今日の愛ルケ(#285-288) | にっけいしんぶん新聞

今日の愛ルケ(#285-288)

この記事は渡辺淳一先生の連載小説「愛の流刑地」を記者が個人的な視点で読み解く記事で、性的な描写かなり出てまいります。そのような記述を好まない方、ネタバレを嫌う方、並びに15歳未満の方はご遠慮ください。
なお、記者がまとめたあらすじ中の灰色文字部分は、作品のテイストをできるだけ伝えるために原文をそのまま引用した部分です。



花火 二十六

なぜだかわからぬが、強く抱かれたいみたいだ。花火が子宮に響くといっていたし、ならば花火のように打ち上げてやるか。
そう思いついた菊治は騎乗位の体勢から入っていきました。体位が変わって興奮も新たに菊治の局所は動き出し、冬香を下から「どどん」と突き上げます。
「だめ」「やめて」と狂ったように暴れる冬香に、菊治が休む間もなく花火を打ち上げ続けると、やがて冬香は花火の川が音をたてて夜空を落ちてきたように「いくう」と叫んで倒れこんできました。最後の花火が子宮を貫き、歓喜の波が女体を駆け巡っているのでしょうか。
いまや花火のあとの静寂のように、ぴたと重なった二人はともに死に絶えたように微動だもしません。


#いつもと違う雰囲気で、文体のテイストは無視して実況風もしくは物語風にストーリーを追ってみました。いかがだったでしょうか。

とにかく先生、「花火」の章はここが勝負どころとばかり力をいれてっらっしゃいましたよ。「花火と子宮」、そんなテーマでまとめきった、そんな感じでしょうか。

冬香が騎乗位のポジションを取られていやいやするように顔をそむけ、突き上げられて暴れ狂いながら「だめ」「やめて」と狼狽するたびに、もうそろそろそういうのやめたほうがいいんじゃないの?とどんどん萎える記者ですが、菊治はその狼狽が可愛いっていってますからどうしようもありません。

そんなわけで、力を入れている先生には申し訳ないのですが、コメント欄で予告したとおり手抜きさせていただきました。
それでは最後に、今回ある意味もっとも力を入れられたと思われる、小松先生の挿画を紹介させていただきましょう。





百花繚乱
百花繚乱、冬香狂乱。



花火 二十七

花火の興奮からか、激しく果てた冬香。最近とみに激しく果てるらしいのですが、菊治はそこに危うささえ感じるといいます。
ここまで変えたのは自分だけど、これ以上迫られると、ともに奈落の底に落ち込むような怖さがある、とは相変わらずの菊治です。

それではここから先は、相変わらずの冬香のセリフだけでお楽しみください。

「あなたって、凄い人だわ」
「まだざわざわと、全身から指先まで、血が流れているのがわかるの」
「こんな躰にされちゃって…」
「でも嬉しいの、あなたのおかげで、どんどん変えられて、違う自分になって。女って、そういうものだわ」
「よく好きになると、自分がなにもなくなるというけど、それが好きになるということでしょう」
「もう、このまま帰りたくない…」
「わたし、もう死んでもいいんです」



はい。
これが今日の冬香のすべてのセリフです。
この間、菊治はいったいどういう受け答えをしているのだろう、という疑問、ごもっともでございます。
では、この間の菊治のセリフをご案内いたしましょう。


「凄い?」


なるほど。
あなたって凄い人だわ、といわれた最初のセリフへの問い返しですね。

で?

・・・で?


・・・・・・で??



これだけでした・・・。
冬香、菊治の心臓のあたりに手をのせて、ひたすら問わずがたりです・・・。

「死んでもいい」といわれた菊治、さすがにこのあと、そんなことは考えるなとたしなめるのですが、さあ、たしなめられた冬香はなんと答えるでしょうか?
あるいはどういうリアクションを起こすでしょうか?



冬香の手がおりてきて、股間をまさぐり、菊治のものをそっと掴む。(原文)


・・・冬香、お前・・・


死んでもいいとかいいながらなにやってんだよ!!



もう、とっとと奈落の底でもどこへでも落ちやがれ!!


そう、こんな風にな!!!




奈落の底
キン肉マンの新技ではありません。



花火 二十八

冬香はいままで菊治のものを掴むたび、ひそかに「君は元気?」「疲れた?」「頑張るのよ」「可愛いわ」などと囁いたりうなずいたりしていたのかもしれない。
そんな冬香に掴まれ、擦られるうちに、また力が漲ってくる。
「欲しいの?」
「はい」

それでは放っておけない。そのために果てずに余力を残しておいた菊治は、冬香を仰向けにし、今度は上になる。
冬香は恥ずかしげに両手で顔をおおうが、やや開かれた股間には淡い翳りが息づいている。たまらず秘所に入ると、冬香は上体をのけぞらせ、待っていたように「いいの…」と悶えだす。
暴れだす菊治のもの。
「ねえ、首を絞めて、殺して…」と冬香は叫ぶが、もちろん菊治に異論はない。両手を首に押しつけると、冬香は「いい…」「死ぬ…」と訴える。
それはこれまで飽きるほどきいたが、手で首を絞めたくらいで死ぬことはない安堵してさらに絞めつけると、冬香は「げおっ…」と吐き出すように激しく咳き込む。


「君は元気?」「疲れた?」「頑張るのよ」「可愛いわ」

まったく、菊治の妄想パワーはとどまるところを知りません。どうかしてます。
しかし、


「ねえ、首を絞めて、殺して・・・」


そう言われて「もちろん異論はない」と張り切ってしまうあたりについては、「どうかしてる」とかで片付けていいものかどうか、記者にはわかりません。
ついさっき「そんなこと、考えるもんじゃない」とたしなめたのは、いったいなんだったのでしょうか。

ところが、「異論はない」と張り切りながら、


手で首を絞めたくらいで死ぬことはない。


絞め殺すことに異論はないけど、でも絞めたって死なないよ。
こういって安堵して絞めつけるというのはますますよくわからないところです。
ていうか、あのう・・・、あらためていうのもなんなのですが・・・


死ぬやろ。


タイミングとしてオッケーなんか?こういうのは。
それとも世間で起こった事件に配慮して「死ぬことはない」って言い訳しとるんか?
それやったら逆効果やぞ。

ま、その前の、「そんなことは飽きるほどきいている」ってのには全面的に賛成やけどな。
いや、飽きるほどっていうか、ほんとに飽きてるけどな・・・。


とはいえ、「げおっ…」っとむせ返るってのはちょっぴり新鮮でしたね。朝イチの洗面所の親父のような感じでしょうか。
なんにせよ、新鮮なのに気持悪いってのがいかんともしがたいところです。
そしてなにより近所のビデオ屋に行くたびに思い出してしまいそうだってのは、勘弁してほしいところであります・・・。



花火 二十九

菊治は慌てて喉に当てた手を離すが、冬香はしばらく咳き込む。真上から押し当てた左手が強すぎたのか。大丈夫かきくと、冬香はどうしてやめたのかという。あれ以上したら死んだかもしれないが、冬香は菊治に滅茶苦茶にされて殺されたいのだといって抱きついてくる。
呆れていると、冬香は家に帰りたくないといいだす。きくと、また夫が強く迫ってきたらしく、強く断ると、それなら家を出ていけといわれたらしい。
子供は?ときくと、連れて出るといったが、夫は「なにもやらない、お前一人、出ていけ」といいだしたという。
昨日のことだというが、そんなことがあったとは思いもよらなかった。


#咳き込まずに気持ちよく絞殺されたいんなら、喉ではなく頚動脈を押さえなければなりません。柔道なら送り襟絞めあたりが最適でしょうし、プロレス技ならギロチンチョークではなくスリーパーホールドのほうがよいでしょう。
もちろん、よいこのみんなやいい大人のみなさんは、マネをしてはいけません。

などと不適切なタイミングの技術論を言っている場合ではありません。
出ました、冬香の家庭問題です。
相変わらず菊治は「そんなこと思ってもいなかった」とどうしようもないことをいっておりますが、何かあったことは先日の「滅茶苦茶にして」で誰しもわかりきっていたことであります。
さて、きょうはとうとう夫に「出ていけ」といわれてしまいました。


では、ここで念のため状況を確認してみます。


夜の求めを頑なに拒み続ける妻に対し、夫はならば家を出て行けといいますが、妻はそれなら子供を連れて行くといいました。
実は妻は、子供をほったらかしにして週に何度も相手の家に通い、泊りがけで旅行にさえ出かけるほど濃厚な不倫をしています。
夫はそのことを確知しているかどうか定かではありませんが、「なにもやらない、お前一人、出ていけ」といって、妻が子供をつれて出て行くことを許しません。
妻は現在働いているわけではなく、特に手に職があるわけでもなく、男の元に転がり込む以外に当面の生活の保障さえありません。


さあ、理不尽なのは、誰?

①きくまでもねえよ、そのバカ女に決まってんだろ、バーカ。
②妻も悪りいけど、こうなるとわかっててずるずる深みに引き込んでる20才近くも年上の分別なしの無責任男がどうしようもねえんだよ。
③いやいや、やっぱちゃんとした話し合いもなしに「セックスさせねえんなら出ていけ」なんて強権を発動する性の劣等性の夫に問題があるんじゃねえの?


ま、感じ方は人それぞれですし、答えはひとつに限ったものでもないでしょうから、仮に択一式のアンケートに答えるとしたら非常に悩ましいところです。
そこで肢を選ぶのを後押しするような部分を、今話の文章の中から探してみましょう。


①を補強するのはこのあたりでしょうか。

「・・・なにもやらない、お前一人、出ていけ、といいだして…」

「・・・といいだして」ですよ。
悪いのは夫なのに、ひどいことをいいだした、といわんばかりです。まったく自分のやっていることを省みる気はありません。
「とんでもないことをいいだした」といいたいのは夫のほうでしょう。

そのくせ「もういや、もう帰りたくない」なんて、まだ帰ることを前提としてやがるというのも度しがたいところであります。


②という線も捨てられません。
「出ていけといわれた」という冬香に菊治が真っ先にきいたのが、

「でも、子供は?」(原文)

そりゃあ、連れてこられたら困りますもんねえ。
最近はとってつけたように子供がどうしたとかいってますけど、もともと子供のことなんて考えもしないタイプのくせに、自分が絡むとなるとこれですからねえ。
「子供を連れて家を出ることにします」と冬香にいわれたら、どうするつもりだったのでしょうか。夫に「お前一人、出ていけ」といわれたときいて、内心ほっとしていることでしょう。


ところで、③の線が薄いのは間違いありませんが、それにしても夫は冬香が不倫していることにほんとに気付いてないのでしょうか。
明らかにおかしい冬香の行動、そぶり、それでもまったく気付いていないのだとしたら、夫として問題がないとはいえませんね。純真だというレベルを超えてますし、これはもうセックスが下手とか以前の問題です。
関心なさ過ぎです。


うーん、こうして見比べても、やはり①が有力でしょうか。
ただ、個人的には第四の選択肢、


④理不尽なのはこんな設定で読者に共感を求める作者だろ!


も捨てがたいところであります・・・。



※挿画:小松久子先生