■3章:遍路3周目■深まる絆
2. 嵐はやってくる
DAY74-1
朝、マントラで目覚めて、温泉へ行けるよう準備を整えておいた。
8時には、社長さんと奥さんが車で迎えに来たので、ゴンちゃんと一緒に自宅の方へお邪魔する。
早速、庭の植木の移動などの作業にゴンちゃんと取り掛かった。
ゴンちゃんは、なんだか私と一緒に居られることが嬉しそうで少年のように輝いた眼で、作業を進めている。
ゴンちゃん「今日、温泉に連れて行ってもらえるの、楽しみやなあ!」
私「おい!そこのへっぴり腰!これも持って行ってくれる?」
ゴンちゃん「ははは!!お前もいい加減、へっぴり腰やでって言いたいけど、むしろたくましいなあ!」
私「ははは!!私だったら、はっきり言って、その植木鉢だけじゃなくて、その植木鉢を運んでるゴンちゃんごと運べるもんね!」
ゴンちゃん「こんな感じか!?」
そう言って、植木を運んでいる私をゴンちゃんは持ち上げて、私ごと植木を運んだ。
私「ははは!!やるじゃん!ゴンちゃんも!」
ゴンちゃんは、随分、私にも気を配ってくれ、優しい。
二人で冗談を言い合いながら、楽しく作業を着々と進めた。
作業自体は、一人でもできそうな内容だったので、ゴンちゃんと2時間ほどで終わって社長と奥さんに声をかけに行く。
ゴンちゃん「作業、終わりました!」
奥さん「あ!中へ入って!お昼ご飯にカレーを作ってあるから、皆で食べましょう!」
私とゴンちゃんは、中へ入って行き、奥さんが作ってくれていたカレーを社長さんと奥さんとゴンちゃんの4人で頂いた。
ゴンちゃん「ご馳走様!」
私「ご馳走様でした!」
奥さん「あら?まだあるのよ。まだ食べる?」
ゴンちゃん「いや、もうお腹いっぱいやあ!」
奥さん「え~!ゴンちゃん!もっと食べてよ~!いっぱい食べるかなと思っていっぱい作ったのに~!」
社長さん「ははは!今日は、手伝ってくれてありがとう!助かったわあ!そしたら、そろそろ温泉行こかあ!」
社長さんの車に乗り込み、何処の温泉へ向かうのか知らないまま温泉へと向かう。
到着してみると、そこは塩江温泉・行基の湯だった。
山間にあり、目の前には川が流れていて、日本昔話にでも登場しそうな人里離れた緑豊かな温泉地だった。
私「うわあ!いい所ですねえ!」
社長さん「そうやろ?気に入ってくれた?」
私「ここは、本当に気持ちの安らぐところにありますねえ!」
山の新鮮な空気に、身も心も洗われるようなところだった。
男女それぞれに別れ、ゆっくりと温泉を堪能した後、川辺にテラスがあり、そこに社長さんとゴンちゃんが涼みながら待っていたので、奥さんと一緒にテラスへと行く。
お風呂でさっぱりした後の新鮮な空気は、これまた気持ちよかった。
奥さん「Noisy、アイス食べない?ゴンちゃんも。」
社長さん「遠慮せんと!」
奥さん「そうよ!今日は、どうしてもお礼がしたくて、折角来たんやから!」
私とゴンちゃんは、顔を見合わせて同時に返事をした。
「いただきます!」
4人でアイスを食べながら、清々しいゆっくりとした時間を過ごす。
奥さん「でも、あなた。Noisyは、本当にちゃんと教育を受けた人なのよ。そうでなきゃ、あの高ちゃんの時にでも、あんな風に知らない所で、いきなり全てを仕切って回すなんて、できないから!」
社長さん「ほんま。助かったよ。ありがとう!」
私「いやいや。できることをしただけなんで。」
奥さん「だけど、本当に。それにしても、あれは誰にもできないわよ!」
社長さん「Noisyが高ちゃんの仮通夜終わって直ぐに旅立って行ってしまってから、二人でしまったなあ言うて話しててん。Noisyは、何処かできちんと教育を受けたんやろうなあ言うて。それなのに何にもお礼もせんと、Noisyは行ってしまったわ言うて。」
私「まあ、うちの父さんが厳しかったので、父さんに大分教育されましたけどね。」
いきなり奥さんの顔が、まるで予想が当たった!と言わんばかりに明るくなった。
奥さん「やっぱり!だって、普通は知らない所で急にあんなに立ち働くって無理よ!」
社長さん「ほんまやでー!あんなん見たことないわあ。」
ふと、社長さんと奥さんは、私の話ばかりになってしまったので、今日手伝ってくれたゴンちゃんが、なんとなく寂しそうな顔をしているのに気が付いて、更に続ける。
社長さん「ゴンちゃんも、ありがとう!ゴンちゃんもいっつも助かってんで!」
奥さん「そうよ!ゴンちゃん。あなたも手伝ってくれて助かってるから、私達には必要なのよ!」
ゴンちゃんは、ホッとした顔になって答える。
ゴンちゃん「ああ。それならよかった!いやあ、Noisyの話ばっかりになってるから、俺、どないやねんって思って、ちょっと心配になったわあ!」
皆が笑う。
ゴンちゃんは、こういう可愛らしい所もある人なのだ。
そして、改めて社長さんは私に頭を丁寧に下げる。
社長さん「Noisy、ほんまに助かりました。ありがとう。」
横で奥さんも頭を一緒に下げた。
私「いやいやいや!!こちらこそありがとうございます!温泉にまで連れて来てもらって!」
社長さん「だから、今回は、さっさと出発せんとゆっくりして行ってくださいよ!」
奥さん「そうよ!遠慮なんかいらないんだから!」
社長さん「それになあ、あんまり早くNoisyが出発したら、ゴンちゃんも寂しがるし、俺、またその話、延々と聞かされなあかんから。」
皆、笑いの渦に巻き込まれる。
十分にゆっくりした所で、温泉を後にして、社長さんの車に乗り込み、マントラへと送ってもらう。
社長さん「今日は、この後、どないすんの?」
ゴンちゃん「今日は、関西風と広島風でお好み焼き対決することになってて。」
奥さん「あ、それやったらスーパーよってあげましょか?」
ゴンちゃん「あ、そしたら、お願い!」
奥さん「じゃあ、折角やから、これで今日のお好み焼きパーティーして!」
ゴンちゃん「え!?いいの!?」
社長さん「ええやん!もらっとき!まだまだ二人には、お返しがたらんぐらいやから!」
スーパーに途中寄ってもらい、ゴンちゃんと急いで買い物をする。
お互いにお好み焼きなので、基本材料は、ほとんど同じなのだが、シェアするものは、それぞれにどれくらい必要かを話しながら、量を決めて買い物を進めた。
ゴンちゃん「紅しょうがはどれくらいいる?」
私「はい~?紅ショウガは、いらないよ!」
ゴンちゃん「え!?お好み焼きやで!紅ショウガいらんの?邪道やろ?」
私「紅ショウガのせるか、入れるかしたら、それこそそんな広島風は邪道よ!」
ゴンちゃん「そしたら、ソースはドロソースでいい?」
私「何を!たわけが!!広島のお好み焼きは、オタフクソースと相場は決まってるのよ!」
ゴンちゃん「え!?そうなん?俺、ドロソースの方が好きやねん。」
私「あのねえ。これは、好き嫌いの問題じゃなくて、広島風お好み焼き、イクオール、オタフクソースなの!」
ゴンちゃん「そしたら、ソースは違うの買わなあかんなあ。」
私「そうして!そこは、折れるわけにはいかないわあ。」
あれこれとお互いに夫婦漫才かのようなやり取りをしながら買い物を済ませた。
社長さんの車でマントラへと戻って来ると、他に50代後半くらいの夫婦の歩き遍路さんが到着していた。
社長さんや奥さん達も車から降りて来て、お遍路さん達としばらく戯れる。
博士も、チラリと顔を見せに来たり、休憩がてら立ち寄っただけのお遍路さん達もいた。
田宮君「あ、お帰りなさい!」
奥さん「ただいま!」
田宮君「今日は、温泉に行ってこられたんですよね?」
奥さん「そうよ!」
奥さんは、私を指さしながら、皆に話をしている。
奥さん「この人は、金髪でこんな格好してるけど、ちゃんと教育を受けた人なのよ!私にはわかる!高ちゃんの仮通夜だって、この人が、全部してくれたようなものなんだから!」
その話を聞いている人達のほとんどは、一体、高ちゃんが誰なのかさえわからないので、ポカンとしている。
奥さんは、可愛らしい天然な人なのだ。
夫婦遍路「あ、今日、お世話になります!」
奥さん「あら。ゆっくりして行ってくださいね!」
社長さん「今日は、夜、皆で広島と大阪のお好み焼き対決するみたいやから、楽しんでください!」
ゴンちゃん「そうやあ!社長と奥さんが、お好み焼きの材料を買ってくれてるから。」
夫婦遍路「そうなんですねえ!ありがとうございます!」
しばらくすると、社長も奥さんも帰って行ったので、私とゴンちゃんは、キッチンへ行き、それぞれにお好み焼きの準備をする。
まな板を並べて隣でお互いをけなし合いながら。
ゴンちゃんは、丁寧にキャベツをみじん切りにしている間、私は、キャベツを千切りに。
ゴンちゃん「キャベツ、そんなに沢山切ってどないすんねん!?」
私「いるのよ!全部!広島風は、キャベツを食べるようなものだから!」
ゴンちゃん「しかも、俺は、こうやって細かくしてんのに、そっちは千切り?」
私「そうよ!そっちとは、違うんですー!」
ゴンちゃん「このキャベツのみじん切りが決め手やのにーーー!!」
私「キャベツの存在感がなくなるから、広島は、これよ!」
私はもやしも用意。
ゴンちゃん「えーーー!!?もやし入れんの?」
私「入ってないと、美味しくないのよ!広島は!」
ゴンちゃん「大阪は、これや!紅ショウガや!!これを入れたら美味いんや!」
私「ふん!広島では、そんなの邪道よ!」
更にお互い、小麦粉などを溶かして、生地を作る。
ゴンちゃん「おいおいおい!そんなにサラサラにしてどないすんねん!?」
私「あのねえ、こっちは、クレープのような生地を焼くの。そっちは、パンケーキみたいなやつでしょ?」
ゴンちゃん「パンケーキちゃうわあ!ははは!!」
私「ははは!!でも、そっちも何気に美味そうだけど、広島の看板を今日は背負ってるから、広島の人の為に私は負けられないから!」
ゴンちゃん「俺もやーーー!!大阪を見せたるからな~~!!」
私「ははは!!まあ、負ける気はしないけどねえ。」
ゴンちゃん「絶対!これ、美味いから!負けるわけないやん!」
こんな平穏な日々がずっと続かないとも知らず、私達はこの瞬間を精一杯楽しんだ。
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