■2章:遍路2周目■映画のような話は実際起こる

            1. 秋なのに儚い春の訪れ

 

DAY60-3

 

その日、マントラには高ちゃんの事を知らないお遍路さん達も数人いた。

そして博士も。

 

私「博士・・・。」

博士「うん・・・。高ちゃんが・・・。」

 

博士も高ちゃんが好きだったようだ。

とにかく、せっちゃんに連絡しなくては・・・。

 

私「博士、ちょっとせっちゃんに連絡しなくちゃいけないから。」

博士「え!?あ・・・。そう・・・。まだ、せっちゃんに連絡・・・いってなかったんや・・・。」

 

私「沢村さん、ちょっと、せっちゃんに電話してくるから。」

そう告げて、マントラの敷地の外へと出た。

 

せっちゃんに電話したら、どうなるのかわからなく、周囲に気を使いながら話さなくてもいいよう、マントラの敷地の外の誰も通らないあぜ道で、せっちゃんに電話をかける。

10月末までは、11月から高ちゃんと一緒に歩き遍路をする資金作りで長野県の山小屋でバイトをしているはずだ。

電話に出るだろうか?

 

電話がなる。

 

トゥルトゥルトゥルー、トゥルトゥルトゥルー。

 

早く伝えなければいけないと思いつつも、どう切り出すのか?

そう思うと、電話の呼出し音が私の気持ちを締め付ける。

 

せっちゃん「はい。」

私「あ、せっちゃん。」

せっちゃん「どないしたん?」

私「あの・・・。今、バイト中?」

せっちゃん「そやで。でも、今ちょっと休んでるとこやからええで。どしたん?」

私「あのねえ、今、私、マントラに来てるんだよね。」

せっちゃん「そうなん?なんでまた?まだ、周ってる頃やろ。」

私「うん。そうなんだけどね。それで、ちょっとせっちゃんにも直ぐに来てほしいんだけど。」

せっちゃん「なあ、どないしたん?」

私「あのねえ、高ちゃんが・・・。」

 

せっちゃんの声が一瞬で変わった。

 

せっちゃん「えっ!?高ちゃんが、どないしたんっ!?」

私「・・・。私も、詳しい事は聞かされてないんだけど、危篤らしいんだよ。」

せっちゃん「えっーーー!!??どうしてーーーー!!??なんでなーーーん!?ワーーーーーン!!!」

 

せっちゃんは、受話器が壊れてしまうのかと思う程、泣き叫んでいる。

 

私「ただ、私もまだ高ちゃんに会ってないし、どうなってるのかわからないんだよ。」

せっちゃん「なんでーーーー!!??嫌やーーーーー!!!そんなん、嫌やーーーー!!」

 

気が狂ったように泣いている受話器の向こうのせっちゃんに、かける言葉もなく、私は言葉に詰まる。

 

せっちゃん「何があったん!?なんでなーーーん!?ワーン!!」

私「ゴンちゃんが言うに、脳梗塞らしい。今朝方、突然苦しんでゴンちゃんが救急車に連絡をしたらしいのよ。」

せっちゃん「きゃーーーー!!!ワーーーーン!!嫌やーーー!!そんなん、絶対、嫌やーーー!!ワーーン!!」

私「それで、今はICUに入ってるらしくて、マントラの奥さんと社長さんが詳しい事は連絡してくれるから、それまでここに皆待機しとかなくちゃいけないみたいなんだよ。」

せっちゃん「えーーーー!!なんで!?なんで!?高ちゃん、何で?ワーーーン!!嫌やーーー!!何でこんな事になったんーー!!??ワーーーン!」

 

こんな事を聞かされて、泣き止まないのは当然だ。

長い間来なかった春がせっちゃんにやっとやって来たのだ。

今だって、なんで長野の山小屋でバイトをしているかと言えば、半月後には高ちゃんと一緒に歩き遍路をするためだからだ。

毎日、高ちゃんの事を思いながら、働いているのだ。

高ちゃんとの歩き遍路に夢を膨らませながら。

 

 

私「それで、今ゴンちゃんが、四国中に高ちゃんの遍路仲間とか、実家とかに連絡をとってるらしくて、色んな所から人が集まって来るらしいよ。」

せっちゃん「ワーーーン!!ああああ!!!なんでーーーー!!??高ちゃん、やああーーーーん!!」

私「だから、せっちゃん・・・バイトを一旦中断してこっちへ来てほしいんだけど。」

せっちゃん「そんなん、行くに決まってるけど、なんでなーーーん!?ややーーー!!わああああーーー!!!一緒に歩こう言うてたのにーーー!!どないなったんーー!!??嫌やーーー!!わああああーーー!!」

 

到底泣き止む気配などなかった。

こんな状況で泣き止めるはずもない。

私は、しばらく受話器を持ったまま、せっちゃんの泣き声を聞いた。

ただ、泣いていても仕方がない。

なんとかせねば!

中々泣き止まないせっちゃんを強い口調で制止した。

 

私「せっちゃん!私だって、泣きたいけど、今、泣くのは違うと思うよ!」

 

ふと、せっちゃんが、泣きながらも耳を傾けた。

 

せっちゃん「え!?なんで?」

私「だって、泣いてるってことは、この後、高ちゃんが死ぬと思ってるって事だと思うから。まるで、死ぬことを意識していて、それを望んでいるかのようだから。そして、思ったことは、必ず起こるものだよ。だから!今は、泣かない。今は、泣くときじゃなくて、高ちゃんが一日も早く治って、元気になることを考えて出来ることをしてあげる時だと思うから。」

 

せっちゃんが、ピタリと泣き止んだ。

 

せっちゃん「あら?ほんまやで。何で、ワシ泣いてんねん?」

私「そう。今は、泣いたら高ちゃんに死ねと言っているようなものだと思うよ。そうじゃなくて、半月後には確かに歩き遍路には行けないだろうけど、半年、1年先でリハビリがてらになってしまうかもしれないけど、その時に一緒に歩こう!と思っていれば、事実、そうなると信じたいから。だから、せっちゃんは、泣いても私は今は、泣くときではないと思う。」

 

せっちゃんが、ハッとして冷静になった。

 

せっちゃん「いやあ。ほんまやで!ほんまや!ほんまや!何で泣いてんねん!高ちゃん、まだ別に死んでへんやん!何で、頑張れ!言われへんかったんやろ?ワシが泣いてる場合ちゃうやん!応援せなあかんときやのに!」

私「うん。私は、そう思うよ。」

 

せっちゃんは、完全に泣き止んで前向きに声を発している。

 

せっちゃん「わかった!ほな、ワシ、直ぐにバイトに言うて、山を下りなあかんから、とにかく出発してずっと運転していくから明日のお昼には着くように行くわ!」

私「うん!わかった!待ってるよ!」

せっちゃん「うん!ほな、明日な!」

 

私は、電話を切って少しホッとしてマントラへと戻った。

戻ってみると、直ちゃん(なおちゃん)とんちゃんカップルが到着していた。

 

直ちゃん「ああ!Noisy!!」

私「おお!直ちゃん!とんちゃんも!」

直ちゃん「高ちゃんが危篤や言うて聞いて、直ぐにとんちゃんとな、戻って来たんよ。」

とんちゃん「そうそう!びっくりしたわあ!」

私「うん。私も、高知市内から戻って来たんだよね。」

直ちゃん「高知市内から自転車なら大変やったなあ。」

私「いや、今は、沢村さんが私の付き人してるから、沢村さんの軽トラで来れたからよかったよ。それに諸事情で、高知市内から離れてなかったから、割と短い距離で戻ってこれたしね。」

 

私の勝手な事情だったとはいえ、あんなに高知市内で足止めをくらって、先へ進めなかったのは、この運命に引き止められていたのだろうか?

もし、あのまま何もなく先へ進んでいたなら、今頃、マントラへは四国の中でも一番遠い足摺岬か宇和島辺りにいただろう。

 

直ちゃん「え!?沢村さん、今、Noisyの付き人さんしてんの?笑かすなあ!」

 

ふと沢村さんに目をやると、いつもの沢村さんではない。

色んなお遍路さんにお節介など全くしていないことに気が付いた。

きっと、沢村さんは私の付き人をしていることで満たされているので、他にお節介をしようとも思わないのか、私の身の回りの事に気を配る以外は、ノートを出して書き込んだりしているだけだった。

お蔭で、私の心配をよそに、誰も沢村さんをうっとうしいと思う状況がそこにはなかった。

 

直ちゃん「あら?沢村さん、Noisyの世話しかしてへんやん。ほんで、Noisyの世話してる沢村さん、えっらい嬉しそうやなあ。」

私「直ちゃん達は、それでどうすんの?」

直ちゃん「高ちゃんが、どうなんかわかれへんし、病院へ行くのも奥さんと社長さん達から指示があるまで、ここで待機言われてるからなあ。いつまでここにおるんかわからんけど、とにかく指示がある日までは、ここにおるわあ。」

私「そうね。私もよ。さっきせっちゃんに連絡したから、せっちゃんは明日のお昼には到着するって言ってたよ。」

直ちゃん「あ!せっちゃんって、高ちゃんと・・・。うわ~・・・Noisy、それは、大変な役目やったなあ。こんな事、伝えなあかんなんて、きついなあ。」

私「うん。でも、もう大丈夫だよ。とりあえず。」

つづく・・・   

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