■3章:遍路3周目■深まる絆
3. 一難去ってまた一難
DAY76-2
民宿あずさで、しばらくやるせない気持ちでボーっとしていると、誰かがドアをノックした。
博士に違いない!
ドアを開けると博士が立っていた。
私「博士・・・。」
博士「Noisy・・・。」
博士の顔は何故だか少し心配しているようにも見えるし、私の顔を見て少し安心した様子でもある。
私「入って!」
博士は、部屋に入って来た。
私「入って来る時、大丈夫だった?」
博士「一応、宿の人に会いに行くって言ったら、どうぞって言われたから。」
私「そう。じゃあ、よかった。」
博士は、どことなく私の残念な気持ちでいるのを察していたから来たようにも思える。
部屋に置いてあるテーブルの所へ座り、他愛もない話をする。
博士「突然、出発してしまったから、びっくりしたんや。」
私「そう。そろそろ行かないとやばいなと思って。」
博士は、何か言いたそうなのだが、それ以上言わなかった。
私「ねえ、博士。今日は、何時までに帰らなきゃいけないの?」
博士「いや、今日、帰るけど、何時までにってのはない。」
私「そうなんだね。じゃあ、ゆっくりできるね。」
博士「あ・・・。今日は、夜ご飯は何を食べるか決めとるん?」
私「いや、決めてないよ。一応、食パンとかバナナは持ってるけどね。」
博士「そしたら、インドカレーを高松市内に食べにいかん?」
私「きゃあああ~~~!インドカレー!遍路してるから、そんなの食べてないから行きたい!」
博士「そしたら、行こうか!」
博士は、どことなく私を元気づけようとしている風にも見える。
早速、博士の車に乗り、高松市内へと出かけた。
スパイス王国と言う、インド人が作るインドカレーのチェーン店だ。
店内へ入り、席へ案内されると、博士がチラリと目で隣へ座るよう促すので、4人用のテーブル席なのだけど、対人恐怖症の博士が疲れないよう直ぐに隣へ座った。
残念な気持ちを盛り上げたかった私は、なんとなくビールを注文したかった。
私「ねえ、博士。私、飲んでいい?」
博士「うん。いいよ。どうせ、運転は俺がするんやし。」
カレーとビールを注文して、博士と話をする。
今日の私にとっては、博士の存在がとてもありがたく、癒されもするし、元気づけられる気持ちだった。
実際、博士は、私を元気づけようとしているのだと感じた。
意外に繊細な私は、博士の微妙な仕草からも、その空気を読みとっているし、博士も対人恐怖症だからこそ、相手を気にし過ぎて微妙な空気を読みとれるどころか、読み取り過ぎるのかもしれない。
だから、私達二人は、目で会話をすることが可能だった。
ただ、私と二人だけでいる時の博士は、他の人といる時とは明らかに違う事がある。
いつもお喋りな私よりも博士の方が話していることが多いのだ。
それは、沢村さんのように喋り続けて私が喋るタイミングがないと言うのとは違っていて、博士の話は面白く、ニヤリとしてしまうような笑える話ができるユーモアのセンスも実は持ち合わせていたのだ。普段、他の人達には見せない顔であり、博士の本当の性格なのだと思う。
博士の話を聞いていると、淡々と話している割に内容が興味深い話だったり、つい笑ってしまうような面白い話をしているのだ。お世辞笑いではなく、自然と心の底がウキウキしてきて、気づいたら私は、つい笑っている。
インドカレーを食べながら博士の話は止まらない。
博士「この前、コンビニに行ったら、フルフェイスのヘルメットをかぶったまま立ち読みしとる人がおったんや。」
私「え?コンビニの中に?」
博士「うん。ず~っと被っとったんや。」
私「ははは!そんな人見かけたら驚くよね。」
博士「でも、その人は真剣に雑誌を読んどったよ。それでアイスを買って、外に出たんやけど、気になって~、アイスを開けながら、その人を見とったら、アイスを落としてしまって。」
私「え~!残念!」
博士「ははは!!ほんと、なんでフルフェイスで立ち読みしとるん?アイス落としたやんかと思って、もう一回コンビニに戻って、藁人形買いに行こうかと思ったんや。」
私「ははは!!」
私達は、こんなくだらない話を延々と続け、インドカレーを堪能した所でお店を出た。
博士に癒されたとはいえ、ゴンちゃんの事が残念過ぎた私の気持ちは、まだまだ上昇してこなかったので、このまま博士と別れるのは嫌だった。
私「ねえ、博士。宿に戻ったら、もうちょっとだけ飲みたいんだけど、付き合ってよ。」
博士は、何か思う所があるのか、直ぐ「いいよ。」と言って、途中ビールを買いにコンビニへ寄ってくれた。
博士「フルフェイスの人がおっても、よそ見したらいかんよ!ビール落とすよ!」
私「ははは!!わかった!手元に気を付けるわ!」
そう言って、店内でビールを買い、博士の車で宿へと戻る。
部屋で机の所へ座って、私はビールを飲みながら博士と話す。
私「いやあ。今日は、来てくれてよかったよ。癒されたわあ。」
博士「そう・・・。それならよかった。」
私「なんか、実はちょっとつまんない気持ちでいたから。」
博士の顔に緊張が走り、真剣な顔になる。
博士「実は~・・・。俺は・・・・。聞いたんや・・・。」
私「え!?何を?」
博士「昨日の夜・・・マントラで女の子が・・・強姦されたって・・・。」
え?
私は、固まってしまった。
誰が、そんな話を博士にしたのか?
昨日、ゴンちゃんと私しかあの駐車場にはいなかったはずだ。
それに夜中で静まり返っていて、私達が暴れていたからと言っても、周囲の家は声が聞こえるほど近くなく、ましてや敷地内にある遍路小屋にも離れていて、おそらくやりとりが聞こえるはずもなかった。
誰だ!?
私「え!?誰に聞いたの?」
博士「いや・・・。それは、言えん。」
博士の顔はこわばっている。
私「なんで?」
博士「誰にも言ったらいかんって約束で聞いたんや。と言うか、俺が教えてくれって言ってお願いをしたんや。」
私は、この瞬間、博士が何故、今夜ここへやって来たのかを悟った。
いずれにしても、元気づけようと思って来てくれたことに変わりはなかった。
それにしても・・・。
あの空間に誰もいなかったはずなのに、誰が・・・。
私「でも、その人も根拠もなく、誰に聞いたの?」
博士「いや。その人は、自分がその現場におったと言っとるんや。」
え?その現場にいた?ゴンちゃんと私以外、誰もいなかったはずだけど・・・。
私の頭の中は、目まぐるしく忙しく動く。
あ!!
忘れてた!
西川さんだ!
西川さんに違いない!
西川さんは、遍路小屋からは離れている倉庫の中にテントを張っている。
その倉庫は、昨日、ゴンちゃんと押し問答になり暴れた場所に近いから、私たちの声は確実に聞こえていたはずだ。
ただ、見えてはいないのだ。
確かに思い返してみると、私たちの声だけ聞いたら、強姦されているように思ったに違いなかった。
私「もしかして、西川さん?」
博士は、一瞬、固まってしまった。
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