女優 渡辺美佐子さん、トークショー。 | 計画をねりねり・・・・・・。

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思いつくままにオッサンが、Negicco、WHY@DOLL(ほわどる)を筆頭とする音楽、そして映画や読書のことなどをゴチャゴチャと。

6月17日(土)、神保町シアター

「追悼企画 映画監督 鈴木清順の世界」

17:45~19:15 『野獣の青春』

 

 

上映後のトークショー。

午前10時から売り出されたチケットは、昼過ぎに完売となった様子。

カミさんと二人で映画を鑑賞したあと、引き続いて開催されるトークショーを聴講。

この手のトークショーに参加するのは、自分もカミさんもはじめてである。

 

 

『野獣の青春』、鈴木清順監督の傑作だった。

実におもしろい。

緩急自在な演出、その合間に挟み込まれるユーモア。

宍戸錠演じる主人公水野錠次も、きわめて魅力的。

1時間32分が、またたく間。

映画オタクでもなんでもないカミさんも、隣でスクリーンに惹きつけられているのがわかった。

そんなすばらしい映画を観た直後に、ぼくらの前に登場したのは、この映画の主演女優を務められた渡辺美佐子さん。

今年の10月で御年85歳になられるのだが、まったくお若くしっかりしていらっしゃる。

そして女優さんだけあって、品位にあふれている。

気がつかなかったのだが、客席の最後列は関係者席としてあり、そこでぼくらと一緒にご覧になっていたのである。

司会は、映画評論家の山根貞男氏。

 

 

 

 

以下、備忘録として断片的に(録音ではなく記憶で書いてますので、細部に誤りがあるかもしれません。また、話の順番も入れ変わっておりますし、ニュアンスも違っております。あしからず、ご了承ください)。

 

 

  ◆◆ 本日の映画 『野獣の青春』 の出演について ◆◆

この映画のことは、まったく覚えていない。

当時は、所属していた劇団を支えるために、劇団からの指示で映画に出演していた。年間5本の出演契約を結んでいたのだけど、多い時は年間10本ほどに出演していたから、何がなんだかよくわからなくなることもあった。

 

  ◆◆ (筆者注:この映画、ラストでどんでん返しがあって、渡辺美佐子さん扮する竹下未亡人が実は裏の顔を持つとんでもない悪女。サイコパス気質を持つ「スダレの秀」(演じるのは川地民夫)が途中で登場するのだけど、こいつは 「パンパンの息子!」 と毒づかれた瞬間、そのセリフを言った相手の顔面をカミソリでスダレのようにズタズタにしてしまう極めて危険な奴。そんな秀に聞えよがしにジョーが肝心のセリフを言い放っておいて、未亡人と秀を一室に残していく。当然、観客は、未亡人の美しい容貌がズタズタにされてしまうシーンが次に登場するものだと思うのだけど、しかし、このシーンは登場しない。)

 一説によると、このシーンは撮影したのだが使わなかったと言われている。果たして実際はどうだったのか? ◆◆

撮影した覚えがない(筆者注:まあ、ご本人がそうおっしゃられているのだから、撮影したというのは噂が一人歩きしたのだろうと思われる)。

 

  ◆◆ 鈴木清順監督の印象は? ◆◆

いつもピケ帽を被っていらっしゃる。撮影がはじまると、お風呂にも入らず、ぜんぜん着替えないでヨレヨレな服装のまま。

 

  ◆◆ じゃあ、匂ったのでは? ◆◆

匂いはあまり感じなかった。

 

  ◆◆ ほかに印象に残っていることは? ◆◆

映画の撮影は、10秒、15秒ほどでカットされていく場合がほとんどだけど、一度などは、一日をまるまる段取りに費やして次の日に長廻しで撮影したことがあった、それがすごく記憶に残っている。

役者に対して、それほど厳しい要求をされる監督さんではなかった。

 

  ◆◆ 今村昌平監督の 『果てしなき欲望』 について(筆者未見)◆◆

松竹が購入したこの映画館くらいある大きな扇風機を借りてきて、ホースで雨を降らせその扇風機で風を起こして暴風雨の撮影をしたのだけど、たいしたことないわね、などといっていたら助監督の浦山桐郎さんが風で飛ばされてしまった。

川崎にある川で撮影したのだけど、撮影の2~3日前に土砂降りがあったみたいで、その川は泥水のようになってゴミやらなにやらが浮いていた。その川に浸かる役だったのだけど、自分の眼の前にネズミの死体が流れてきて、それには白いウジがわいていた。そのすぐそばの水を飲んでしまったのだから、つい意識が朦朧となり気絶してしまった。あわてたスタッフが運び出してくれ寝かされ、今村監督もご自分のハンカチで顔を拭ってくれたりしたのだけど、「ゴメン、さっき、このハンカチで鼻をかんだんだった」

 

  ◆◆ 加藤泰監督の 『真田風雲録』 について(筆者未見) ◆◆

加藤監督はローアングル撮影にこだわるから、午前中は撮影所の地面に穴を掘ってカメラを据え付けることからはじめるので、午前中に撮影できるのはせいぜい1カットくらいだった。

『真田風雲録』は、もともと福田善之先生の戯曲で千田是也先生が演出をなさった舞台作品だった。それを有馬稲子さんがご覧になってご主人の中村錦之助さんに 「あなたもこういう作品をやったほうがいいわよ」 ということで、二人そろって舞台をご覧になった。それがきっかけで映画化された。自分はむささびのお霧(霧隠才蔵)の役だったのだけど、裸馬に乗馬するシーンの撮影中に爆薬の音で馬が驚いたため落馬してしまった。したたかに地面に打ちつけられ編みタイツも破れ苦悶の表情を浮かべていると、加藤監督が「カメラ、カメラ、早く、早く」とその悶え苦しんでいる表情を撮影。それを撮影し終えるとようやく「カット」の声がかかった。

 

  ◆◆ 石原裕次郎について ◆◆

神戸でのロケの際、強面なその筋の方々がずらりと並んでロケ隊を守るために囲み、その中で撮影したことがあるのだけど、あれはちょっと怖かった。

『零戦黒雲一家』(筆者未見)の撮影は、種子島で行われたのだけど、女性の役者は自分ひとり。裕次郎さんをはじめ男性陣はすべてひとつ屋根の下での合宿生活。自分はひとり薬屋さんの2階で寝泊りし、食事のときだけ、屋根伝いに合宿所のようなところまで行って一緒に食べた。

裕次郎さんや、小林旭さんが脚光を浴びるようになってくると、日活映画における女優の役割は添え物のようになってしまい、これまでは文芸作品も製作していたのだけどそれらはすっかり影を潜めてしまって、とても残念だった。

 

 

 

  ◆◆ 主役を食う ◆◆

『逆光線』(筆者未見)で北原三枝さんとはじめて共演。渡された脚本に基づいて、自分は懸命にその役を演じたところ、主役を食ってしまうからというダメ出しをされた。自分にはその意味がさっぱりわからなかった。一生懸命に演じていることが、なぜダメなのか。どうしたらよいのか、思いつかなかった。それならば、脚本そのものを主役を食わないように直してもらいたかった。

それでも、経験を重ねてゆくうちにだんだんと主役を食わないようにする勘所がわかってきた。

 

  ◆◆ テレビについて ◆◆

初期のテレビはすべて生放送で、ドラマももちろんそうだった。そのための緊張感はすごいものがあった。舞台も生なのだけれど、まちがえてもその劇場にいる数百人に知られる程度だけど、テレビの場合は、ブラウン管の向こう側に何百万人の方々が見ているわけで、それを考えると、舞台とは比較にならない緊張感で、生放送の撮影がある朝は、このままいますぐに大地震が起こって撮影がなくなってしまえばよいのに、と思った。そんなふうに撮影したドラマの数々には良いものがたくさんあったのだけど、録画して残されているものはほとんどなく、それらはたぶん、後期の日活映画よりもすっとすばらしいものだったと思う。

 

  ◆◆ カメラマン、姫田真佐久さん ◆◆

日活では、カメラマンの姫田真佐久さんにずいぶん撮影していただいた。姫田さんには可愛がってもらい、カットの撮影が終了するたびに姫田さんのほうを向いて姫田さんの様子を伺った。演技が良ければOKのサインを出してくれるので、監督さんより姫田さんのほうを頼っていた。

 

  ◆◆ おしらせ ◆◆

新作を撮影します。監督は高橋伴明さん、主演は岸恵子さんの映画 『さきこ?咲子?サキコ?』 (口頭で聞いただけでなので、タイトルをどう表記するのか、筆者にはちょっとわかりません。ネット検索してもまだ何もヒットしません。)に、自分も出演します。来月7月がクランクインで、来年に公開予定です。最後は幽霊になって登場します。どうかよろしくお願いします。

 

 

 

 

 

以上、約45分間、とても充実したひとときだった。

俳優のトークショーははじめてだったが、さすがは練達の肉体表現者だけあって、次々に語られる言葉には説得力があり、もちろんそれらは実体験に裏打ちされたものであるため、聴いているそばから、その光景が自分の脳内に浮かび上がってくる。

映画本でかつて読んだことがある情報も、当事者の方が語られると同じ内容であっても言葉の端々に良い意味での生々しさがあるので、リアル感がとてつもなく増してくる。

それらを渡辺さんの語られたようにはここでお伝えすることができないのは、筆者の書く表現力の拙さによるもので、誠に申し訳ないです。

また、映画館の入場料金だけで映画史における貴重な証言をじかに聴くことができるのだから、これは値打ちがある。こういうイベントに初参加のカミさんも、 「来てよかったわ~」 と実感を込めて言っていたから、カミさんも自分もクセになりそう。

 

 

渡辺美佐子さん、有意義なお話の数々をどうもありがとうございました。

来年の新作映画、心から楽しみにしております。

いつまでもお元気で、ご活躍ください。