問題は、「200字論述新研究21(問題9・10)」で確認してください。

解説は、「200字論述新研究24(問題10を考える➊)」をご覧ください。

 

問題10 解説

 

年紀法と悔返し権

 

次に、本問と密接な関係をもつ事項として、御成敗式目の主要条文のなかで重要度が高く、正確な理解が必要なものを眺めてみることにしよう。

具体的には、年紀(ねんき)悔返(くいかえ)し権になる。

 

いずれについても、その意味するところを十分に把握しておくことが大切である。

 

年紀法

条 文

一、御下文(くだしぶみ)を帯(お)ぶると雖(いえど)も知行せしめず、年序を経(ふ)る所領の事

右、当知行(とうちぎょう)の後、廿ケ年(にじゅっかねん)を過ぐれば、大将家の例に任(まか)せて理非を論ぜず改替(かいたい)に能(あた)はず。…… (第8条)

 

大 意

一、御下文(幕府が所領支配を認めた文書)を所持していても実際にその土地を事実上支配せずに歳月を経た所領のこと。

これについて、御家人が事実上の土地支配をおこなって20年間以上経過した場合、頼朝公が示した先例のとおり、どのような理由があってもその現実を変えることはできない。……

 

意 味

「当知行……能はず」の部分を一言で説明すると、所領支配の現実が20年つづけば、その実状を権利に転化させて確定する、ということになる。

 

これは、所領支配における一種の時効(ある一定の事実状態が長期間継続した場合に法的規定に合致するかどうかにかかわらず権利の取得または消滅を認めること)規定を明文化したもので、年紀法(知行年紀法20カ年年紀法)と呼ばれ、武士社会が正当としてきた重要な「道理」の1つだった。

 

悔返し権

条文と注釈

一、所領を女子に譲り与(あた)ふるの後、不和の儀(ぎ)(あ)るによって、その親悔(く)い還(かえ)(取り返す)や否(いな)やの事

……女子もし向背(きょうはい/こうはい)の儀(裏切り的な行為)有らば、父母宜(よろ)しく進退の意(心のまま)に任すべし。…… (第18条)

 

一、譲状(ゆずりじょう)を得るの後、その子父母に先んじて死去せしむる跡(あと)の事

……その子見存(けんそん)(現存)せしむと雖(いえど)も、悔い還すに至りては何の妨(さまた)げ有らんや。況(いわん)や子孫死去の後は、只(ただ)父祖の意に任すべきなり。 (第20条)

 

一、所領を子息に譲り、安堵の御下文(幕府が相続を認めた文書)を給(たま)はるの後、その領を悔い還し、他の子息に譲り与ふる事

……父母の意に任すべきの由、具(つぶさ)に以て先条(第18条と第20条)に載せ畢(おわ)んぬ(掲載したところである)。先判(せんぱん)(すでにある証文)の譲(ゆずり)に就きて安堵の御下文を給はると雖も、その親これを悔い還し、他子に譲るにおいては、後判(こうはん)(のちに作成された証文)の譲に任せて御成敗(裁断)有るべし。…… (第26条)

 

意 味

悔返しとは、中世における財産処分上の用語で、いったん譲与した財産・所領を、その譲り主があらためてとりかえすことをいう。

 

御成敗式目では、一族結合の頂点に立つ惣領親権を重視する立場から、子に譲与した財産・所領を親の意思でいつでも一方的にとりかえしてよいと規定された。第26条に示されているとおり、それは、たとえ鎌倉幕府からすでに「安堵の御下文」を与えられた所領であっても行使できる強力な権利だった(親権の絶対化)。

 

問題10 解答

源頼朝以来の先例や武士社会における「道理」を成文化した御成敗式目は、合議の指針や公平な裁判の基準を示すために編纂された。したがって式目は、武家初の体系的法典として幕府法の自立を宣言するものだったが、一方で、律令の系譜をひく公家法や荘園領主のもとでの本所法と共存する性格をもっていた。また鎌倉幕府による追加法は式目追加と総称され、室町幕府も式目を基本法としたため、その追加法は建武以来追加と総称された。

(200字)