■2章:遍路2周目■映画のような話は実際起こる
          1.方向の定まらない再出発


DAY45-4

もー。沢村さん・・・。
せめて30円くらい入れろよ!電話で名前しか言ってないじゃん!
とは言え、ここまで連れてきてもらったのだからと思って、銭湯の入り口に行ってみると、テレフォンカードの自販機があったので、500円分買った。
外で待っているせっちゃんのところへ行ってみると、せっちゃんが叫んでいる。

せっちゃん「Noisy!沢村さんや!戻ってきたで!」
沢村さん「あ、ごめん。ちょっとなんちゃらかんちゃらでどーたらこーたらだったきん、あーのこーの・・・。」
聞いてもいない言い訳を山程している。

私「もう、いいから!はい、これ!テレカよ!近頃、公衆電話から電話する人もいないけど、あれじゃあ何も話せないじゃん!今日連れてきてくれたから、これあげるよ。使って!」
沢村さん「あ。ありがとう・・・。」

私達は、沢村さんの軽トラでマントラへ向かった。
行ってみると、直ちゃん、とんちゃんも到着していて、ゴンちゃん、高ちゃんが出てきた。
皆、沢村さんにつかまると面倒くさいのか、触らないようにしている。
沢村さんも苦手な人達が混ざっているのか、できる限り知らんぷりをしていた。

ゴンちゃん「おお!来たんやな!直ちゃん、とんちゃんも来てるで!」

ゴンちゃんは、皆の手前もあるからなのか、楽しい友達のように明るく私に話しかけている。
ゴンちゃんの気持ちは、このままそこに落ち着いて行って、ゴンちゃんの事はこのまま終息に向かうと私は思っていた。
この時は。

直ちゃん「さっきは、どうも!」
私「直ちゃんの話は聞いてたよ!とんちゃんと、遍路中に出会ったって。」
直ちゃん「そうやねん。最初な、ひとりで歩いてたんやけど、途中でとんちゃんに会って。」
とんちゃん「そうそう。で、カップルになって。」
私「へ~。そんなこともあるんだね!いいね!そんな出会いも。」

直ちゃんは、本当に絵にかいたような人の好さそうな優しい笑顔が似合う人だった。
人当たりも柔らかく、とっても好感の持てる子だ。
とんちゃんは、ちょっとしたジョークにも軽く対応できるおどけた面白い坊主頭の青年だった。

私「ねえ、とんちゃん。何!?それ?その青いの。」
とんちゃん「あ、これ?青いももひき。」
私「ちょっと、それは若者が履いてウロウロするかね?」
青い股引を履いてウロウロしていた、とんちゃんは、ニヤリとしてこちらを見た。
とんちゃん「ふふ。こんなのおっさんしか履いてないから、おっさんみたいと思ってるでしょ?」
私「いや。そんなことは、まだ何も言ってないよ!」
とんちゃん「まだ・・・。ふふふ。じゃあ・・・。もう・・・言っていいよ!言ってごらんなさい!」
私「とんちゃん、それ!おっさんみたいだけど!」

皆で爆笑した。

皆で楽しく会話が止まらなかった。
その間に博士も顔を出したりして、延々と私を中心に話は続く。

沢村さんはと言うと、所在なさげにノートを書いたりウロウロしたりしていた。
明らかに、ここでは誰も沢村さんを歓迎する人はいない空気だった。
唯一、穏やかな直ちゃんがたまに沢村さんを気に掛けるくらいで、他の誰も沢村さんを相手にはしていなどころか、迷惑そうな雰囲気さえ漂っていた。
それはそれで仕方のない所もある。
そもそも沢村さんは、ここでも出入り禁止をくらっているはずだ。
これまで色んなお遍路さんに御節介をして行き過ぎたり、迷惑なことを悪気がないにせよしていたのであれば、出入り禁止にでもなるだろう。
ただ私達を送ってくれて既にここへ来てしまっていることをとがめられないだけでも良しとするしかない。

他にも森山さんと言う何周もしている広島からきている変わったお遍路さんもいた。
森山さんは、70歳手前だろうか?定年したおじさんと言う感じだ。
坊主頭で中肉中背。少しだけお腹が出ている。
口は、硬くへの字型に結ばれていて一見真面目過ぎてお堅い、とっつきにく人に見える。

直ちゃん「森山さんはなあ、なんか面白い経歴の人やねん。」
私「どういうふうに?」
直ちゃん「あの人なあ、永久遍路みたいに托鉢しながら回ってるんやけど、時々なあ、何があるんか知らんのやけど、広島の家にふら~っと帰って行かはんのよ。普通、永久遍路は帰る所がないから、ずっと回ってるはずやのに、あの人帰るとこあんねん。それにな森山さん、別にお金も困ってる風でもないねん。なんでずっと四国をグルグルしてるんやろな?ははは。」
私「じゃあ、定年退職でもして奥さんでも亡くして、家に一人でいてもつまんないし、ここにいた方が楽しいからいるのかな?」
直ちゃん「わかれへんねん。なんか、面白いやろ?きゃはは。」

私は、気難しそうな顔をしたそのおじさんに話しかけた。

私「今日は、ここに泊まるんですね?」
森山さん「そうなんよ。」
こちらが気を使うほど硬い真面目な顔だ。
私「何処から来たんですか?」
森山さん「わしは、広島よ~!」
私「あ!私も!」
森山さん「お~!お前もか!」
そう言って、何とも言えない優しい顔で笑った。
私「私は、Noisyだけど、名前は?」
森山さん「お~、わしは、森山って言うんよ。」
私「ニックネームはなんですか?」
森山さん「う~ん。なんでもええよ!」
私「じゃあ、モリモリでいい!?」
森山さん「ええよ!じゃあ、わし、モリモリで!」

なんとも見かけとは違って、お茶目なおじさんだった。
私は、一瞬でこのモリモリが大好きになった。
それ以来、他の皆も森山さんをモリモリと呼んだ。

私「ねえ、モリモリ~!モリモリは歩きでしょ?」
モリモリ「わしは、歩きよお。Noisyは、自転車ね?」
私「そう。モリモリは、時々広島の家に帰るらしいけど、何しに帰るの?」
モリモリ「おお。ずっと回りよったら疲れるじゃろ?」
私「うん。」
モリモリ「時々、家に寝に帰りよるんよ。」

とにかく私は、モリモリとのくだらない話をしている瞬間が大好きだった。

その後も奥さんや社長さんが出入りしたり、とにかく今日もワイワイと楽しいお遍路小屋だ。

まだ充電し足りてないとはいえ、明日にはいい加減海岸寺は出発しないとまずい。
皆と話しているのは楽しかったけど、日も暮れたし、海岸寺へと戻ることにした。
せっちゃんは、明日には海岸寺を離れれば、高ちゃんからも少し離れてしまうからなのか、帰り際寂しそうだった。

海岸寺へと沢村さんの車で戻ったせっちゃんと私は、寝る支度をする。
何故か沢村さんもそこにいた。

私「せっちゃん、明日にはいい加減ここを出て行かないとまずいから、次の77番道隆寺から明日行けるとこまで行こうと思うけど、せっちゃんどうするの?」
せっちゃん「そやねん。どないしよ?」
私「だって、2周目に88ヶ所を回らないなら一緒に行っても仕方ないしね。」

と言うよりも、2周目をせっちゃんと一緒にする気は、一切なかった。
一緒に遊ぶのはいい。一緒に回るのは、絶対になしだ。

私「ねえ、沢村さん。明日、この先どこか寝床にいい所ないの?そこを拠点に周囲を回れるような。」
沢村さん「あるよ。千手観音堂って言うお堂があって、そこにお遍路さん寝ていいきん。」
私「へえ、そこ何処?」
沢村さん「80番の国分寺の近くにあるんよ。明日、80番まで来たら案内してあげるよ。」
私「そうなの?じゃあ、80番まで行くわあ。せっちゃんは、どうする?回っても仕方ないなら、明日マントラへ行って、高ちゃんに会って、私達が80番国分寺で待ち合わせるときにそこへ来る?」
せっちゃん「ほな。そうしようかな。」

私は私で充電が足りていないのか、まだ2周目への気が入らないし、せっちゃんはせっちゃんで高ちゃんが気になって、マントラ周辺から離れられないでいる。
そして何故だか沢村さんが、まとわりついている。

その晩は、沢村さんもお母さんのおなかの中にいる赤ちゃんのように小さく丸まってそこで寝てしまった。
沢村さんは、背が180センチくらいあって高いのだけど、細くて丸まるととても小さく、インドのヨガの凄い人のように見えた。
どおりでいつも軽トラの中で眠れるわけだ。

ヨガ

つづく・・・   

いいね!と思ったら、1日に1回のポチッもよろしく~!
     ↓
ブログランキング・にほんブログ村へ
にほんブログ村
面白かったり何かを感じたら、いいね!やランキングにポチッしてくれるとテンション上がって明日からも張り切る励みになります~♪ありがとう!

お遍路 ブログランキングへ
読者登録してね