「忍びの者 1~5」 村山知義 | ノルン3姉妹のお気に入りブログ

「忍びの者 1~5」 村山知義

1960年代に理論社から出版され、

たちまち市川雷蔵の初の映画シリーズとして大ヒットした、

村山知義の「忍びの者」シリーズが、岩波現代文庫で復刊しました!


映画シリーズは見ていないので分からないのですが、原作の小説とはやっぱりいろいろと違うみたいです。

何より違うのは、この小説では、多くの忍者達の目=歴史の裏を実際に見た目を通して真実の歴史像を描く(もちろんフィクションですけど)、といった姿勢に終始貫かれているため、ある一人の主人公に絞っては描かれていません。

また、真実の歴史であることを示すために、作品のかなりの部分が、作者村山知義による歴史の検証とその根拠となる史料の紹介・引用に使われています。


恐らく映画でこのような描き方はできないでしょう。だからこそ小説を読んで頂きたい気もします。



忍者物ですが、徹底的にリアリズムで描かれているので、荒唐無稽な忍術は全て否定され、現実的な解釈がされています。(それでも超人的な活躍ではありますが。)

山田風太郎の忍者の世界ではなく、白土三平の忍者の世界に近い、と言ったら雰囲気は伝わるでしょうか。


また、この作品の姿勢のシリーズを通した大きな特徴は、下記2点になると思います。


①忍者、及び戦国時代という最も非ヒューマニズム的なものを描くことで、ヒューマニズムの大切さを訴えている。(よって、非道・残虐なシーンが多く描かれるが、一方でそれに反感を持つ人達が中心人物となる。)

②権力者に虐げられた人達(敗者、忍者、女性など)といった"社会的弱者"の立場から描く。(よって、信長、秀吉、家康といった権力者達は次々と非道な人間として描かれる)



真田十勇士について、他の多くの作品で使われる設定と大きく異なっているのも面白いです。例えば、

猿飛佐助は、通常甲賀忍者として描かれますが、この作品では、なんと二人の忍者を一人で呼ぶ呼び名となっており、しかも、一人は伊賀の下忍、一人は越前の一向一揆で活躍した柏木四郎兵衛の落とし胤となっています。しかも、二人とも忍者にあるまじき肥満児で、かつ一向宗の影響を受け、そのため忍者としては大した活躍をしていない、ということになっています。しかしながら、この物語全編に登場する唯一の忍者です(1冊目ではそうなるとは全く予想できませんでした・・・)。

霧隠才蔵は、和歌山の鯨捕りの漁師出身となっています。

三好清海入道三好伊佐入道も兄弟ではなく、三好清海入道はホモで霧隠才蔵に惚れています。

筧十蔵は、女装しても絶世の美人で男でも女でもたぶらかす人とされ、やっぱり霧隠才蔵に惚れています。

望月六郎は、馬盗りで有名な割田下総と同一人物になっています。

などなど・・・



1~5の各作品の内容を紹介します。

「忍びの者 1 序の巻」

 下忍「カシイ」を中心に、藤林長門守と百地三太夫という伊賀上忍による伊賀忍者の社会が、織田信長による天正伊賀の乱で崩壊するまでが描かれます。石川五右衛門は百地三太夫の部下で百地三太夫に仕組まれ、伊賀から追放されて京都で泥棒をする由来なども描かれています。映画と違って、必ずしも五右衛門は主人公とはいえません。


「忍びの者 2 五右衛門釜煎り」

 信長の死と秀吉の天下、五右衛門が淀城で秀吉の命を狙って失敗し三条河原で釜煎りになるまでが描かれます。五右衛門を中心にしてはいますが、家康配下の服部半蔵の方が活躍度は大きいです。五右衛門が捕らえられるのは、秀吉を生き長らえさせ、悪政を続けさせることで豊臣家から人心を離れさせるための家康の遠謀となっています。切支丹の影響も強く描かれ、五右衛門も半蔵もマリア像に魅せられている点も面白いです。


「忍びの者 3 真田忍者群」

 タイトルは真田忍者群ですが、内容は霧隠才蔵が漁師から忍者になるまでと、残りは100%秀吉の朝鮮出兵についての内容です。作者は、この朝鮮出兵がいかに酷い内容のもので、日本の恥ずべき歴史であるかを強く訴えています。ちなみに真田については全く触れられていません・・・。作者が、当初の想定より朝鮮出兵に力を入れ過ぎてしまったとのことです。


「忍びの者 4 忍びの陣」

 武田家崩壊後の真田昌幸を中心とした真田家の活躍が描かれているといって良いでしょう。関ヶ原で徳川の勝利に終るところまでの内容になります。ようやく十勇士が真田の元で揃います。十勇士の中で一番の中心として描かれているのは穴山小助かと思います。


「忍びの者 5 忍び砦のたたかい」

 関ヶ原後の徳川支配の確立が詳細に描かれ、大坂夏の陣を持って終了します。十勇士は思ったほどの活躍をしません。十勇士の諜報活動によって、徳川のやり方が詳細に分かるという程度でしょう。大坂夏の陣、冬の陣でもよく伝えられるような活躍はないまま、最後はみな生き残って逃げ延びることになっています。また、作者による史料の引用・検証にほとんどの部分が費やされているといってもよいでしょう。




作者村山和義自身は、大坂夏の陣後も十勇士を生き長らえさせて、その後の歴史についても彼らを通して描きたかったようですが、残念ながら作者の死もあり、これ以後の話はありません。非常に残念です。

もちろん忍者の話はほとんど作者のフィクションなのですが、それ以外の歴史については、史料の引用がとても多く、かなり実際の歴史的にも価値のある内容となっているので、純粋に歴史に興味のある人にとっても非常に参考になるものでしょう。

1冊平均520~540ページ程度で、5冊全体で2700ページ程だと思います。

かなり長い話で、読み応え充分ですが、ストーリーは面白いし、史料に興味の無い方なら、引用部分などを飛ばしても読めばかなりスイスイ読み進められると思います。

(私は、ちゃんと読みましたが、史料部分などは全く頭に入りませんでした・・・)



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村山 知義
忍びの者〈1〉序の巻
村山 知義
忍びの者〈2〉五右衛門釜煎り
村山 知義
忍びの者〈3〉真田忍者群
村山 知義
忍びの者〈4〉忍びの陣
村山 知義
忍びの者〈5〉忍び砦のたたかい

猿飛佐助

霧隠才蔵

三好清海入道

三好伊佐入道

筧十蔵

海野六郎

望月六郎

穴山小助

由利鎌之助

根津甚八




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