「小春日和のジョニーさんたち」
「これでいいよね、あんたら……?」
一同の前には一枚のサンプル写真が配られていた、そこにはバンドの顔写真が縦に三列、下部にバンド名が記載されている。
四月からツアー会場、告知ポスターなどに使われる宣材、いわゆる「アーティスト写真」である。
「な、なんだか……老けたなぁ俺……」
中央に映ったヒラサワくんは43歳、25歳の左右のふたりに比べ、悲しいほどに年齢を感じさせる。
ヒラサワくんはひとりだけジイさんになってしまったような、浦島気分でそれを見ていた。
「……現実にトシ食ってんだから仕方ないじゃない……」
遠慮のない物言いでまどかさんが発言する。
「ヒラサワくんって……時代劇みたいだよねぇ。名前も喜左エ門だし……」
「そーゆー天野くんは子供にしか見えないわよ……童顔過ぎでしょ、あんた」
ヒラサワくんと天野くんって……、おにぎりを頬張りながらジョニーが話し始めた。
「……あれに似てるよね、ほら……『ちゃん!』のチャンバラ」
……ちゃんのちゃんばら?
「なんだっけあれ……あ、そうだ、『子連れ狼』!」
「拝一刀と大五郎?」
まどかさんはそれだ、とばかり指を鳴らした、そして中空を睨んで少し思案する。
「子連れ狼系パンク、なんてウケないかしら……ほら、この間のサムライ写真もあるし……」
意味が分からない。分からないが誰も逆らえない。
「じゃあ、俺は何役になるのかな……拝一刀と大五郎がいるから……」
「うーん。そうねぇ……」
なぜ盛り上がるんだろう、バンドのイメージは何処へ向かうのだろう。ヒラサワくん、天野くんは不安に思う。
「ジョニーは……じゃあ、乳母車かな……?」
「……乳母車……。刀とかじゃなくて乳母車かぁ……」
うーん。ジョニーはあからさまに不満げな表情を浮かべるが、しかし、彼は乳母車としての新たなイメージを発案しようと試みた。
「……でも、乳母車って……悪くないかもしれない……なんだかあったかそうじゃん。お母さんが幼い子供と散歩とかお買い物にスーパーとか……ね? エンジンとかつけた乳母車ってないのかな……」
「いや……。もう何がなんだか分からない……」
「ジョニー……。パンクバンドのフロントマンが乳母車でいいのかよ……」
そう問いた天野くんだが、彼自身、その問いが理解不能なことに気づいていなかった。
なんだかよく分からないが、バンドの新しいイメージ写真は「子連れ狼系パンク」という、完全なる未知の世界にシフトチェンジしてゆきそうだった……。
今日もジョニー一座は脳内が小春日和のままであった。
<書いてる本人もワケが分からないまま、ロックンロールが続いてゆく……>
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⇒アラジンよりは完全無欠のはずのロックンロールの前回まで
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あの夏、ぼくらは流れ星になにを願ったんだろう……
流星ツアー(表題作を含む短編小説集)
あの人への想いに綴るうた