■2章:遍路2周目■映画のような話は実際起こる
            2.本当の2周目の始まりは、ただ新たな苦悩の始まりだった


DAY55-3

プレハブ小屋を出て、周囲に注意を配り見渡し、沢村さんの軽トラと出くわさないように小走りに道路を渡った。
直ぐ向かいの山に上がれる作業用の細い小道を見つけたので、急いで駆け上がる。
20メートル程駆け上がって、腰を掛けられそうなところを見つけたので、そこへ腰を掛けようと振り向くと、目の前に喜久屋さんのプレハブ小屋や道路が全て見渡せた。
腰を掛けかけようとした瞬間、前の道路を軽トラが走って来るのが見える。
沢村さんだ!
危機一髪!
出くわさないで済んだ。
様子を見ていると、案の定、沢村さんは、喜久屋さんのプレハブ小屋の前に軽トラを止めて、中へと入って行くのが見える。

ああ・・・。
やっぱり・・・。

でも、桜田さんがうまいこと言ってくれたのだろう。
沢村さんが直ぐに小屋から出て来て、軽トラで走り去るのが見えた。

どうしたもんか・・・。
私は、幾度となく沢村さんには、かなり厳しい口調で、「ここで終わりだ。」とか「一人で行くから帰れ!」と言っているはずだ。
言う事は伝えたはずだ。
このままでは、この先ずっと同じ状況に振り回されてしまう。
かと言って、皆のように「お前は、邪魔だ!お前のようなゴミは、うっとうしいから二度と来るな!」と非人道的な内容で沢村さんを追い払ったり、完全に無視で押し通すような事はしたくない。
でも・・・。
沢村さんには、そうでもしないと伝わらないのか?
きっとこれまで私も見てきたように、完全無視で追い払われるか、非人道的発言で捨て去られるかのどちらかだったのだろう。だから、例え私がかなり厳しい口調できつく沢村さんに「一人で行くから、帰れ!」とか、いや、むしろ怒鳴り気味に「こんなバカ息子じゃ、親が泣く!」などと言っても、沢村さんには反って他の人と同じようにまともに相手をされたことになるのだろう。
ただ・・・。
仮に沢村さんを追い払うにしても、完全無視や非人道的発言はしたくない。
遍路を始める最初の頃にもせっちゃんに完全無視をされ、どれほどきつかったことか。
完全無視は、その人の存在自体の否定でもある。非人道的発言と何ら変わらない行為であると私は思っているのだ。
それなら、どんなに怒鳴ったっていいから、まともなことを言うべきだと私は常に思っていた。
せっちゃんは、よく怒鳴る人が嫌いだと言っていたけど、はっきり言って私は怒鳴る。ただ、怒鳴っている時こそ私は全く怒ってはいないのだ。気合いなのだ。うちの父さんがそうだったように。人に怒鳴る時こそ、その言葉に愛がなければ怒鳴ってはいけないと思っているからだ。
だから、怒鳴った直後に笑う事だってできる。
優しい口調で嫌味なことや心に突き刺さる暴言をいつまでもグチグチと吐き続けられるのと一体、どちらがいいだろう?
私なら、愛のある怒鳴り声の方をとる。

そう言えば、長野で働いていた時の親分も全く一緒だった。
親分は、関西出身の元プロボクサー。私よりは10歳ほど年上だったけど、常に鍛え上げられたそのボディーは、20代の男の子達さえ完璧すぎて見本にならないと言う程で、若さも気合も内なる優しさも兼ね備えていた。
親分は、「お前は、俺にそっくりやなあ。」と常に言っていたけど、この人を仕事場で初めて見た時、「あ!うちの父さんそっくりだ!」と思ったのだ。ただ、私はお父さんにも性格や考えることが似ていると言われていた。つまり、この親分と私が似ていてもおかしくはないのだ。
親分の気合で怒鳴るその怒鳴り声には、常に愛があったので、むしろ怒鳴り声を聞きながらいつもニヤリとしてしまうような楽しさがあった。私は、お父さんの次にこの親分を尊敬している。

きっと、いくら私が他の人達よりも声を張り上げて、「私は一人で行く!帰れ!親が泣く!」と言ってみたところで、完全無視や非人道的言葉の暴力しか体験できていない沢村さんにとって、むしろ「愛」を感じているのかもしれない。
ただ・・・。
このままでは、私のひとり旅は、ある意味「ストーカーに追い回される旅」になってしまうのが目に見えている。

ふと、あれこれ考えていると、毎晩電話をくれているゴンちゃん、高ちゃんの顔が思い浮かんだ。
皆、同じ状況を味わっている人達なので、きっと今の状況を理解してくれるだろうと思い、気休めに電話をしてみた。

ゴンちゃん「おお!!今、何処まで行ったんや?」
私「今、平等寺の近くの喜久屋さんにいるよ。」
ゴンちゃん「そしたら、もうちょっとで高知やな!高知市内から、一旦ここへ帰って来るんやで!」
私「いや、そんなことより、沢村さんだけど。」
ゴンちゃん「沢村さん?お前、あの人にさよなら言ったんちゃうの?まだ、おるん?」
私「言ったよ。何度も何度も、さよなら言ったよ。でも、昨日も栄タクシーに探しに来るし、今日も、もう来ないだろうと思ってたら、今、喜久屋さんのプレハブ小屋が見える高台に逃げて考えてるんだけど、さっき沢村さんが明らかに私を探しに入って行くのが見えたんだよね。」

私は、一旦、気持ちを共感してもらいたかった。
だから電話したのだ。
その後の事は、自分で真剣に考えて、この先どうするのかを決めるつもりでいた。
それなのにいきなりゴンちゃんは、電話機が分解してしまう程の大声で怒鳴った。

ゴンちゃん「お前なーーー!!やってる事が半端やねん!」

今夜もマントラで皆で飲んでいるのか、酔っているのだろう。声の大きさも半端ではなかった。

ゴンちゃん「皆なあ、沢村さんには、「邪魔やーー!!もう二度と来んなーーー!」言うて、突き放すねん!お前のなあ、やってる事は、中途半端やねーーーん!」
私「いや・・・。私は、かなり強い口調で帰れ!とは、何度も言ってるよ。」
ゴンちゃん「それじゃ、沢村さんには足らんねん!とにかくなあ、今のお前は中途半端やーー!!」

かなり胸に突き刺さった。
そうは言うけど、私なりに言う事は言ったはずだとも思って、反発心も心の底でうごめいた。
密かに、そこまで言われる筋合いはない!と言いたかったものの抑え、とにかくただ一旦、共感してくれる相手が欲しかった。
すると、ラッキーなことに、ゴンちゃんは言葉を吐き捨てて、高ちゃんに電話を変わった。
高ちゃんはいつも面白くて優しいから、きっと何か役に立つアドバイスでもくれるかもしれない。

高ちゃん「今のお前はなー!中途半端やねん!ほんまに!沢村さんに、来るなーーー!!邪魔やーー!!言わな!とにかくなあ、中途半端やでーーー!!何、やってんねん!」

高ちゃんの声も電話が分解してしまうかと思う程、珍しく大きかった。

言い返す気力もない。

私「そうかもね。ちょっと、考えるから切るわ。じゃあね。」

私は電話を切った。
すると、沢村さんの軽トラがさっき向かった方向からまたやって来て、喜久屋さんのプレハブ小屋前を通り過ぎて行くのが見えた。
まだ、探しているのだ。
しかも必死に・・・。

私は、なんだか悔しかった。
今の私が中途半端だと言われたことも。
ただ人が言う事には必ず1里あるかもしれない。

私は、その高台から下のプレハブ小屋を見下ろしながら考え込んだ。
さっきのゴンちゃんの言葉に私の心は傷ついたのは確かだ。
ましてや、それをフォローしてくれるだろうと思っていた、高ちゃんまで全く同じだった。

私は、自分の心が傷ついた原因を全てここで取り除きたかったので、考えた。
傷ついたとは言え、私のやり方で私なりには一生懸命やっていたはずだし、そこまで言われる筋合いもないと思う反発心もありながら、何に一体傷ついてしまったのか。

きっと私なりには、必死だったけど、あの人達には、中途半端なやり方に見えたのだろう。
じゃあ、中途半端じゃなくなれば、あの人達に「中途半端」とは、言われない。

そうだ!
私を「中途半端」と呼ぶなら、「中途半端」じゃなくなってやる!
ただ・・・。
本当にあの人達の言うようにすることが、「中途半端」じゃなくなる事だろうか?
そんな疑問が沸いて来て、私は決心する。
最終的にあの人達が言うようにすることが最善の道であるなら、きっとそうするだろうけど、でも、今の段階では私にはそれが最善の道にも見えない。

ふと、沢村さんとの事を思い返す。
確かに御節介の度が過ぎて、うっとうしかったのも確かだし、喋り過ぎなのに付き合うのも疲れた。
でも、本当にそれだけだろうか?
沢村さんがいてくれて助かったこともあるし、それにせっちゃんが帰った日に長尾寺へせっちゃんの手紙を持って来てくれて、私が一人ずっとベンチに黙って座っていた時にも隣で黙って座って一緒にいてくれたのは、沢村さんだったのではなかったかと。

ふと、また沢村さんが反対から軽トラでプレハブ小屋の前を通り過ぎていくのが目に入った。

沢村さんが「このお遍路さんの付き人みたい。」とバカみたいに喜んで色んな人に聞かれもしないのにあちこちで話していたのも思い返す。

私は、皆が言うようなやり方で、沢村さんを追い払う事はできない。
それだけは、確信に至った。
そして、私の答えをつかみ掛けそうになりながら、その答えは、ふわりと私の手の届かない所へ逃げていく。
このままでは、先へ進めない。

とにかく「中途半端」とは、二度と言わせない!
そうだ!
私は、私の答えをみつけて、私のやり方で半端だとは言わせない!
ただ、今は、その答えが明確につかめそうでつかめないから、絶対にそれをみつけてやる!

よーーーーし!
お前ら見てろよーー!!
これまでも周りの意見がどうであれ、私の出した答えで、私のみつけた道でやってきたはずだ。
この沢村さんの事だって、みつからないはずがない!

今に見てろ!

ストーカー


そう思うと気持ちがすっきりとして、悔しさも傷ついた気持ちもどこかへ消え去ってしまった。
私はまた山を喜久屋さんのプレハブ小屋へと駆け下りて行った。
つづく・・・   

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