『がんが自然に治る生き方』(1) | 松野哲也の「がんは誰が治すのか」

松野哲也の「がんは誰が治すのか」

治癒のしくみと 脳の働き

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『がんが自然に治る生き方』(1)

 ニューヨーク・タイムズでベストセラーのケリー・ターナー『がんが自然に治る生き方』(プレジデント社)の翻訳者である長田美穂さん(シアトルのワシントン大学・元研究員)が同書を贈呈してくださいました。

 私は、既に原作である” Radical Remission(劇的寛解)”を読んだことがあります。
 医学雑誌には1000件を超える進行がんの劇的な自己(自然)寛解の症例報告があるそうですが、医師たちは無視するだけです。著者は、自然寛解を遂げた患者さんにインタビューし、その回答を分析し、奇跡的な自己治癒力をひきだすための実践項目を提示したのです。
 原作では、インタビューされて答える人の言葉がイタリック体なので、読み辛く、飛ばしてしまいました。

 今回、そのスキップしたで文章は違うフォントで太字になっていました。また、訳が上手で、とても読みやすいものになっていました。そこで、以前のイタリック部分に“治癒を誘因するキー”が隠されていると思い、期待に胸ふくらませて、じっくり読むことにしたのです。

 アメリカでは、もう絶版になってしまいましたが、ハードカバーで持つとずっしりと重いBrendan O’Regan & Caryle Hirshberg ”Spontaneous Remission(自然治癒)”という百科事典のような本が出版されたことがあります。1500例以上に及ぶがんの自然退縮例に関する論文や記事をまとめて分類したものです。
 レーザー光線の開発に携わり、UCLAで遠隔透視実験を行っていた物理学者のラッセル・ターグもがんになったとき、この本を手にしました。しかし、何も有益なことは掴めなかったと言っています。私も同じでした。
 同書は我が家の書棚には見当たりませんでした。処分してしまったのでしょう。
 
少ない髪がぼさぼさで、分厚い眼鏡をかけ、長身痩躯の末期ガンだったラッセル・ターグの面倒を見て、スピリチュアル・ヒーリングを施し、彼を治癒に導いたのがジェーン・カトゥラという女性ヒーラーでした。二人の共著が”Miracles of Mind(マインドの奇跡)”です。彼はその後、意識の研究に転向しました。
 漆黒の髪に白髪が少し混ざった彼の娘エリザベス・ターグはサンフランシスコにある病院の部長でした。彼女は、ヒーラーが念を送る遠隔治療によりエイズ患者の病態が改善することをWestern Journal of Medicineという医学誌に掲載しました。次世代の新しい医学を提唱するラリー・ドッシーはじめ多くの人に評価されました。ターグ親子とはよく意識の会合で会いました。
 彼女は、その後、乳ガンで亡くなったそうです。

 話はそれましたが、ハーバード大学を卒業し、カリフォルニア大学・バークレイ校の大学院・博士課程で腫瘍社会福祉学、なかでもガン患者へのカウンセリングを専門に学んだ著者は、無味乾燥な症例報告ではがんが良くなる理由が全く分からないので、世界中を回り、治療者の話を聞いたり、治癒に至った人たちをインタビューし、その症例を詳細に分析しました。それが本書です。

 アメリカ特有の事情(例えば、セカンドあるいはサード・オピニオンを聞きに、5000ドル(約50万円)用意したとか、無農薬野菜が容易に入手できるといったような)はあります。しかし、良くなった人たちに共通しているのは、医師に全面的に頼ることはせず、自らと対峙して、有効と思われる治療法を選択していることです。

 私の所には、有名な病院で医師の言うなりの治療を受けて死の淵まで至ってしまった方、あるいは、ご家族が抗がん剤治療を受けているが、どうにかならないだろうかといった問い合わせがよく寄せられます。

 前回でも述べましたが、我が国の心身医学の創始者である故・池見酉次郎・九大教授は言っています。
「がんの自然退縮という現象は、実存的転換といって、その人の考え方や生き方すべてが変わったときにしか起こらない」
 要は、ご本人ががんと対峙し、それに対処するように変わらなければならないのです。本書はこのような意味で、がんの治癒を求めていらっしゃる方にまずお勧めしたい良書だと思います。

 そして、次回からは、私独自の本書の読み方をご披露させて頂ければと思います。