「ジョニー・バンドの旅が再び。」
バンドにとって初の夏フェス、〝トワイライト・ジャズ・シアター〟への参戦が決まって数日。勇み足の彼らは早々に会場へ向けて出発していた。
見上げれば真夏の太陽、入道雲と颯爽たる青い空。鳴き声という形容では済まない、喚くようなセミの時雨が全方位から押し寄せる。
「……これ……暑すぎるだろ……」
ねずみ返しの断崖のように整えたリーゼントは噴き出す汗で崩落し、重力に逆らえとばかりに屹立させていたモヒカンも倒壊している。
バンドマンの極端なヘアスタイルは維持が困難な季節である。
「あと何十キロあるんだ、会場まで……」
「知らないほうがいいよ、そんなこと……」
騒々しく吠える太陽の下、彼らは昨年夏同様、再びのエンジントラブルで走行停止に至った機材車を押し進めていた。
「暑くなるたび動かなくなるって……俺たちに恨みでもあるんじゃないのか」
「と言うかさ……一年前からガタのきてた機材車のまんまってのは……」
「俺たちの資金力が変わらないってことだよ……」
余計なおしゃべりが体力を奪うと分かりながらも彼らはそれをやめるでもない。
バンドはすでに一年を超えた、それぞれに環境も変わりつつある。
最年長メンバーでリーダーでもあるヒラサワくんはこの間、すでに父として子を授かった。
バンドのオリジナルメンバーでありながら、どうしてもキャラの薄さが弱点である天野くんは未だにそれから脱していない。
「これって、めちゃめちゃいいトレーニングになるよねぇ」
そしてジョニー。
人間離れした運動能力とポテンシャルを持つ、染めたブロンドに違和感のない美しい青年。数々の奇行と迷言、果てしない勘違いのなかに生きている彼だが、それでも一年をバンドマンとして生きていた。
だが、とくに成長も変化もない。底なしのポジティヴィティーか、あるいは何も考えていないのか。どちらでもあるのだろう。
いつもあるがままだ、悩むことも考え耽ることもない。ひたすらにシンプルであり続ける。
「余計なおしゃべりはいいから!」
運転席から小さな顔が振り返る。そして聞き慣れた命令口調が男たちに届く。
彼らのマネージャーを務めるまどかさん。まとめた髪、タンクトップ、短すぎるデニムショーツ。
アイスキャンディーをくわえている、そして女王のような不遜な態度でバンドを使用人のように扱う。
「日が暮れるじゃん! もっと速くしなさいよ! チェックインに間に合わなかったらあんたたち、ゴハン抜きだからねー!」
見慣れた光景だった。そして男たちはその扱いにも慣れてしまっている。
「ヒラサワくん! 天野くん! ほらほらゴハン食べるために頑張ろう!」
ジョニーはとくに疲労もないようだった。
彼らの夏がまた始まる。
<振り返ることもなくロックンロールが続いてゆく………>
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あの夏、ぼくらは流れ星になにを願ったんだろう……
流星ツアー(表題作を含む短編小説集)
あの人への想いに綴るうた