その時点ではまだ、「笑っていいとも!」が終わることは誰も知らない。それ以前もそれ以降も、博士さんからそういった要望は一度もない。なにか「虫の知らせ」が、そういう「指令」を博士さんに出させたのだろうか。
ただ・・・、昨年の夏と言えば、連載陣のひとりである、小説家・樋口毅宏さんの書かれた「タモリ論」がベストセラーになろうとするタイミング。僕も三軒茶屋の弟のバー「SUNKING」で、その本が完成する直前のやりとりなども聞いていたので企画の成功を喜んでいた(最近の「SUNKING」は各社の編集者が集結するちょっとした文壇バーのようにもなっている)。
編集長の博士さんは鋭い人だから「メルマ旬報」チームから生まれたその「波」がビッグウェイヴに変化する「勘」のようなものが働いたのかもしれない。
僕は一年間「メルマ旬報」において、ワム!に香川県在住のゴーストライターがいた、という「都市伝説」を追いかける小説「噂のメロディ・メイカー」(扶桑社)を執筆していた。ワム!と「タモリさん」、全く関係ないかと思いきや、音楽家の視点としてちょっとした接点を見つけ以下のような文章を小説の中に挟み込んだ。
今、まさに6月25日に出版する予定で「噂のメロディ・メイカー」の最終まとめに入っている。その時、この時「笑っていいとも!」について書いた文章は使えないと判断して(何しろ現実になってしまったので)、一部抜粋してこのブログに載せることにした。
まさか「いいとも!」が本当に終わるとはこの時は思っていなかった。
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![](https://stat.ameba.jp/user_images/20140403/05/nonareeves-life/b4/53/j/t02200310_0318044812896243570.jpg?caw=800)
~「噂のメロディ・メイカー」より抜粋~
当時の日本の時代背景を知るには、82年の10月4日に『笑っていいとも!』が放送開始になったことを例に挙げるのがわかりやすいかもしれない。ワム!の本国イギリスでの快進撃は、セカンド・シングル〈ヤング・ガンズ〉がリリースされた82年10月15日に始まる。
その誤差わずか、11日。
ワム!と『いいとも!』は、スタートとお茶の間に浸透するタイミングがほぼ同一に重なっているのだ。ワム!が84年にリリースした代表曲〈ウキウキ・ウェイク・ミー・アップ〉の邦題も、『いいとも!』ブーム直撃の中で、番組テーマ曲〈ウキウキ Watching〉の影響下からつけられたであろうことは想像に難くない。
12時になると「お昼休みは、ウキウキWatching~」と、歴代の「いいとも!青年隊」が歌い始める、お馴染みの軽快なメロディ・・・。30年もの間、すべての日本人の毎日を大なり小なり彩り続けてきた、作詞・小泉長一郎、作曲・伊藤銀次、編曲・鷺巣詩郎というゴールデン・トリオが世に放ったこの〈ウキウキWatching〉こそ、僕は「日本テレビ番組史上、最高のテーマ曲」だと思う。
僕自身は、ひとえに『いいとも!』が今日まで終わらなかったのは、ある時期を越えた頃から、あのテーマ曲が12時に鳴り響かない平日をスタッフや出演者、そして主人公であるタモリさんをも含む全日本国民が、深層心理として「怖がっている」からではないか、と思っている。
仮に『いいとも!』が今と同じキャストで続いたとしても・・・、まったく関係ない別曲に、テーマ音楽が変更された瞬間、全国民を圧倒的な喪失感が襲うだろう。
音楽に、それほどの「呪術性」が宿っていることを、現代を生きるコメディアンとして最も知る存在。それが、僕はタモリさんの本質ではないかと思う。聖火をリレーするように、彼は粛々と明日へと、「国歌」的存在のあの陽気なテーマ曲を、30年以上繋いできた・・・。
2013年8月10日
西寺郷太
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あの歌が鳴り響かない平日の12時が、これから訪れようとしている。
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