■2章:遍路2周目■映画のような話は実際起こる
            2.本当の2周目の始まりは、ただ新たな苦悩の始まりだった


DAY49-3

私と沢村さんは、どれくらいの長い時間、長尾寺のベンチに黙って座っていたのだろう。
1時間程か。

沢村さんの軽トラに私の自転車を乗せ、沢村さんの軽トラは、88番大窪寺へと走り出した。

沢村さんは、すっかり元通りだった。
ずっと延々と話し続けている。
相槌を打つのに疲れを感じながらも、今の私には、この沢村さんの存在がありがたかった。
せっちゃんはいなくなったものの、一人ではないので気が随分紛れる。

私「沢村さん、そこのうどん屋寄って!」

沢村さんは、入谷製麺で車を止めた。

沢村さん「僕はいらんけん、行って来て!」

私は一人うどん屋へと入って遅い昼食を食べた。
もう3時だった。
直ぐに車に戻り、また大窪寺を目指す。
途中、1周目にせっちゃんと合流しようと行ってみると、沢村さんもいて、沢村さんに「テントを張っておきました。」と言われた、へんろ資料館に寄った。
マントラを最後に訪れたときにマントラに泊まっていたおじさんに会って、軽く会話をしてまた出発する。
88番大窪寺に到着してお参りを済ませた。
沢村さんが大窪寺門前のバス停前の東屋に泊まれると言うので、そこで寝ることにした。
沢村さんは、頼みもしないのにさっさと自分の5人用テントを張って、私に言う。

沢村さん「Noisy、テント張っとったきん。」
私「え?あ、ありがとう。」
沢村さん「ここは、シャワーもそのトイレにあるきんね。」
私「え?そうなんだ!それは、ありがたい!」

沢村さんは、せっせと嬉しそうに私の世話を焼く。
そこへ歩き遍路のおじさんもやって来た。

遍路「あ!マントラで会った、金髪チャリ遍路のNoisyさん!」
私「あ!マントラで会いましたね!」

さっき遍路資料館で会ったお遍路さんとは別の人だ。
私は、シャワーをしに行っていると、沢村さんがまたしゃしゃり出てきておじさんに嬉しそうに話している。

沢村さん「いやあ~!参ったきん!このお遍路さんのね、付き人みたいになっとってね、なんちゃらかんちゃら。」
おじさんは、苦笑しながら沢村さんの止まらない話に少し付き合っていた。
それにしても、一々会う人会う人に自分が付き人のようで参ったと嬉しそうにしつこく話している。
でも、沢村さんは、私の付き人ではないのだ。
私は、この後一人で自由に走り抜いて帰りたいのだ。
沢村さんとは、前回もここで別れたように、ここでお別れするつもりだ。
明日の朝には、ここでさよならだ。

電話がなった。

私「はい。」
ゴンちゃん「今日は、何処まで行ったんや?」
私「大窪寺まで。」
ゴンちゃん「あ、そしたら大窪寺前の東屋か?」
私「そうそう。」

流石にゴンちゃんも歩き遍路をやっていたのでよく知っている。

ゴンちゃん「で、沢村さんは帰ったん?」
私「いや。ここ大窪寺まで連れてきてくれるって言うから、連れてきてもらったんだけど、明日からは一人で行こうと思ってるよ。」
ゴンちゃん「そうか。」

沢村さんがあまりにも喋りやまないので、うんざりしたのかおじさんがそっぽを向いてしまったのが見える。
仕方なく沢村さんは、あちこち歩き回りノートに何かを書き込んでいる。

私「あ、せっちゃん、帰ったよ。」
ゴンちゃん「ああ、らしいなあ。でも、高ちゃんと一緒に歩き遍路行くらしいから、また戻って来るんやってな。」
私「そうそう。」
ゴンちゃん「で、お前なあ、ほんまになあ、高知市内から一旦、帰っておいでや!」
私「だから、言ってるじゃん!その時は、帰らないよ!一周したらね!」

ゴンちゃんの声が一段と大きくなる。

ゴンちゃん「もーーー!!長いなあーー!!待ちきれへんわーー!!」

高ちゃんに電話を変わった。

高ちゃん「今日なあ、せっちゃん来たで。で、泊まって行きや言うてんけど、バイトが始まるらしくてもう出発して帰って行ったわ。」
私「そうなんだね。まあ、でもまた1か月後に一緒に歩くときに会えるから。」
高ちゃん「そやねん。今やってる仕事を早う片付けとかなあかんなあ。で、沢村さんは?」
私「まだいるよ。でも明日から一人で行こうと思ってるから。」

またゴンちゃんに変わった。

ゴンちゃん「とにかく、一旦顔を見せに来なあかんでー!」

そう言って、電話は切れた。

DAY50-1

朝、テントの外から沢村さんに声を掛けられて目が覚めた。

「Noisy。コーヒーいれときました。」

テントの外へ出て、沢村さんが入れてくれたコーヒーを飲む。

私「沢村さん、ここまでありがとう。ここでお別れだね。」
沢村さん「ああ。わかっとるきん。Noisyも気をつけてな。」

支度を整え、沢村さんに最後の挨拶をした。

私「じゃあ、行くよ。」
沢村さん「今日は、どこ行くん?」
私「とりあえず、別格20番大瀧寺。」

沢村さんがすかさずサポートをと言い出しそうだったので、間髪入れずに話を続けた。

私「この一周は、ひとりで走って走って走り抜きたいから。沢村さんも、また1周して来たら、マントラ辺りで出会うかな。」
沢村さん「あ、ああ。ほんなら頑張って・・・。」
私「うん。沢村さん、ありがとう!じゃあね!」

そう言って、私は自転車をこぎ始めた。
ミラーで沢村さんが軽トラで去っていくのが見えた。
少し、寂しい気もしたけど、ようやく沢村さんから離れられた安堵感もあった。

よーし!
これから一人、走って走って走り抜く2周目が始まる!
気持ちは晴れ晴れとしていた。
別格20番大瀧寺へと向かう峠を淡々と上っていく。
確かに上りはきつい。
でも、もう涼しいのだ。
自転車をこいでいれば汗もかくけど、無類の暑がりの私が頭が痛くて動けなくなるような暑さではない。
私の本当の力が発揮される時がようやく来た!
ギアを落として、淡々と大瀧寺へと上って行く。

9時に大窪寺を出て、2時間半走り続けて大瀧寺に到着した。

ふーーー!!
やっと上り詰めたぞーーー!!
達成感は半端ない。
大変な上りの連続だったけど、やり切った!
そんな気持ちでお寺へ向かう。
車遍路の人には、お接待だと言っておむすびを私に渡し、旅立って行った以外は、誰もいなかった。
一人山の中の境内に取り残された私は、境内の端の道路に面したところに腰を掛け、頂いたおむすびと持っていたバナナを食べた。

食べ終わってから、お参りをして納経所へと行った。
何かのチケットでも買うかのような小さな窓があった。

私「すみませーん!」

中から人が出てきた。
小窓がガラリと開いた。
坊主頭のお坊さんだ。

私「念珠と御影を下さい!」

そのお坊さんは、「ふん!」と言って投げるように渡し、お金をバッと受け取ったら、ピシャリと小窓を閉めてしまった。

私は、5歩6歩と自転車に向かって歩き出したが、そこに立ち尽くしてしまった。
そう言えば、マントラでのお遍路さんやお寺の噂話の中にあったっけ。
別格20番の大瀧寺のお坊さんは、とてつもなく不愛想で評判が悪いと。
一度もいい話がないと。

私は、つらく当たられて、気持ちがすっきりしなかった。
このお坊さんにいい顔をされようと思って、回っているわけではないので、それに関しては、白峰の時のように気にはならなかった。
ただ、この人は・・・。
こうやって皆にこの態度でいるのは何故なのか立ち尽くしたまま考え込んでしまった。
一瞬、こんなことは捨て置いて行ってしまおうかと歩き出しかけたが、止めた。
念珠を握ったまま、そこに立ち尽くして考えた。
こんな態度では、明らかに皆に嫌われるに決まっている。
例え、中身はとてもいいものや優しいものを持っていたとしても、誰にも気づいてもらえることはない。
かと言って、中身は汚れているのに、いい顔ばかりしている人とどちらがいいのだろう?
私だって、いい顔を作り続けて疲れることもあるんじゃないか?
それで自分を責めてうつ病のようになってしまうくらいなら、こうやって人の反応を気にせずに振る舞えることの方が、どれだけ勇気のあることか。
確かにさっきのお坊さんは、明らかに態度が悪かった。
でも、私にここで立ち尽くして考えさせる何かを感じさせたということは、きっと中に持っているものは、表の顔とは違うのかもしれない。
そう思った時、背後から声がした。

声「おい!僕!」

ん?ボク?

声「おい!お前だ!僕!」

私は振り向いた。
そこにはさっきのお坊さんが立っていた。

お坊さん「おい!ボク。お前、少し疲れてるぞ。」

え?
きっと、そこに立ち尽くして考え込んでいる私の姿が、何かに困った人のように映ったのかもしれない。

お坊さん「ちょっと、こっちへ来なさい。」
私「あ、はい。」

お坊さんは、ベンチの所へ私を誘導した。

お坊さん「ボク!そこへ座りなさい。」

どうやらこのお坊さんは、私を若い男の子だと思っているようだ。

お坊さん「ボクは、ちょっと疲れているよ。私は、疲れをとるツボ押しを学んでいるからちょっと疲れを取ってあげよう。」

そう言って、お坊さんは、私の肩を揉み始めた。
お坊さんは、たまに話しかける程度で淡々と揉んだ。
5分程、揉んだところでお坊さんが立ち上がって言った。

「よし!ボク。これで少しは、楽になるはずだよ。さっきそこで食べていたご飯のゴミを出しなさい。持って行くのは大変だろうから、少しでも荷物が減るように捨てておいてあげるから。」

私「あ、ありがとうございます!」

そのお坊さんは、私からごみを受け取って、笑顔もなく立ち去った。

お不動さんの心とは、このような事を言うのかもしれないと思った。
見た目は恐ろしく、中身は優しい。

不動明王

つづく・・・   

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