北海道で凄惨(せいさん)な、児童虐待による殺人事件が起きた。
 稚内署は、3月30日、四歳の男児を水風呂に沈めるなどの虐待を加えて死なせたとして、稚内市内に住む男児の母親ら2人を殺人の疑いで逮捕したのだ。


 地元紙である北海道新聞などは、「今冬、男児の通う保育園から旭川児童相談所稚内分室に連絡があり、同分室が調査したが『虐待は分からなかった』」と報道している。



 しかし、筆者にとっては「また旭川児童相談所か…」という、がく然とした気持ちを押し殺すことは出来なかった。なぜなら、筆者は過去にも旭川児童相談所の怠慢ぶりを目にしていたからだ。旭川児童相談所は、別の事案でも、虐待の通報を無視していたのである。




 それは数年前のことだった。筆者のもとに1本の連絡があったのだ。「女子高校生が、日常的に両親から育児放棄や虐待を受けている。イスやハンマーで殴られ、自宅に軟禁されている」というものだった。(「いつ、どこで、だれが」といった、いわゆる「5W1H」は、当該被害者が特定される危険性があるため、ここでは書かないことをご理解いただきたい。)



 筆者は事実を確認すると、旭川児童相談所に通報。しかし、旭川児童相談所はまったく捜査を行うことはなかったのだ。



 しびれを切らした筆者は、旭川中央警察署にも通報。旭川中央警察署から旭川児童相談所に連絡してもらうと、驚くような返事が返ってきた。



 それは、「報道関係の方からの通報だったので、別に捜査の必要性は感じなかった。旭川中央警察署からの連絡であれば、捜査してみましょう」という、のんきな返事だったのだ。
 マスコミからの通報だから、捜査の必要性がないというのは、どういうことなのか? 旭川児童相談所は、通報者の職業で捜査するかどうかを判断するとでも言いたいのだろうか?




 数日後、旭川中央警察署から筆者に連絡があった。旭川児童相談所から、捜査の報告が入ったというものだ。
 その報告にも、筆者は再び驚くことになる。「虐待の事実なし」というのだ。



 その虐待事実のないとされた根拠に、筆者は首をかしげることとなる。「……当該児童の家庭は円満で、父親が東京へ仕事に行くときは、家族全員で空港まで自家用車を使い、見送りに行く。……当該児童にも面談を行った上での報告である……」。



 本当に、そうなのだろうか? 筆者は独自に調査を進めた。そうすると、旭川児童相談所の調査はデタラメであることがすぐに分かった。
 そもそも、その女子高校生の家庭には、自家用車がないのだ。そして、女子高校生が住んでいる公営住宅には、駐車場がないのだ。駐車場がなければ、自家用車を所有することは法的に出来ない。



 運輸局に電話を1本入れれば分かるような事実を旭川児童相談所はなぜ見抜けなかったのか? あきれるばかりである。
 報告書の「……当該児童の家庭は円満で、父親が東京へ仕事に行くときは、家族全員で空港まで自家用車を使い、見送りに行く」という部分が真実ではない以上、その他の項目も信用する訳にはいかない。





 そうしているうちに、親のスキをついて、筆者の所に女子高校生が脱出してきたのだ。頭部には、虐待で受けた大きな傷が付いていた。女子高校生がしばらくの間、風呂に入っていないことも、一目瞭然だった。
 マイナス30℃にもなる北海道の真冬の夜空の下、自宅から命がけで脱出してきた女子高校生のことを想うと、筆者は胸が痛んだ。



 脱出してきた女子高校生に「旭川児童相談所の担当者は、君に面会しに行ったの?」と聞くと、「え? だれのこと? だれも来ていないよ。私は、虐待する父親を空港へ見送りに行ったこともないよ。だって、自家用車さえもないんだもん」とのこと…。旭川児童相談所の「当該児童に面会した」という事実も無かったのだ。




 いったい、旭川児童相談所は、どのような業務をしているのだろうか? 何を考えて業務をしているのだろうか? 私達の高い税金で運営されている公的機関なのに、なぜ運輸局に確認することもなく、デタラメな報告書を作成するのか? このような憤りと疑問に突き当たるのは、筆者だけだろうか?




 その後、旭川家庭裁判所や女子高校生の通う公立高校と話し合った結果、「教員が毎日、ローテーションを組んで女子高校生の自宅へ安否確認の電話をする。ちょっとでも疑問に感じることがあれば、すぐに家庭訪問をする」という方針に決まった。



 教員たちは、土日や祝日、そして元旦にも電話をかけ続け、登校日には家庭環境をチェックした。そういった努力が実り、その女子高校生のケースは、その後の虐待を防ぐことに成功した。「同じ公務員でも、ここまで違うのか…」と、筆者は教員たちの対応に感心させられた。




 一度、天国に行ってしまった児童は、もう帰ってこない。旭川児童相談所は、税金で運用される公的機関である以上、「虐待は分からなかった」では済まされないのだ。
 旭川児童相談所の業務怠慢は、決して許されるものではない。真面目に勤務をする気がないのなら、今すぐにその職を辞することをお勧めしたい。