■2章:遍路2周目■映画のような話は実際起こる
            3.親分と子分関係な旅の始まり

 

DAY58-3

 

沢村さん「で、断ったん?」

私「やんわりと断ったんだけど、ギリギリまで待ってるって・・・。」

沢村さん「ほなら、どうするん?それでも、やっぱり行かんの?今から行っても間に合うよ?31番竹林寺へ今から行ったら。」

私「ふ~ん・・・。沢村さん・・・。」

沢村さん「ん?」

私「35番清滝寺へ。」

 

沢村タクシーは、35番清滝寺へと走り出した。

清滝寺の坂を上がりながら、私のお婆様に対する申し訳ない気持ちもドンドン上がって行った。

 

清滝寺を打って軽トラへ戻ろうとしていると沢村ラジオが言っている。

 

沢村ラジオ「ここにも通夜堂があるんですよ。あそこで寝れるきん、なんちゃらかんちゃら、どーちゃらこーちゃら。」

私「ちょっと沢村さん、朝ごはん食べたいから、ちょっとお店へ行こう!」

 

沢村さんと私は、清滝寺を降りて、近くのベーカリーをみつけて止まると時間は、9時半だった。

ああ・・・。

あと30分・・・。

私としては、迷惑をかけたくないので、直ぐにでも断りの電話を入れたいところだけど、ギリギリまで待っていると言う。

あと20分・・・。

沢村さんの分も買い、沢村さんにパンを渡した。

パンをかじりながら、刻々と迫る時間をみつめ、私は私を呪い続け、お婆様に「ごめんなさい。」と心で繰り返す。

まだ、今なら沢村タクシーで向かえば、竹林寺へ間に合うギリギリの時間だ。

 

あと15分・・・。

沢村ラジオは横で何かを喋り続けているのだけど、何も私の耳には届かない。

パンをかじりながら、何度も私の心は、私に話しかけていた。

 

「おい!今直ぐ行けば、それこそギリギリ間に合うよ!行ってあげたらどうよ!?」

「いや・・・。行かない。」

「なんで!?あんなに楽しみにしてくれているのに!」

「ごめん・・・。今の私には、行くと決められない迷いがあるから、行かないよ。」

「行ったら、喜んでくれるでしょ!」

「確かに喜んでもらいたいしがっかりさせたくないから、申し訳なくて・・・。」

「じゃあ、行けば?」

 

あと10分・・・。

 

「行かないよ。」

「なんで!?本当に今、この瞬間に向かえば、なんとかなるかもよ!」

「ごめん!行かない。」

 

あと8分・・・。

 

「もう、時間的に無理だよ!行かないなら行かないと電話しな!」

 

私は、もう一度電話した。

 

私「Noisyです。」

お婆様「あ!間に合う?」

私「本当にすみません!!完全に無理です!全く間に合わないので、始めてください!」

お婆様「え!?それは、残念すぎるわねえ。」

私「とりあえず、行かなくても進められる内容になってますよね?」

お婆様「一応、それも考えてあるから、それは大丈夫なんだけど・・・。」

 

お婆様は、どうしても諦められないようだ。

 

私「でも、もう10時になるので、本当に申し訳ないです。これ以上ご迷惑をおかけすると心苦しいので、本当に私抜きで始めてください!」

お婆様「そう・・・。わかったわ!まあ、仕方ないわね。それじゃあ、また今度、お会いした時はぜひともお願いするわ!」

私「わかりました!ありがとうございます!」

 

私は、ホッとして電話を切った。

私は、ほぼ全ての事に、自分なりの明確な答えを持って、何の迷いもなく行動していることが多い中、何故こんなに迷っていたのか。

それは、自分の遍路としての存在意義に対する答えがみつからないからなのだけど、こんなに心が闘うとは、私の今回の決断は、自分にとって間違っているからなのかもしれなかった。

自分の遍路としての存在意義の答えをみつけるまで、結局、この選択が正しかったのか、正しくなかったのかは、絶対にわからないだろうと思った。

ただ、今日この日に決断した私は、今日この日の私の精一杯の答えであったことには間違いなかった。

 

沢村さん「で、断ったん?」

私「うん。」

沢村さん「じゃあ、この後、どうするん?」

私「36番青龍寺へ行って!」

 

私は、沢村タクシーで青龍寺へと向かう。

10時を10分程過ぎたところで、お婆様からまた電話がなった。

 

私「はい。」

お婆様「あのね。私、どうしても諦められなくて、テレビ局の人にお願いをしてちょっと待ってもらってるのよ。」

私「え!?そうなんですか!?」

お婆様「それで、テレビ局の人も30分まで待ちましょうと言って下さったんでね。」

私「うわ~~!!そうだったんですね!いやあああ!!申し訳ないです!!本当に!!30分までには、着かないです。どうやっても。」

お婆様「そうなの?どうしても無理?」

私「どうしても無理です。待ってもらうのは、それこそ申し訳ないので、本当に本当に始めてください!」

お婆様「まあ、そうよね。あなたも急に言われたことだし、無理よね。残念だけど、今回は諦めるわ。じゃあ、いつか次回ね!?」

私「わかりました!ぜひ、機会あれば!」

お婆様「じゃあ、あなたも気を付けてね!」

私「ありがとうございます!」

お婆様「私達もここのお参りの撮影をしたら直ぐに次の寺へ向かうから、明後日には高知市内を離れて岩本寺へと行ってしまうのよ。今回は、それじゃあ、あなたにもう会えないわね。」

私「そうなんですね。でも、私3周することにしているんで、またどこかで会えますよ!」

お婆様「そうだったわね!それじゃあ、また会えるのを楽しみにしているから!」

私「はい!撮影、楽しんでください!また会いましょう!」

 

そう言って、電話を切った。

正直、私は、このあ婆様の溢れんばかりのパワーが大好きだった。

それに応えない私は、本当にバカ者だと自分を呪った。

 

沢村さん「Noisy、ほんまに断ったなあ。待ってくれる言うとるんやきん今から軽トラで行ったら間に合うのに。」

私「いや。もう断ったから。それに、私の為に待たせるのも悪いしね。」

 

そうこうしている内に36番青龍寺へ到着してお参りをした。

 

沢村さん「Noisy、どうするん?高知市内は、あと29番~30番竹林寺だけになったよ。まだ11時前やけど。」

 

このまま行ってしまうと、断ったとは言え、また出くわしてしまう可能性が大きい。

 

私「よっくん達は、明日、高知市内を離れて岩本寺の方の撮影をするって言ってたから、29番~30番竹林寺は、明日打つとして、明後日まで高知市内を離れて37番岩本寺の方へは向かわないわあ。」

沢村さん「でも、時間がいっぱい余るよ。」

私「うん。わかってる。でも、仕方ない。」

 

沢村さんとの1周を早く終わらせようと思っている私の気持ちとは裏腹に、何か見えない運命にこの高知市内に引き止められているかのようだった。ただ、むなしく時を刻む。

 

 

私「沢村さん、今夜の寝床で何処かいい所ある?」

沢村さん「うん。あるよ。さっき行った35番の清滝寺の通夜堂に泊まれるよ。」

私「そう・・・。それじゃあ、後でそこへ行くとして、とりあえず国民宿舎土佐へ。あそこのお風呂からの眺めがいいからお風呂に入っておくわ。」

 

よっくんのお婆様への申し訳ない気持ちと罪悪感に苛まれながら、沢村タクシーで国民宿舎土佐へと向かった。

 

沢村さん「僕は、待っとくきん。入って来て。」

 

それにしても、沢村さんは、お風呂に入らなさすぎると臭くなるけど?とチラリと思いつつも、沢村さんはお金を使いたくないのだろうと一人沢村さんをロビーへ残し、私は海の見える国民宿舎土佐でお風呂に入り、気持ちをリフレッシュした。

ここのお風呂は本当に景色がいい。

お遍路をする以前からのお気に入りの場所だった。

 

お風呂から上がり、まだ時間も2時前なので通夜堂へ行くには早すぎた。

沢村さんと近くの川へ行きボーっと時を過ごす。

沢村ラジオは延々と話し続けている。

 

沢村ラジオ「僕は、歩きでお遍路を7回やって、初めての時は1週間で止めて帰って来てしまって悔しかった~!僕は、荷物を22キロ持っとったんですよ。普通は15キロくらいやけんど、僕のは重くて重くてなんちゃらかんちゃら、どうちゃらこうちゃら。」

私「ん?なんて?歩き遍路を7回?」

沢村ラジオ「ん?うん。7回。それでね、初めての時は、愛媛の家を出て行った思ったら、1週間で帰って来たから、お袋が「あんた、何しょ~んの?」言うて、バカにされて、あ~、悔しかった!それでね、なんちゃらかんちゃらどうちゃらこうちゃら。オヤジは、ノコギリを15本も持っとるんですよ。あるのに何でまた買ってくるんか!言うて。釘なんかね、忘れて次々に買ってくるから、お店するほどあるきん、なんちゃらかんちゃら、ピーチくぱーちく。」

 

延々と混線した沢村ラジオが鳴り止むことはなかった。

 

私「沢村さん!そろそろ夕方の4時だから清滝寺へ行こうよ。」

つづく・・・   

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