岩瀬昇のエネルギーブログ 145.「原油とアジアが翻弄するガス価格 原油連動、限界に」 | 岩瀬昇のエネルギーブログ

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エネルギー関連のトピックス等の解説を通じ、エネルギー問題の理解に役立つ情報を提供します。

 今朝の日経オンライン(215日、6:30)を読んで「やっと掲載されたか」と嬉しく思った。が、タイトルを初め、あちらこちらに「原油」という記載がある。あれッと思った。きっとまた “oil” を原油と訳しているのだろう。原文(130日掲載)を探し出して読んでみた。「案の定」だった。

 だが、「原油」を「石油」と読み替えさえすれば、暴落を続けている最近の原油市場を理解するのにも非常に役に立つ記事だ。ぜひ皆さんにも読んでいただきたい。

 ちなみに原文のタイトルは “Natural Gas: Step on it” である。

 欧州のパイプラインにより供給されている天然ガスは、重油や軽油などの石油製品価格に連動する仕組みになっている。日本を含むアジア向けLNGは原油価格連動である。

記者は、双方を念頭に “oil” あるいは “oil-related” 等の語句を使用しているのだ。特に「原油」を意味したい場合は、”crude” と書いており ”crude oil” とすら書いていない。

 拙著『石油の「埋蔵量」は誰が決めるのか?』の中で「原油供給は階段状に増えていく」と書いたが、これは在来型の石油開発の場合で、シェールオイルには当てはまらない。この違いは区別しておかないと、現在の原油市場の乱高下を理解するのは難しくなる。

だが、大型の天然ガスプロジェクトでは如実に現れている。だから、この記事が書いているように、原油はさほどではないが、3年以内には天然ガスの余剰生産能力が10%にもなる、のである。

原油価格の低迷は1~2年で終わるだろうが、天然ガスの需給バランス回復は2020年代にずれ込むかも知れない、とも書いているが、さもありなんと筆者も思う。

さて本論である。

この記事がいうように、果たして天然ガスが「石油」価格連動から外れ、グローバルに取引される日が来るのだろうか?

天然ガスは「気体」である。この物理的特性がもたらす種々の限界を乗り越えることができるのだろうか?

この記事が指摘している「乗り越えなければいけないハードル」を考えると、筆者は懐疑的にならざるを得ない。

まず、LNGのみならずパイプライン供給の天然ガスも、スポットでの取引が増加すること、というハードル。

おそらくイメージしているのは、天然ガスパイプライン網が充実しているアメリカにおける天然ガス市場であろう。

スポットで取引するためには、入口も出口もたくさんあって、少量での取引を可能にするようなパイプライン網が必要である。アジアにはこのようなパイプライン網は存在しないし、近い将来、出現するとは想像できない。

次に、新規天然ガスプロジェクトへの投資をするにあたり、顧客からの長期コミットメントを代替するものとして、先物でヘッジができるような、デリバティブ市場が必要だ、としている点。

大型天然ガスプロジェクトは初期投資が巨額なため、融資を引き受ける金融機関が納得するような「担保」が必要だ。これまでのLNGプロジェクトにおいては、財務的にも強力な顧客による長期の購入コミットメントが「担保」として機能していた。その代わりになるようなデリバティブ市場とはどういうものなのだろうか? 現在の先物市場、たとえばNYMEXででもICEにおいてでも、20年も30年も先の価格を実効的にヘッジすることは出来ない。10年以上先のものは「場」すら立っていないからだ。

そして最後に、エネルギー市場の自由化。

これは天然ガスの用途が格段に広がらないと困難だろう。現在のように、公益性の高い電力向け、あるいは都市ガス向けが需要の大半を占めている状況だと、市場自由化が格段に進むことは想定しにくい。原油価格との対比でガスが圧倒的に安いアメリカ市場において、現在追求されている輸送燃料としてのLNG利用技術の促進などがどこまで進むか?  

道は決して平坦ではない。

このように、なかなか楽観はできないのだ。

そういえば、東京にLNG先物市場を作ろうという動きは、どうなっているのだろうか?