■2章:遍路2周目■映画のような話は実際起こる
            2.本当の2周目の始まりは、ただ新たな苦悩の始まりだった


DAY55-2

沢村さんに別れを告げて走り出したものの、スピードメーターの取り付け位置がずっと気に入らなかったので、直しておきたかった。
途中、100均に寄り、必要なものを購入して、取り付け位置を調整したりしたし、朝からすったもんだがあったので既にお昼の12時になってしまっていた。
1時間ほど、次のお寺の18番恩山寺へ向かって自転車を走らせていると、小松島市にラーメン屋をみつけた。
私は元々、お好み焼きの方が主流の広島で、あまり美味しいものでもないと思っていたラーメンが好きではなかったのだけど、調度ご当地ラーメンなどと言って全国で名前を聞くようになっていた徳島ラーメンが気になっていた。
四国に数え切れないほど来ているとは言え、徳島でラーメンを食べたことがなかったので、試してみることにして、そのお店に昼食がてら入る。

初めて食べる徳島ラーメン。
心が躍った。
見た目は、濁った醤油ラーメンのように見えた。
広島で食べるラーメンは豚骨醤油なので、これもまた茶色く濁っている。それに比べると黒い。

一口スープを飲んでみると、不思議な気持ちになってしまった。
あれ?
甘い・・・。
甘いものが苦手な私は、しょっぱ辛いラーメンを想像していたので、何かが違う。
麺を口に入れると、更に不思議な気持ちになった。
これまでに食べたことがない味。
むしろすき焼きのような味がした。

私はラーメンだと思って食べたら、これまでのラーメンの味と違って、どうしても不思議な気持ちになってしまう。
茶碗蒸しだと思って口に入れたら、プリンだったと言うような。
なので途中から、新型のすき焼きだと思い込んで食べてみたら、これはこれでありで美味しかった。
プリンをプリンだと思って食べれば、プリンも美味しいのだから。

ラーメン屋を出て、外で食休みをしていると、栄タクシーに泊まっていた、丸坊主青年と、もう一人の青年が通りかかったので、しばらく話をして出発した。
丸坊主の青年もお金を降ろして体制を整えなおしたらしい。

30分程で18番恩山寺に到着。
お参りを済ませる。

次の19番立江寺へと向かった。
沢村さんとすれ違うかもしれないので、道中、まだまだ気は抜けない。
ただ流石に徳島市内を離れたし、もうこちら側までは追いかけてこないだろうとは思っていた。
それにしてもと思い返す。
沢村さんには、何度もさよならと言ったはずだ。
偶然途中で再会するならともかく、明らかに昨日も今朝も、栄タクシーに私を探しに来ていたのだ。
何故に、そこまでして御節介をしなくちゃいけないのか?
沢村さんも寂しいのは、わかるけど、私は別に沢村さんの身内でもない。
私は私で自由に旅をしてもいいはずだ。
別に沢村さんが嫌いで言っているのではない。
私はこのまま沢村さんを煙に巻くしかない。
そう思った。

19番立江寺に到着してお参り道具を自転車から降ろしていると、調度バス遍路の団体さんが門をくぐって入って行くところだった。
その内のおじさんの一人が驚いた様子で私に話しかけた。
「えーーー!!??自転車でお遍路!!??どうしたの?何かあったの?」
私「いや、何もないですよ。」
「なんで?なんで?女の子で若いのに、なんでお遍路するのーー!??」

私は、心でこっそり思った。
お遍路をする理由は、問わず語りですよと。
ただ、このおじさんは、私の身の上に何かあったから若いのに一人自転車で回っていると思い込んでいるようだ。

私「いや、別に何もないですよ。ただ楽しいから。」
「いや!何かないとお遍路なんかしないでしょ。ねえ、なんで!?なんで!?」
私「いや、本当に何にもないです!」
「いやー!!びっくりしたわあ!女の子が一人で自転車で!ちょっとお接待するよ!」と言って、缶コーヒーを私にお接待してくれた。

バス遍路の人達は、時間にも追われているので、そのおじさんも急いで寺の中へと入って行く。
私は、むしろそんなに驚くことなのかと逆に驚いてしまった。
あのおじさんにとっては、女の子が一人で自転車で野宿で遍路をすると言う全ての単語がおじさんの辞書の中にないものばかりだったのだろう。
ただおじさんは、とても優しい感じのいい人だったのは間違いなかった。

立江寺のお参りを済ませ、今日最後のお寺になるであろう22番平等寺へと向かって自転車をこいでいると、道路の右端を向こうの方から歩いて来るターザンのようなものが見えた。
自転車でドンドン近寄れば近寄るほど、それはターザンだった。
人が歩いて来ているのは確かなのだけど、何故ターザンに見えるのか不思議だった。
二人の距離が10メートル程に近寄ったとき、そのターザンは、外国の人で金髪の白人だと言うことがわかった。

あーーーーーーーー!!!
マントラの色んな遍路の噂話で出てきた、ダニエルだ!
確かに彼は、何処の国のお坊さんスタイルかわからないような、茶色の1枚の布を肩からかけ、片方の肩の上で結んでいる。杖もお遍路さん用のものではなく、もっとしっかりしたお坊さんが持っているような杖を持ち、裸足に山谷袋を首からぶら下げているだけだった。
彼は、荷物を何処かにおいてといりあえずここにいるわけではない。マントラの噂話によると、彼はその格好で野宿をしていると聞いている。
そろそろ寒くなって来ているので、夜寝る時に寒いだろうと思った。
私は、テントはないものの、銀マットに寝袋は持っている。
いやあ、上には上がいる。
本当にあの格好で寝て、寒くはないのか不思議で仕方なかった。
すれ違う瞬間、ダニエルは会釈をしたので、私も会釈を返して通り過ぎた。

4時半に22番平等寺に着き、納経所の閉まる5時まで時間がないので直ぐにお参りを済ませ納経所へ行った。
今日は、この辺りに善根宿があるらしいとは聞いていたものの定かではなかったのでどうしようかと思いつつ境内を歩いていると、境内の端に座ってずっと何かを書いている永久遍路のようなおじさんがいたので、なんとなく話に行った。
そのおじさんは、60歳手前頃だろうか?
気のいい優しい感じの人だ。

私「それ、何書いてるの?」
おじさん「あ、習字で梵字とか般若心経を書いてるんだよ。」

私は見せてもらうと、とても上手に書いていて感心した。

私「凄いですねー!!上手い!」
おじさん「そう!?嬉しい!じゃあ、プレゼントするよ!」

私は、この気取らない気軽な感じのおじさんと直ぐに意気投合した。

私「私、Noisyだけど、何ていうの?」
おじさん「あ、僕はね、桜田だよ!」

桜田さんは、私にプレゼントしてくれる文字を書きながら、更になんとなく話す。

私「桜田さんはチャリ?」
桜田「うん。チャリ。チャリ?」
私「そうよ。もしかしてママチャリ?」
桜田「そう。ママチャリ。」
私「え~~~!ママチャリ~~!?」
桜田「うん。ママチャリ。Noisyは、ママチャリ?」
私「いや、違うチャリよ。」
桜田「でも、チャリか。」
私「うん。チャリ。」
桜田「じゃあ、チャリ仲間だね!」
私「チャリ仲間だね~!ねえ、桜田さん。今、「チャリ」何回言った?私達。」
桜田「ははは!!チャリしか言ってなかったね!でも、ちゃんと会話だったよ!」
私「確かに!確かに!はははは!」
桜田「今日は、何処に泊まるの?」
私「この辺に善根宿があるとは聞いてるんだけど、よくわかんないし考え中よ。」
桜田「あ!僕ねえ、これからそこへ行くよ。じゃあ、教えてあげるから一緒に行こうよ!」

ラッキーだった。
私が行きたいけど、場所がわからなくて諦めようとしていた場所に桜田さんも行くと言うので、一緒に自転車をプラプラとこいで、善根宿喜久屋へ向かう。
大通りから、小さな小道に曲がった瞬間、後ろの大通りを軽トラが通り過ぎるのが自転車の右側に取り付けているミラーで見えた!
うっそ!
沢村さんに違いなかった。

ターザン


桜田さんの案内でプレハブ小屋の喜久屋へ行くと、中にはキッチンなどがあり、外には洗濯機もあって必要なものはそろっていた。

ただ・・・。
私には気がかりなことが増えてしまった。
沢村さんが、なんとこの周辺をうろついているのだ。
沢村さんは、遍路道に詳しい。
当然、ここの喜久屋さんだって知っているはずだ。
桜田さんは、気軽にちょっとした話をしていてくれたが、私の心の中は嵐が吹き荒れ頭の中は、考え事でいっぱいだった。
遅かれ早かれ、絶対に沢村さんは、栄タクシーの時のようにここへもやって来てしまう…。
私は、ここで確信した。
結局、沢村さんは、私が高知へ行こうが、何処へ行こうが、ずっと探し続けるのだと。
ここで煙に巻けなければ、明日も明後日も状況は一緒だ。

喜久屋さんのプレハブの前に桜田さんは、自転車を止めたものの私は、自転車を何処か道路から見えない所へ止めたかった。
悪いことに、そのプレハブは、調度交差点に立っていて、両サイドの道路から全てが丸見えだった。
どうしようもなかったのでプレハブ前に自転車を止めて、中へ入ると、60歳くらいの夫婦と北村君と言う若い青年が既にいた。
私は、挨拶もそこそこに慌てて身支度を整え、プレハブ小屋を出て行く。

桜田さん「あれ?何処へ行くの?」
私「あ、桜田さん、ずっとお遍路さんしてるから知ってるでしょ。沢村さん。」
桜田さん「うん。知ってるよ!愛媛の御節介マン。」
私「もし、あの人がここへ私を探しに来たら、何処へ行ったか知らないって言っておいて!とにかく、寝る前には戻って来るから!」
桜田さん「ああ。あの人、ほんと邪魔だよねえ。」

桜田さんは、一瞬で何かを悟ってくれたようだった。


桜田さん「わかった!まかせて!」
つづく・・・   

いいね!と思ったら、1日に1回のポチッもよろしく~!
     ↓
ブログランキング・にほんブログ村へ
にほんブログ村
面白かったり何かを感じたら、いいね!やランキングにポチッしてくれるとテンション上がって明日からも張り切る励みになります~♪ありがとう!

お遍路 ブログランキングへ
読者登録してね