ない。そして、ファイターズが掲げる「道民球団」という言葉も露と共に消えてしまうであろう。




 軽度障害児を持つ女性から、筆者は強い口調で次のように訴えられたことがある。
「世の中は『重度障害者』にばかり目が行っている。うちの子供のような『軽度障害者』は、“中途半端な立場”に立たされている。何のサポートも受けられない。もっと『軽度障害者』にも目を向けて欲しい。」



 札幌ドームが抱えるバリアフリー問題は、これだけではない。専用ブースもなく通路に線を引いただけの内野観客席の車椅子スペース。

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 車椅子1台がやっと通れるほどのスペースしかない内野通路。

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 防球ネットのない内野席には、常にファールボールの危険がつきまとう。同じように防球ネットのない「クリネックススタジアム宮城」を本拠地とする東北楽天は今春、ファールボールで失明寸前の大けがを負ったことに対する民事訴訟が観客の男性から起こされた。




 どんなに綿密な事前準備をしてハード部分を強化しても、完成してから表面化する新たな問題点は、どんな建築物にも多くある。


 札幌ドームは、これらの問題に目を背けてはいけない。ハード部分で対応できなかったケースには、ソフトケースで今すぐにでも対応すべきなのだ。具体的に出来ることは何なのかを当事者から聞き取った上で、道民全体が考えることも必要なのだ。


 生涯教育の場にもなっている札幌ドームには、その真価が強く問われている。