■2章:遍路2周目■映画のような話は実際起こる
1. 秋なのに儚い春の訪れ
DAY62-3
案の定、20分程するとゴンちゃんや奥さんが出て来て、なんとなく仮通夜の準備など始まるようだ。
ちらりとせっちゃんを見やると、せっちゃんはまだまだ精神的にダメージを受けている様子なので、当然、気を使ってお手伝いできるような様子じゃない。せっちゃんの分も代わりにしなければ・・・。
それに、沢村さんを見やると、私のお世話以外は我関せずと言った様子で、あちらで漫画を読んでいる。これでは、付き人として連れて来てしまっている私の責任も問われるところだ。
私は腹ごしらえも終わって万全の状態でいたので、即座に立ち上がって、ゴンちゃんの所へ行った。
私「ゴンちゃん、仮通夜は何処でするの?」
ゴンちゃん「あんなあ、お遍路小屋のこの部屋でするから、座布団並べて、祭壇はあの奥や。」
すると後ろの方で奥さんも何やら言っている。
奥さん「今日、高ちゃんの親御さんも来られて泊まって行かれるから、どうしようかしら。」
ゴンちゃんは、色んな手配で忙しくしているようだったので、即座に聞く。
私「ゴンちゃん、座布団は、並べて置くよ。どこのを使えばいい?」
ゴンちゃん「おお。助かるわ。あそこの中に入ってんねん。」
私「了解!」
あたふたしている奥さんにも話しかける。
私「今夜、高ちゃんのご両親が泊まって行かれるなら、何処の部屋にします?こっちで仮通夜して、その後、ここに皆が寝るとしたら、あっちの奥の部屋を使ってもらいます?」
奥さん「そうねえ。皆と一緒にってわけには、いかないだろうから。皆、今日は狭くなるけど、皆はこっちで寝て、あっちの奥の部屋で寝てもらいましょうか。」
私「そうしましょう。で、お布団ですけど。皆のでいいんですか?」
奥さん「そうやなあ。そういうわけにはいかないわよね。わかった!ちょっとお布団、綺麗なのを出すから。事務所の奥にあるのよ。」
私「あ、じゃあ、沢村さんをやるんで、運ばせて下さい。おーい!沢村さん!奥さんに着いて行ってお布団取って来て!」
沢村さん「はいはい!」
私「あ!奥さん!布団敷く前に掃除機かけとかないといけないですねえ。掃除機ありますか?」
奥さん「ほんとそうね!掃除機は、あそこにあるから。」
沢村さんは、私の指示に従って、慌てて漫画を閉じて奥さんに着いて行った。
私「ちょっと、座布団ここから出すから。」
直ぐに直ちゃんもやって来て手伝ってくれる。
その内、その辺にいた人達も手伝い始めたので、私は即座に掃除機を取りに行って、布団を敷く部屋に掃除機をかけると、沢村さんがお布団を持ってやって来た。
沢村さんは身も軽く、実は何気に役に立つ人なのだけど、ここでは明らかに他の人達が、沢村さんがいるとやり辛いのも私はわかっていたので、なんとか公に、沢村さんが手伝えないと言うより手伝わない方がいいと言う状況を作っておきたかった。付き人である沢村さんがブラブラと何もせずにいても、誰にも文句を言えない状況を。
私「沢村さん!ちょっとここに布団を敷いて、シーツをかけるから。」
沢村さんは、大概、身軽になんでもこなしてくれ、意外に気が利くところもあって役立つことが多いのだけど、やったことのない作業は、想像を絶する不器用さを発揮することを私は知っていた。
沢村さんは、布団の向こう側に回って、反対にいる私からシーツを半分受け取り、なんとかかけようとしているのだけど、手こずっている。
私「おい!沢村さん!早うせい!」
沢村さん「はいはい!!やりよるきん!」
私「おい!それをこの中にこうやって入れるんだよ!」
沢村さんは、必死に焦りながらやっている。焦れば焦るほど、上手くいかない。
私は、心の中で「そう。それでいいのだ。焦って上手くいかなくて。」と思っていた。
私「おい!まだか!?」
沢村さん「今、やりよるきん!」
私「おーーーい!!沢村さん!ちょっと、どけーーーー!!!あっちへ、行っとけーーー!!」
沢村さん「ひゃあああ~~~!!怖い~~~~!!はいはいはいはい!あっちへ行きます~~!!」
そう言って、沢村さんは、その場から逃げて行った。
私達のやり取りは当然、マントラ内に響き渡っていた。
直ぐに直ちゃんが気を利かせて笑いながらやって来て、沢村さんのポジションに入ってくれた。
直ちゃん「あ~あ~。沢村さん。モタモタしてるから、怒られてもうたなあ。ははは。」
直ちゃんが息を合わせて反対側で布団をセットしてくれた。
私「直ちゃん、ありがとう。」
直ちゃん「ははは。見て~!?沢村さん、あっちで何にもせんと漫画読んでるで~!まあ、ここにおってもモタモタして、どうせ怒られるだけやったら、あそこで喋らんと大人しくしてくれてるのが一番ええか!ははは。」
勝さん「ははは。あの人、あそこにいてもらうのが一番いいかもな!」
よし。
ひとまず、沢村さんは、公で手伝っても仕方がないと言うポジションに一応置いておくことができたので一安心した。
ただ、私はこっそり、本当は、沢村さんはとても役に立つ人なんだよと思った。
そうこうしていると、お坊さんの徳厳さんがやって来た。
社長さんや奥さん、高ちゃんのご両親、高ちゃんの地元から来た高ちゃんの友人、ゴンちゃんにせっちゃん、その他四国中から集まったお遍路さん達などで、仮通夜の執り行われる部屋はいっぱいになった。
私も含め、お遍路達は皆、遍路服である白装束に身を包み、敷き詰められた座布団に座ると、普通のお通夜やお葬式では見られない光景でとても圧巻だ。
徳厳さんが祭壇の前に座り、お経が始まる。
お経は、四国遍路が知っているものばかりを般若心経も含めて読んでいく。
そう。
皆、今、お遍路をしている人がほとんどの集まりなのだ。
高ちゃんの地元の友人を除けば、全員がお経を読めるのだ。
それに、声の大きい戸田君やゴンちゃんもいる。
私の声もいい加減、大きい。
いや・・・・・。
それにも負けず、徳厳さんの声は、かなり大きい。
「カンジーザイボーサー!ギョウジンハンニャーハーラーミータージー!」
全員で読むお経は、心の底に響く感動的な大合唱だ!
皆の声でかき消される、お坊さんの声は、更に皆の音量を超えようと大きくなる。
すると負けじとゴンちゃんの声も大きくなる。
皆もつられて、腹式呼吸で腹の底から声を出す。
「ぎゃーてーぎゃーてー!はーらーぎゃーてー!ぼーじーそわかー!」
「はんにゃ~しんぎょう~・・・。」
チーン!
いきなり静まり返る。
お経をほぼ全員が読め、お坊さんの声がかき消されてしまうようなお通夜もお葬式も・・・滅多に出会う事はないだろう。鳥肌が立つほど、お経が鳴り響いた。
最御崎寺にあった冥途まで届く岩の音よりは、確実に高ちゃんに届いたのではないだろうか?
さあ、仮通夜が終わった。
皆ホッとした様子でまた戯れている。
その間に、出されていた座布団をサッサと片付けていると、周りで気が付いた数人が手伝ってくれた。
私は、ふと、勝さんやゴンちゃんが消えていることに気が付き、直ぐに事務所へと向かった。
行ってみると、勝さんはせっせと高ちゃんを送る会用の料理を作っている。
ゴンちゃんも何かと忙しそうに立ち働いているので、料理は勝さんに任せることにして、それ以外のことを聞いてみた。
私「ゴンちゃん。これから送る会なら、どうするればいい?外でするなら机を出す?」
ゴンちゃん「そやな。机といすを出して。料理はなあ、奥さんと社長さんが頼んでくれてるのもあんねん。それと勝さんが汁物とか作ってくれてるから、それや。」
私「わかった!で、何人分の席を用意する?」
ゴンちゃん「社長さんと奥さんのも入れて18名。」
私「了解!」
ゴンちゃんが長机を並べ始めたので、私も机を運ぶ。
ゴンちゃん「あ、俺、他にすることあるから任せていい?」
私「お安い御用!」
サッサと机といすを並べ終わって事務所に戻る。
私「奥さん。グラスや箸は、この辺のを使います?」
奥さん「あ。ありがとう!それで!」
私は、グラスや箸や取り皿と並べてテーブルをセットし終え、勝さんの所へ行った。
私「勝さん!テーブルセット終わったよ!できたもの運ぶ?」
勝さん「え?お前、やってくれてんの?」
私「あったぼーよー!勝さん!」
勝さん「いやあーーー。お前、凄いなあ!」
私「勝さん、この辺のは出来てるなら持って行くよ~!」
勝さん「おお!よろしく!」
私は、出来上がっている料理をどんどん運んだ。
社長と奥さんが注文してくれていた料理もテーブルにセットして、宴会の準備は完了したのでゴンちゃんに報告するとゴンちゃんが皆に声をかける。
調度、博士もやって来た。
ゴンちゃん「皆!準備できたから席について!」
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