今日の愛ルケ(#60-63) 年末年始分一挙掲載 | にっけいしんぶん新聞

今日の愛ルケ(#60-63) 年末年始分一挙掲載

この記事は渡辺淳一先生の連載小説「愛の流刑地」を記者が個人的な視点で読み解く記事です。ネタバレを嫌う方はご遠慮ください。
なお、記者がまとめたあらすじ中の灰色文字部分は、作品のテイストをできるだけ伝えるために原文をそのまま引用した部分です。

あらすじ

最近読みはじめた方のために、あらすじを載せておきます。
(本編#61の冒頭あらすじを参考に記者が補足)

人気作家くずれのライター村尾菊治(きくじ)(55)は自分のファンだったという大阪の人妻で入江冬香(36)と知り合い、惹かれる。東京在住の菊治は3児の母でもある冬香の都合に合わせ、京都で密会を重ねることになる。
午後のホテルのスカイラウンジで逢った一度目の逢瀬は速攻で部屋に連れ込むも時間の壁に阻まれキスまでに終わるが、朝イチ新幹線で出かけた二度目の逢瀬はさらに速攻で部屋へと引き込み、成就する。
そんな折、菊治は今までつきあっていた愛人の吉村由紀(29)に、突然別れを告げられる。


#60
再会 十

由紀といずれ別れることは分かっていた。結婚する当てもなくだらだらつきあっても仕方ないと行きが考えて、別れを決めたことも当然だ。
一見、何も考えないで生きているようにみえて、その実、しっかりと自分のことを考え、将来を見詰めていた。
なるほどと菊治は納得する。今が別れどきかもしれない。それでもこの鍵を返されることで2年の歳月に終わりが来ると思うと虚しく切ない。
もう逢えないんだねと菊治確かめると、逢って飲むことはできるじゃないと由紀は答える。しかし寝たり泊まったりはできない、結婚するんだから、と言うのを聞き、菊治は冬香のことを考える。彼女は結婚しているが、明日も密かに逢う予定だ。
「その鍵、みっともないから納めて・・・」いわれて菊治は、ズボンのポケットに入れる。
けじめが必要だという由紀。女は潔い、と溜息をつく菊治。
「あなたも、よかったでしょう」由紀は好きな人がいるのでしょうと図星をさす。
「なんとなくわかるの、だから、いまがお互い、いいときよ」悪戯っぽい笑顔で由紀は言う。


#いくつか触れたい点もありますが、今回はこの一点、菊治の人間性ここに表われりというこのフレーズでしょう。

「一見、なにも考えないで生きてるようにみえて、その実・・・」

お前に言われたくないわ!


#61
再会 十一

次の夜、菊治は最終の「のぞみ」で京都へ向かう。列車の窓から街の明りを見ながら由紀を思い出す。今頃何をしているのか。
去っていった女を追う気はないが、別の男と肌を合わせていると思うと、やはり落ち着かない。すらりと伸びた肢や、ふっくらとしたお臀を、若い男に触らせているかと思うと、なにか大きな落とし物をしたような気持になる。
しかし、正直由紀の体にはさほど未練はない。若くて肌に張りもあったが、セックスはさほど充実していなかった。菊治もそれなりに努めてみたが、もともとそういうことには淡白というか、冷ややかなタイプなのか。結ばれても反応は薄く、菊治自身も相手を満たしたという実感には遠かった。
性の充実感という点では冬香のほうがはるかに深く、豊かそうで
「若ければいい、というものでもない」と菊治は思う。
由紀が若い男がいいならそちらにいけばいい、と菊治は夜景を眺めながら口惜しさ混じりにつぶやいた。


#日経連載ではこれは元日分です。新年から日経を購読を開始した人は驚かれたことでしょう。まったく元旦早々、というより年中セックスのことしか頭にない菊治であります。
さて、

若ければいいというものでもない
なるほど、これは由紀のこと、冬香のこと、そして由紀の男のこと、すべてを含めて言っているのですね。
確かにこの命題自体は真実でしょう。

しかしその一方、年を取りさえすればいいってものでもありません。また、経験は積むにこしたことはありませんが、数をこなしさえすればいいってものでもありません。
ましてや、そこそこ経験を積んだことで自分は出来ると思い上がっていることほどぶざまなことはありません。

まあ、結局言いたいことはみなさんと同じです。

淡白でも冷ややかでもねえ。てめえの愛情技術の問題だよ。


ていうか新幹線で真剣にこんなことを考えてる奴が隣に座ってたら嫌だ。

どうでもいいけど、日曜日の最終「のぞみ」はふらっと行っても座れねえぞ、たぶん。


#62
再会 十二

11時半に京都に着くとまっ直ぐホテルへ行き、チェックインする。今回も奮発して北側のダブルの部屋をとり、部屋に入ると景色を眺めた。まだまだ夜は長い。
ビールを飲みつつ、冬香に着いたと告げようかと思うが時間も遅いのであきらめ、明りを消してベッドにもぐってテレビを見、それも飽きて寝たのは1時過ぎだった。
明け方菊治は夢を見た。
人波の中に冬香がこちらを向いて立っている。見付けて手招きするが、冬香ははっきり答えない。そのうち冬香の姿が消え、追いかけようとするが、人波が邪魔して容易に進まない。
夢から覚めると体は軽く汗ばみ、冬香と逢えなかった侘しさだけが残っている。なぜあんな夢を見たのか。思い出して枕元の携帯を見るが何の履歴もない。眠られず、窓を見ると東山のほうが白んでいる。
冬香がくるまでまだ3時間。今日は直接部屋に来るのだ。
チャイムが鳴り、ドアを開くとそこに冬香が立っている、そんな姿を想像して、菊治は軽くうたた寝する。


#これは何かの伏線でしょうか。それともどうでもいいエピソードでしょうか。
どちらにしてもちゃちい話です。

人混みのなかに愛しい人を見つけるが、人波に邪魔されて近づけず、見失う。

ああ、ちゃちい。ああ、陳腐。
いくらリバイバルものが盛んだとはいえ、こんなありきたりの夢の話は聞きたくありません。
渡辺先生の創作力の泉は枯れたのでしょうか。
それとも陳腐なことの中にこそ愛の真実があるとでもいうのでしょうか。
それとも単に記者の文学鑑賞センスの問題なのでしょうか。

ああもうどうでもいいです。
早く夜が明けて冬香が来ようが来まいが先へ進めてくれい!

3本目に入り、展開のどうでもよさもあいまって、だんだんいい加減になってきた記者であります。


#63
再会 十三

9時20分過ぎにチャイムが鳴ると、菊治は飛び起きてドアの前に立つ。一呼吸おいて把手を引くと冬香が立っている。
顔を合わせた瞬間、冬香はかすかに微笑み、目を伏せる。照れと喜びがないまぜになっているのか、そんな冬香に菊治がうなずく。
菊治にどうぞといわれ、一礼して冬香が入ってくるや、菊治はドアを閉め、一気に抱き寄せる。
唇をまさぐり、しかと触れ、ひんやりした頬に自分の頬をすりよせ、抱き合ったまま、菊治は徐々に奥へと引きずりこみ、ベッドへと倒れこむ。
予想外にいきなり強引に迫られたのか、慌てておきあがろうとする冬香を菊治は上からおさえ、逢いたかったとささやく。
昨夜から待ちすぎて、菊治の気持は燃えている。
「今日は、このまま脱がしてしまう」

耳元でつぶやき、首をすくめる冬香にかまわず上衣に手をかけると、今度は冬香がつぶやく。
「待ってください、脱ぎますから・・・」
そういうことならそうさせてやろうと力を抜くと、冬香は乱れた髪をおさえて起き上がる。
暗くしてくださいとうながされ、菊治がわずかに開いていたカーテンを閉めると、冬香はクローゼットの前で脱ぎはじめた。
どこまで脱いでくれるのか。今度はスリップの上に浴衣を着たりはしないだろう。
ベッドで待っていると、冬香は白いスリップ1枚で、胸元をかくすように両手を前に当て、そろそろと忍び寄ってくる。


#さきほど「だんだんいい加減になってきた」と書いた記者ですが、そうも言ってられなくなってきました。

全国のお父さん諸氏、いよいよです!
いよいよ渡辺ワールドの核心です!!


はい。
正直に言います。
記者も楽しんでます。
やっぱなんだかんだ文句言っても、こういうシーンになると盛り上がってしまうのが渡辺ワールドです。なかには物理的に盛り上がっちゃっているスリップマニアの方もいるかも知れません。
あ、一応言っておきますが、記者は違います。嫌いとはいいませんけどね。

まあ相変わらず「かかり気味」の菊治ですが、今日は4本目の上にまだまだ「序」なので軽目に行きましょう。
とにかく、強気だか弱気だかわからない男です。
くだらない夢を見ては不安になり、来たら大喜びして「逢いたかった」とかささやくくせに、めちゃめちゃ強引に迫って、それで相手が「自分で脱ぐ」と言い出したら「ならばそのとおりさせてやろう」などとSっ気丸出しの発言。
そのくせいざとなったらまたどうせ「焦ってはいけない」なんて自分に言い聞かせるんでしょう。

いけませんな。
自信のないSではMは心底燃えませんよ。どうせ冬香はMキャラなんですから、菊治はSならSで徹底的にいかなきゃいけません。

そうだ、いま気がつきました。菊治は人としてどうとか男としてどうとかだから魅力がないのでなく、中途半端なのですよ。
人非人なら人非人でいいのです。性の権化なら性の権化でいいのです。
ある方面を極めればそれなりに魅力はでるものです。市場は小さくてもその道の専門として特化すればしっかり利益を得られる、企業経済におけるニッチ(すきま)戦略と同じです。

菊治もだめ男ならだめ男、SならSではっきりしたキャラ戦略を持っていればもう少し魅力も出たのでしょう。
基本だめ男で調子に乗ってSになる、ああ、どこかにいました。そう、いましたいました、誰でしたっけ・・・ああそうだ、のび太だ、のび太ですよ!

けんかも弱けりゃ勉強もスポーツもだめ。でもドラえもんの道具を手にしたときだけジャイアンやスネ夫をいじめにまわる。まったくかわい気がなくて同情出来ない不人気主人公キャラ。

そうだ!
冬香、ていうか渡辺先生はやっぱりドラえもんだったのだ!

それでは次回以降、冬香には菊治の夢をアンアン叶えてもらいましょう。