■2章:遍路2周目■映画のような話は実際起こる

            1. 秋なのに儚い春の訪れ

 

DAY60-2

 

私「え?」

 

私は、頭が真っ白になって言葉を失った。

いつもの冗談であってほしかった。

冗談にしては、たちが悪い。

 

ゴンちゃん「それでなあ、直ぐに帰って来てほしいねん。」

私「わかった!直ぐに戻るから!沢村さんがいるし、軽トラで行けば2時頃には着くと思う。」

ゴンちゃん「わかった。待ってるで。それでなあ、俺これからあちこち連絡せなあかんから、とりあえず、長い話は帰って来てからな。」

私「わかった!」

 

私は電話を切って直ぐに嫌な空気を感じて不安そうな顔をしている沢村さんを促した。

 

私「沢村さん!直ぐにマントラへ戻るよ!軽トラを出して!」

沢村さん「どうしたん!?」

私「高ちゃんが危篤らしい。」

沢村さん「え!?なんで?」

私「とにかく、移動しながら話そう。出るよ!」

 

私と沢村さんは急いで出していたノートなどを片付け、私は伝票を掴んでレジでお会計を済ませ、沢村タクシーに飛び乗った。

軽トラに飛び乗って、いつになく真剣な眼差しで運転する沢村さんは、それでも時速40キロを超えなかった。

高ちゃんが危篤なのだ。

一刻を争う。

間に合わなければ何も意味がないのだ。

 

私「沢村さん、高速道路にのってくれる?大丈夫。お金は私が払うから。で、悪いけどもっとスピードを上げて!」

 

沢村さんは指示通り高速道路にのったものの、それでもやはり沢村さんは遅かった。

ただここは高速道路だ。

下道を40キロでノロノロ走っているわけでない。60~70キロ前後で沢村さんなりに頑張って走っているようだ。

高ちゃんが心配ではやる気持ちをよそに沢村さんの遅い速度で気持ちが板挟みの中、祈った。

 

「これが、高ちゃんとゴンちゃんの悪いいたずらならいいのに。何度も何度も高知市内から香川へ一度顔を見せに来いと言う二人のいう事を聞かず、1周したら行くと言いはるから、今、私がこうやって高知市内を後にしてしまうまでの二人の作戦であってほしい。マントラへ戻ってみたら、二人が、「あー!騙されたー!お帰りー!」と出て来てほしい。」

 

もし、そうだとするなら、余りにも笑えない冗談だ。

きっと、本気でぶち切れてしまうだろう。

ただ、この話が本当であるくらいなら、悪い冗談であってくれる方がいい。

でも、さっきのゴンちゃんの声は、確実に笑ってなんかいなかったし、演技だったとも思えなかった。

これは・・・本当なのだ。

ただ私は、0.1%でも、これが悪い冗談である期待をした。

 

沢村さん「で、高ちゃん、どうなったん?」

私「詳しいことは全く分からないよ。高ちゃんの電話から電話があって出たらゴンちゃんで、「高ちゃん危篤。直ぐ戻れ。」としか聞いてないから。」

沢村さん「えーーー!!高ちゃん、どしたん!?」

私「でも、二人が毎日毎日、高知市内から一回顔を出しに来いって言い続けてたから、そうさせるための悪い冗談であってくれることを祈ってるけどね。」

沢村さん「ああ。ほんま。丁度、高知市内で一回上がってこいって言うのとピッタリやきん、もしかしたら、そうかもしれん。」

私「うん。そうだといいんだけどね・・・。」

沢村さん「うん・・・。あ~、僕は、結構高ちゃん好きやったのにな~。」

 

高ちゃんは、皆からの愛されキャラなのだ。

沢村さんは、高速道路でいつもより速度を上げて運転しているのが怖いからなのか、高ちゃんが心配だからなのか、見たことない程の真剣な目で、真っすぐに前を見てハンドルを自動車学校で始めて習った人の様に両手でハノ字に握りしめ運転している。

そして気持ちだけは、少しでも早く前へ進みたいからなのか、沢村さんはハンドルに体を近づけ、沢村さんの速度とは裏腹に体だけ前に出ている。

 

 

その間も、私の頭の中では同じことが何度も繰り返された。

 

高ちゃん危篤・・・。

昨日も元気に話してたのに!

沢村さん急いでくれ!

悪い冗談であってくれ!

いや、ゴンちゃんの声は真剣だった。

やっぱり高ちゃんは、危篤か?

だとすると、沢村さん、やっぱり運転が遅すぎるよー!!早く進めー!

いやいやいや、やっぱりゴンちゃんと高ちゃんの悪い冗談かもしれない・・・。

いや、そうあって欲しい・・・。

あ、そうだ。

ムロムロに連絡をしておかなければ。

 

ムロムロに電話をした。

 

ムロムロ「はい!Noisy!今日だよね!」

私「いや、それが悪いんだけど、ちょっと今、遍路仲間が危篤になったって連絡が来て、急きょ香川県へ戻ってるとこなんだよ。」

ムロムロ「え~~~~!!??それは、大変だあーーー!!」

私「うん。それでね、今、香川県へ向かってるんだけど、詳細も何もわからないし、どうなるのかもわからなくて、とりあえず今日は行けないって言っとかなくちゃと思って。」

ムロムロ「ああ!わかりました!」

私「で、いずれにしても落ち着いたら、遍路の続きで高知へは戻って来るのは確かだから、その時に寄らせてよ。ムロムロのタイミングが合えば。」

ムロムロ「あ、僕は全然大丈夫なんで、いつでも連絡してください!本当にいつでもいいですよ!」

私「わかった!そしたら高知に戻る前に連絡するね!」

 

私はそう言って、電話を切った。

 

ムロムロの事は、ひとまず安心。

ただ・・・。

あともう半月もすれば高ちゃんと一緒に歩き遍路をするはずだった、せっちゃんが・・・。

 

そうこう思いめぐらせていると、ようやく沢村さんの軽トラは、マントラの敷地へと入って行った。

時間は午後2時だ。

これが悪い冗談であってくれることをかすかな可能性にかけ、軽トラを降りるとゴンちゃんが一人出てきた。

遅れてゴンちゃんの後ろから、「バカだなー!騙されおってー!」と高ちゃんに飛び出してきてほしい。

頼む!

 

ゴンちゃん「悪いなあ。急なことで。」

 

ん?

頼む!

冗談だろ?

 

ゴンちゃん「ほんで、よう帰って来てくれたな。ありがとう。」

 

ゴンちゃんの目も声も真剣だった。

そして私は悟ったのだ。

これは、悪い冗談ではないと。

 

私「で、何がどうなっているの?」

ゴンちゃん「あのなあ、今朝方なあ、俺も高ちゃんも寝とってなあ。高ちゃんのベッドは隣やんか。で、突然、「うー!」って、なんか高ちゃんが苦しみだしてん。それでおかしいなと思って、目を覚ましたら、もう意識がない状態やってな。で救急車に連絡して。」

私「そうだったんだ。それで何が原因なの?」

ゴンちゃん「言うたら、脳梗塞や。それでな、今、集中治療室におって危ない状態やねん。で、詳し事は俺もわからんからな、今後どうするかは、病院とここの奥さんと社長さんが連絡くれるから、いつになるんかわからんけど、とにかく俺らはここに待機して待っとくしかないねん。」

私「わかった。なんかすることあったら言って。」

ゴンちゃん「うん。あんねん。あのなあ、俺は、まだあっちこっち四国中に高ちゃんの仲間に連絡せなあかんねん。それでな、四国中から続々と色んな高ちゃんのお遍路さん仲間が集まって来るからな、相手をしててほしいねん。俺、他の事に手を取られてるからな、かまってられへんくて。」

私「わかったよ。お安い御用よ。任せて!」

 

ゴンちゃんは、一歩近寄って来て、肩を抱くように声を潜め申し訳なさそうな顔をして付け加えた。

 

ゴンちゃん「それでなあ・・・。ほんっまに、ごめん!こんな事頼んで、ほんっまにごめんなんやけどなあ・・・。せっちゃんに・・・。連絡してくれへんかなあ?」

私「わかった!連絡しておくから。」

ゴンちゃん「悪いなあ。こんな事頼んでむごいけど、ほんまごめんやで。」

私「いいよ。気にしないで。早く、ゴンちゃん行って!」

ゴンちゃん「ありがとう!ほな、俺、ちょっと戻らなあかんから行くわ。」

 

そう言って、ゴンちゃんは他の用事をするため立ち去った。

そうか・・・。

せっちゃんになんて言おう・・・。

 

それに基本的に沢村さんは、ここでは元々歓迎されている人でもなく、お遍路さん達の中には沢村さんをうとましがっている人達も沢山いるのだ。私の付き人であるからには、誰にも迷惑はかけられない。私の気持ちは一段と引き締まった。

 

つづく・・・   

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