■2章:遍路2周目■映画のような話は実際起こる
          1.方向の定まらない再出発


DAY44-4

歩きのお遍路さんが入ってきた。
50代中半くらいの男性だ。
遍路服は少し黒ずんでいて、明らかに1周しているだけの人ではない。何年か・・・。長いのだろう。

私「あ、お参りついでに休憩ですか?」

その男性は、笑顔を全く見せないながら淡々と話をした。

男性「そう。私はね、ここへ来る度、ここからの景色が好きで寄るようにしてるんですよ。あなた達は、自転車?」
私「はい。私達は、今夜ここに泊まるんです。」
男性「まだ泊まるには時間も早いけど。」
私「そうなんですけど1周してきて、これから2周目なんで、ちょっと今日は充電したいんです。」
男性「なるほど。」
私「“ここへ来る時は”と言うことは、もう何周かしてるんですか?」
男性「そう・・・。私はね、自分が運転していた車に自分の奥さんと子供を乗せていて。自分のミスで事故をしたんです。そしたら、僕だけ生き残ってしまってね。皆亡くなってしまった。」
私「ああ。そうだったんですね。」

その男性は、自分が何故遍路を回っているかの理由を突然語り始めた。

男性「それで、供養のためにずっと回り続けてるんです。」
私「そうなんですかあ・・・。それは、辛いですね。そんな状況だと自分を責めるしかない・・・。そんな辛いことがあるでしょうか。」
男性「そうなんです。」
そう言って、その男性は景色を眺めながら遠い目をしていた。
私は、この男性に私達の遍路の理由を聞かれはしまいかとドキドキした。
まさか、こんな話の後に、「旅は楽しい!」とは言い出せない。本当に心から“問わず語り”でお願いしますと願った。

問わず語り


私「一体、気持ちを何処へ持って行けばいいんでしょう。」
男性「そうなんです。だから、私は、ずっとずっと回り続けているんです。」
私「そうですか・・・。出口のない旅ですね。いつか、小さな光でもいいから出口のドアに気づければいいですね。」

私は、ふとハッとして叫んだ!
私「あわわわわーーー!!すみませーーん!!」
その男性もハッとして私を見る。

私「あれれれれーーー!!??もしかして、ここへ泊まろうと思って来たのに、私達が荷物をまき散らして占領してるし、泊まれないんですかね!?すみませーーん!!直ぐにどかしますので!!どうぞどうぞ!!」

そう言って、私は慌てて、荷物を片隅に寄せようとすると、せっちゃんも慌てて荷物を寄せようとした。
男性は、ふと笑顔を見せた。

男性「あ!ははは。いやいやいや、ただの休憩に来ただけですから、そのままで大丈夫ですよ!」
私「いやいやいや!!せめて、そこに気持ちよく座れるようにでも・・・。」
男性「いやいや!大丈夫ですよ!」

その男性は、あまりにも慌てている私の顔がおかしいのか、笑いをかみ殺しながら話をした。

私「あ!でも、もし女が二人で気を遣うと思って、本当は泊まろうと思ったのをやめたんですか?それならお気遣いなく!二人ともおっさんみたいなもんですからねーーー!!」
男性「ははは!!いやいや、本当に。まだ時間も早いですから、私はもう少し先まで行こうと思っていたので本当に休憩に立ち寄っただけですよ。」

私は、本当に男性はただ単に休憩に立ち寄っただけなのを確認してホッとした。

男性「ははは。なんだかいい時間が過ごせました。そろそろ行きます。ありがとう。」
私「折角、一人、好きな場所でくつろぎたかったでしょうに、うるさい私達がいて申し訳なかったです。」
男性「ははは。いやいや。とても癒されました。ただの休憩が楽しい時間になりました。それでは。」

最後には笑顔を見せて、その歩きのお遍路さんは旅立って行った。
そうか。
やっぱり、そんな重たい事情を抱えて回っている人もいるのだ。
益々、私の遍路としての存在意義を疑った。
そして、「問わず語り」の本当の意味も悟った。
結局、この状況から考えてみても、大した理由がないにせよ、聞いてはいけないのだ。
本人が自ら話すのはいいにしても、重たい事情も軽い事情も聞いてはいけないのだ。

そう、思いにふけっていると、ふとまたガラリとドアが開いた。
あ!博士と高ちゃんだ!

せっちゃん「あ!高ちゃん!」
せっちゃんは、一瞬で喜びと幸せに満ちた顔になった。

私「あれ?博士!どうしたの?さっき、マントラから帰ったじゃん!」
博士「いや・・・。あれからまたマントラへ行ったんや。で、高ちゃんと話しとったら、ここへ二人に会いに行こうかってなって。で、来たんや。」
私「会いに来てくれたんだ!」
高ちゃん「そやねん。ふたりが出発してしまって退屈やな思って。」
博士「で、ついでに夜ご飯にうどん屋へ行かんかなと思って。」
私「え!?うどん屋へ連れて行ってくれるの?」
博士「そうや。」

朝からうどんツアーであんなにうどんを食べて苦しかったはずなのに、うどんとは不思議だ・・・。
食べられると言うよりも、そろそろ食べたかった。
私と幸せそうなせっちゃんと高ちゃんを乗せて博士は、うどん屋へと運転をした。

私「今度は、どこへ行くの?」
博士「今朝のは、全部セルフのお店やったから、今度は一般店と言われる、注文を席で取るタイプのお店に行こうと思うんや。やから、値段も急に他の食べ物屋のような値段や。」
私「へー!うどん屋でも色んなタイプがあるんだね!」

かな泉でうどんを注文して食べた。
今度は、天ぷらや薬味が最初から盛り付けられて出てきた。値段は、942円。
決して安くはない。
ただ香川県以外で食べるうどんは、一般店で色々のっているとこれくらいするはずだ。
セルフ店とは違って、うどんの1皿が洗練されて作られているのがわかる。どんなに美味しくてもセルフうどんのお店は、天ぷらなど並べて置いてあるのでどうしても少し冷めている。
私達は、うどんを楽しんだ後、博士はまた私達を海岸寺奥の院へと送り届けてくれた。

高ちゃん「明日は、どないするんや?」
私「あ、私は、ここを拠点に71番の弥谷寺を打っておこうかと思ってるよ。で、二日も連続で通夜堂に泊まるのは気が引けるけど、またここへ戻ってこようかなって。」
高ちゃん「そうなんや。なら、せっちゃんも一緒に行くんか?」

せっちゃんは、2周目をするのかまだ迷っているから返事に困っていた。

私「いや、せっちゃんは、別格は行きたいみたいだけど、まだ考え中だよ。でも、それより明日は、二人で遊んだ方がいいと思うよ。一旦、ここを離れたら益々遠くなるから中々会えなくなってしまうし。」
私は、せっちゃんをチラリと見た。せっちゃんは、私の言う通りにしたそうだった。
私「ね。せっちゃん。そうしたら?」
せっちゃん「でも、そしたら明日一人で弥谷寺行くん?」
私「何言ってるの?私はこれまでもひとりで寺に行ってたんだから、別に明日も同じことよ。だから、明日高ちゃんと遊びなよ!」
高ちゃん「でも、それええなあ。」
せっちゃん「え!そう?」
せっちゃんがはにかんでとても嬉しそうに女の子の顔をして高ちゃんに微笑んだ。
せっちゃん「ほんなら、そうしようかな?」
高ちゃん「じゃあ、明日の朝、マントラで待ってんで!」

そう言って、高ちゃんと博士は帰って行った。

せっちゃん「そしたら明日、高ちゃんとこへ遊びに行ってくんで。」
私「うん。ただ、ここにはお風呂がないから、明日お風呂だけは一緒に探してどこかへ行こうよ。」
せっちゃん「わかった。ほんなら、戻ってくるとき電話して!」

せっちゃんの恋話などを聞きながら夜は更けていった。

DAY45-1

海岸寺の通夜堂で寝ていると、朝、ガラリとドアが開いたのでせっちゃんも私も目覚めた。
あ、沢村さん!
つづく・・・   

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