■3章:遍路3周目■深まる絆

                            2. 嵐はやってくる​

 

DAY75-4

 

博士が帰ってしまった後、なんとかこの楽しい状況を壊さないで、ゴンちゃんと二人きりの状況を切り抜けようと思いながら、二人だけの宴会はもう少し続く。

 

ゴンちゃん「俺なあ、ほんまにお前には、感心してん。」

私「あ、そう?なんで?」

ゴンちゃん「だってな、2周目の時に沢村さんが付きまとっとる言ってたやろ?」

私「うん。」

ゴンちゃん「それで、中途半端や言うて高ちゃんと電話で言うたやんか。」

私「うん。」

ゴンちゃん「高ちゃんも言うてたんやけど、あの後、沢村さんと行くってお前が決めたって電話で聞いてな。その後、ここでいつものように高ちゃんと飲んでてん。」

私「うん。」

ゴンちゃん「でなあ、高ちゃんは、亡くなってしまったけど、高ちゃんがな、ほんまにお前みたいなやつはおらんなあ言うて、すっごい感心してて。高ちゃんがなあ、お前は偉いって言うてたわあ。俺も同じことを思って。ほんで、あの晩、高ちゃんは、ず~っとお前の話をしてたで。『何処の誰があの沢村さんと回んねん!そんなん誰にも思いつけへんわあ!』言うて。」

私「そうなんだ!高ちゃん、そんな事言ってくれてたんだ!」

ゴンちゃん「そうや。それで、高ちゃんが、『中途半端や言うたけど、あいつは完全に自分の世界を持っとって、自分が信じることに向かってんねん。尊敬するわあ。』ってず~っとあの晩、言うててんけどな、俺もなほんまにそやなあ思ったから、今度帰って来た時に、言おうと思ってたら、高ちゃんが亡くなってしまったからなあ。高ちゃんは、直接お前に伝えることはできへんかったけどな。」

私「そうなんだねえ。でも、そう言ってくれてたのかと思うと嬉しいよ。」

 

実際、高ちゃんに電話で沢村さんと回ることを伝えて、高ちゃんがこう言ってくれていたのは、高ちゃんが危篤に陥ってしまう2日前と言う事になる。

 

ゴンちゃん「それでな、結局、高ちゃんの危篤って事で、沢村さんとここへ戻ってこなあかんくなったやろ?」

私「うん。」

ゴンちゃん「あの時は、バタバタしてて、それどころじゃなかったけど、実はなあ、俺は更にほんまにお前に感心しててん。」

私「なんで?」

ゴンちゃん「だってな、沢村さんは、あんだけお節介で皆に迷惑かけて、皆も鬱陶しがってたんやで?」

私「うん。知ってるよ。鬱陶しいと言えば、鬱陶しい人だから。」

ゴンちゃん「そやろ?でもなあ、ここへ来た時にびっくりしてん。あの、鬱陶しいはずの沢村さんがな、誰にも何にも迷惑かけんと、ここにおったやんか。あんなん初めて見たしな。でも、あれは明らかにお前が、沢村さんを上手い事コントロールしてたからやって。でも、お前がコントロールしてるから言うてな、沢村さんが嫌な思いをしてるとかじゃなくて、むしろ、あんなに楽しそうにしてる沢村さんを俺、初めて見たんや。」

私「ね、沢村さん、無駄に楽しそうだったでしょ?」

ゴンちゃん「ほんまやでー!何がそんなに楽しいの?って感じやったなあ。それで、何が一番すごいってな、今までは、あの鬱陶しい沢村さんに迷惑をかけられて、皆も嫌な思いしてたし、それで煙たがられる沢村さんも楽しい思いはしてなかったはずやし、俺だって、沢村さんがここへ来て、皆に迷惑かけて困っとったしな。でもなあ、お前がおるだけで、沢村さんは、楽しそうやし、誰も迷惑してへんし、むしろそんな沢村さんとお前のやり取り見て、皆、楽しんどったしな、俺も迷惑やなあって心配せんですんだからな。だから、結局、沢村さんだけじゃなくて、皆、皆、一人残らず、楽しくしていられる状況を作ってたのは、やっぱりお前やな思って。今度帰ってきたら、それを言おうと思ってたんや。」

私「そうなんだ。それは、良かったよ!私なりに考えて進んだことが、それで良かったんだなって思えるよ。」

 

私が、日和佐町立図書館に雲隠れをして、沢村さんとのことを真剣に考えて決断して、進んできたことが報われる気がしてゴンちゃんがそう言ってくれるのは嬉しかった。

 

ゴンちゃん「それとなあ。」

私「え?まだあるの?」

ゴンちゃん「お前、大瀧寺のお坊さんがいい人やったって電話で言うたやろ?」

私「うん。あの不愛想なお坊さんね。」

ゴンちゃん「そうや!ここにおって、いい話をお遍路さん達から一度も聞いたことなかってん。あそこはなあ、別格で言うたら20番で最後やから、別格を回ってる人にとっては、あそこの寺が結願する最後の寺やねん。」

私「あ!確かに!私は乱れ打ちだったから、それに気が付かなかったけど、言われてみたらそうだね!」

ゴンちゃん「それにあそこへ行く道は、結構な山で上るのも大変やんか。」

私「確かに。」

ゴンちゃん「最後な、お遍路さん達は皆、色んな思いを胸にあの山を上って行くわけや。で、ようやく上り詰めた最後にあの寺があるんや。お参りをして、色んな思いに浸ったまま、納経所へ行くわけやろ?そしたら、そこで皆、不愛想な態度をされてしまって、折角、結願して上り詰めた気持ちを一気に突き落とされるわけやから。」

私「そう言われてみれば、あのまま不愛想な態度だと、折角、最後の山を歩いて登って結願した人にとっては、奈落の底へ突き落とされた気持ちになるだろうね。」

ゴンちゃん「それなのに、お前は、いい人やったって電話で言ってて、何があったんかなと思ったら、そこで考え込んで立ってたら、お坊さんが優しくしてくれたって話をしてくれたやんか。」

私「うん。」

ゴンちゃん「俺なあ、やっぱり、お前は他の人とは違うなあと思って、感動してん。あれはな、あのお坊さんの中にあるものをお前やったから、その場で直ぐに引き出せたんやと思うねん。これもな、帰ってきたら言おうと思ってたんや。」

私「そうなんだ。まあ、そう言ってもらえると嬉しいよ。」

 

高ちゃんの事があって、今回帰って来たけど、社長さんや奥さん達と温泉へ行ったり、お好み焼き対決したりして、必ず誰かがいたので、二人でこうやって話し込むこともなかったことに気が付いた。

ただ、これ以上、一緒に居ない方がいいと判断して、お開きにしないかと促す。

 

私「ゴンちゃん、ちょっとそろそろ片付けようよ。」

ゴンちゃん「そやな。」

 

二人で片づけをしてテーブルやイスなどをも運び終わって、駐車場の片隅で挨拶をする。

 

私「じゃあ、ゴンちゃんお休み!」

ゴンちゃん「あんなあ、まだ話あんねんけど。」

私「何?」

ゴンちゃん「この前の続きの話や。杖ノ淵公園の続きの。今度聞いてくれるって言ってたやろ?」

 

確かに、今度聞くとは言った。

 

私「で、何?」

ゴンちゃん「俺なあ、何回も言うてるけど、お前の事が好きやねん。」

私「私は、友達がいいなと思ってるんだけど。」

 

ゴンちゃんの声が一段と大きくなる。

 

ゴンちゃん「なんで俺の事がわかれへんねん!」

私「ゴンちゃん!もう、夜だからうるさいよ!」

 

ゴンちゃんも一瞬声のボリュームを落とす。

 

ゴンちゃん「俺は、こんなに真っすぐお前の事しか見てへんやん!なんでわかれへんの?」

そう言って、私の体が潰れてしまいそうな程、抱きしめてきたので、私は暴れた。

 

私「痛いーー!!痛いよーー!!」

 

もはや、ゴンちゃんには虚しくも私の声は、届かないようだ。

押しつぶされる胸は苦しく、必死に声を出したくとも声が出ない。

私は、暴れて、ゴンちゃんの手を振り払おうとするのだが、やはり、男の力は強すぎる。

歯止めのきかなくなったゴンちゃんは、野獣のように暴走し始め、一層、力が入る。

ゴンちゃんの力が強くなればなるほど、私は暴れた。

 

私「やめろーーーー!!!この野郎!!痛いーーー!!!離せーーーーー!!」

ゴンちゃん「俺は、こんなにお前を真っすぐに見てんのになんでわかれへんねん!」

ゴンちゃんは、お遍路もしていて筋肉質だ。

その野獣と化したゴンちゃんをもう誰も止めることはできない程、自分の思いを私にぶつけて来る。

もうこうなったら戦いだ。

 

私は、これまでの遍路の道のりで使った力以上の力を振り絞る。

もう、やけくそだ!

私の両腕は、既に一瞬で筋肉痛になってしまう程の力で、ゴンちゃんを払いのけようともがく。

 

私「だから、止めてくれって言ってるじゃん!」

ゴンちゃん「もう、俺、止まらへん!俺の気持ちがなんでお前にはわからへんねん!」

私「わかるかーーー!!!離せーーー!!!この野郎!!」

 

既に20分程はたっただろうか?

暴れ続けて、両腕の筋肉が悲鳴をあげ始めている。

 

ああ・・・。

くっそ!!

無理だーーーー!!!

 

私の体から力が抜けて両腕もダラリと垂れ下がると、その隙にゴンちゃんは、渾身の力で私の体が潰れてしまう程、抱きしめる。

私は、全身の力が抜け、筋肉疲労と共に脱力感しかなく、骨のないイカのようになる。

 

 

つづく・・・   

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