■2章:遍路2周目■映画のような話は実際起こる
            3.親分と子分関係な旅の始まり


DAY57-1

沢村さんは、昨日の夜、私に言われた通り、善根宿はしもとには来なかった。
この道路沿いにあるバスの善根宿。
沢村さんが知らないはずもなかったし、探すのが大変なところでもなかったのに沢村さんは、来なかったのだ。
どうやら私のテストに合格したようだ。

今朝は、9時に別格4番の鯖大師で沢村さんと会うことになっているので、朝早く6時半には北村君にお別れを言って出発した。
大将も昨日のお礼にと言って、二人におむすびを作って来てくれたのを持って行けと渡してくれた。
北村君は、とても人懐こく気さくで楽しくなりそうなことには直ぐに腰をあげてくれる楽しい仲間だったから別れるのは、残念だった。
私以上に北村君はとても残念がっていて、今後どこかでまた会いたいし会えたらいいのにと何度も何度も繰り返し私に言っていたのがとても印象的だった。

直ぐに近くの23番薬王寺をお参りし、いよいよ沢村さんとの待ち合わせの別格4番鯖大師へと向かう。
朝早い空気はとても新鮮でこれから始まるであろう、沢村さんとの旅に気が引き締まるようだった。
まるでこれから決闘の地へ向かうかのような気持ちになりながら、自転車を最初の30分はダラダラとこいで体を温め、調子が出てきたところで、私のいつものトップスピードにのせて沢村さんとの決闘の地、鯖大師へと自転車を走らせる。
距離は20キロ程。
1周目の時は、調度せっちゃんに解散宣言をして、一人になって解放された直後に走った道だ。
この道は不思議だ。
あの時は、一人になってこれから自由になれる事への解放感と、もう二度とせっちゃんと回るのはごめんだと思って走った道を今は、沢村さんとの旅になるであろうと思いながら走っている。
同じ道なのに全く真逆の事が起ころうとしていた。

調度時間通り9時に鯖大師の駐車場に自転車を乗り入れると、沢村さんと沢村さんの軽トラが見えた。

「沢村さん、おはよう。」と声をかけながら、自転車をとめた。

そのまま駐車場で立ったまま話す。
沢村さんと私の間には、沢村さんの軽トラが挟まれていて、まるで宮本武蔵の決闘でもこれから起こるのかと言う程の張りつめた空気が流れる。

決闘


沢村さんは、緊張しているものの付き人になって付いていける喜びの方が勝っているのか、隠せない嬉しさで今にも喜びだしてしまいそうなのだが、神妙な面持ちだ。
数秒間、沢村さんに隙を与えないよう睨み合いのような間を入れてから、私は口を開いた。

私「沢村さん、付き人したいの?」
沢村さん「したいよ。」
私「じゃあ、付き人で付いて来る?」
沢村さん「行っていいんやったら、そんな嬉しいことはないよ。」
私「じゃあ、この1周、と言っても一旦松山から広島へ荷物を交換しに戻るつもりだから、松山の峠の上までだけど、そこまでなら。」

沢村さんは、あまりの嬉しさに口を挟みそうだったので、厳しい態度で制止して続ける。

私「ごるぁ!最後まで聞けっ!私は、何度も言ってるけど、自分一人で行きたいんだよ!だから沢村さんとこの1周を一緒にしたら、私は一人で行けないのがわかる?」
沢村さん「わかっとるきん!」
私「だから、沢村さんとこの1周を一緒にする代わりに、私は3周目を行くことにしたから。」

沢村さんは、3周目も付いて来たそうな発言をしかけたので、沢村さんを目で制止し厳しい口調で続けた。

私「こら!黙って聞いとかんか~いっ!絶対に!3周目は付いてこない!それが約束できないなら、この1周は、沢村さんとは行かないよ。大体、3周目に行くのは、沢村さんと2周目を行くから、その代りだと言う事は、3周目に沢村さんが付いて来てはいけないことくらいわかるよね?」
沢村さんは少し残念そうにしていたけど、2周目に一緒に行けるならと思ったのだろう。
沢村さん「わかった!3周目は、絶対に付いて行かんきん!でも、2周目は付いて行くよ!付き人で。それでね、ピーチクパーチク。」

私は、沢村さんの目を真っすぐに見据えて視線は動かさずに直ぐに声を一段と張り上げ、話を続ける。

私「ごちゃっごちゃ、うっせーよっ!まだ、話は終わってないっ!もし!3周目に付いて来るようなことがあったら、その時は、どんなに罵倒されて追い払われても仕方ないよ!わかってるよね?」
沢村さん「わかっとるきん!絶対、約束を守るきん!」
私「当然、途中で偶然会うことはあっても、付いて来るのは絶対なしだから!わかってんのかっ!?」
沢村さん「3周目は絶対に付いて行かんきん!」
私「あんた、約束破ったら、どうなるかわかってんだろうなっ!そん時は、容赦ないよっ!」
沢村さん「絶対に、約束をするきん!松山の峠の上からは付いて行かんきん!」

私は、沢村さんの目を睨むように穴が開くほど凝視した。
よし。
この目に嘘はないだろう。

私は表情を緩め、普段の声のトーンに戻して、沢村さんに言う。

私「じゃあ、私が、鯖大師をお参りしている間、ここから番外の東洋大師までは自転車で走るから、荷物だけ軽トラに乗せておいて!」
沢村さん「はい!」

私は、沢村さんにニッコリと微笑んでお参りに行った。
沢村さんは、飛び上がらんばかりの喜びっぷりだ。

こうして金髪ビキニでサングラスの自転車遍路女と背が高くて細くジャージにシャツで軽トラの年齢不詳な変人との親分と子分関係な旅が始まったのでした。

お参りを済ませ駐車場へ出てくると、沢村さんは、ちゃんと言われた通り荷物だけ軽トラに乗せてあった。

私「私は、もう少しこの区間を走りたいから、23キロ先の番外の寺の東洋大師まで行くから、そこで合流!」
沢村さん「わかった!東洋大師で待っとくきん!」

沢村さんは、張り切った様子で、軽トラで出発した。
私も自転車をこぎ始める。
鯖大師へ来るまでに体は既に温まっていたので、こぎだして5分もしないうちに自分のトップスピードにのせて走り出す。
沢村さんが荷物を持っている分、いつもより余計に心地よく走れる。
10分程、無の状態で自転車をこぎ続けていると、ふと私の右ハンドルに取り付けているミラーに違和感を覚えた。
まさか!
タコ坊主の再来か!
そう思い、ミラーを確認するとマウンテンバイクの若い青年遍路が必死に自転車をこいでいるのが見えた。
確かに彼は必死に追いつこうとしているのだろう。
それがこの離れた距離からでも伝わって来る。

ただ、あのタコおやじとは、違う。
必死に追いつこうとしていることに間違いはないのだが、私を追い越してドヤ顔をしたいからではなく、私を目標に定めて自分の中で必死に闘っているように見えた。
私の一番の敵であった暑さもなく、自転車に必要な太ももも2周目に入り十分に鍛えられている私の走りは、ちょっとお遍路を自転車で始めましたと言う人が追いつけるほどのものではなかった。ましてや、この瞬間は、荷物も乗っていないので自転車も軽い。
自分の心地よいトップスピードにのせたままペースを崩さず走り続ける。
自分のベストペースを少しでも上げ過ぎれば、後が続かないので絶対に何があっても自分のベストをキープする。
だから、その後ろから追いかけてきている青年が追い抜くならそれでもいいと思って走っていた。
ただ、一向にその青年は追いついては来ない。
私に付いて来るのが必死というように見えた。

私は、心の中で応援した。
おーい!頑張れ!
自分のペースを崩すと後が続かないことも学べるだろうし、とにかく今は、目標に定めたなら続く限り、私めがけて走れーーー!!
彼と私の距離は一向に縮まらないまま10㎞ほど走った。
それでも諦めずに青年は走り続けている。

自分のペース以上で10㎞も付いて来るのは、とてもきついはずだ。
私は、道の駅宍喰温泉を横目に見ながら通り過ぎる。
ああ、1周目の時はこの後、水に苦しんだよなと思いながら。

ふとミラーにその自転車の青年が道の駅に右折して入って行くのが映った。
そうか。
諦めたのだ。

でも、10キロよく付いて来たね!
頑張った!
でも、これ以上ついて行くと後が続かないと判断したのかな?偉い!と思いながら、私は更にこぎ続ける。

左手に広がる太平洋を眺めながら、爽快に自転車をこぐ。
ああ~!
1周目の時は、暑すぎて左の頬が焼け焦げ、体全身が干からびる思いをして走ったこの道。
自転車をこぐと汗はまだまだかくものの、涼しくなってきていることもあり、鳥にでもなった気分で快適に走り抜ける。
つづく・・・   

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