「少年たちとホラームービー」
夏の休みはホラームービー、
昼間にそう話した少年たちは、こっそり夜の街に流れてく、
誰の目にも触れないように、
その滑稽さがやたら目立って、
こっそり借りたハンチング、
着たこともないボタンダウン・シャツ、
それぞれ似合うと言い合いながら、
〝自分以外はみんな変だ〟と、
互いに思いながらも口にはしない、
ついさっきまでいたグラウンド、
まるで世界が変わったみたいに、
夜の微かな光が集まる景色、なくしたはずのボールに似た月、
手垢にまみれた白から黄色の陰影描く、
田舎道を息せき切らし、見慣れない駅を過ぎ、
そこは別の世界に続く、新しい旅みたいな気分、
少し大人になった気分、濡れたシャツに気づかない、
追われるようにただ走る、
焼けるチーズやポップコーン、メキシカンサルサの匂い、
空腹には気づかないふり、ポケットのなか握る一枚、
なけなし叩いたチケットだけで、水を飲んで誤魔化して、
初めての夜の匂い、明滅するネオンのなかを、
ホラー・ムービーめがけて走る、
昼間に汚れたスニーカー、バッグのなかには温い炭酸、
回し読んだリーフレット、
体のなかから弾けるみたいに鳴るなにか、
どうしようも落ち着けなくて、
銀の幕が開く暗闇、
ほらもう始まるホラー・ムービー
少年たちの夏も始まる、
━━━━━━━━━━━━━━━
あの夏、ぼくらは流れ星になにを願ったんだろう……
流星ツアー(表題作を含む短編小説集)
あの人への想いに綴るうた
![ビリーバナー](https://stat.ameba.jp/user_images/20130525/17/nightonfool/46/9a/j/o0480031312551771240.jpg?caw=800)