∞イケメン・ジョニーはスーパースター? #55 | ワールズエンド・ツアー

ワールズエンド・ツアー

田中ビリー、完全自作自演。

完全自作、アンチダウンロード主義の劇場型ブログ。
ロックンロールと放浪の旅、ロマンとリアルの発火点、
マシンガンをぶっ放せ!!

〝JACKPOT DAYS〟-image

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「ジョニーたちは飢えている」


 旅芸人である男たちはその日も見知らぬ土地にいた、彼らは二度目のツアーの最中である。
 ジョニー、ヒラサワくん(平澤喜左エ門)、天野くんの三名からなるインディー・パンクロック・バンド『THE CIGARETTES』は借金完済に向けて奮闘を続けていた。少しずつではあるが動員も増え、CDの売り上げも伸びつつある。とくにライヴ終了後の物販ではそのデザインもあってか、Tシャツがよく売れた。
 しかし、である。

「お腹すいたー……あー、もう叩けない……」 
 リハーサルの途中、空腹を嘆く天野くんがいた。ドラムに突っ伏してリズムが途切れる。
「昨日の朝から何も食べてないからなぁ……」
 額の汗を拭う、ヒラサワくんはリーゼントが崩れていた。ウッドベースを壁にもたれかけさせ、本人も小さく座り込む。

 彼らの旅は仕事ではある、だが、時給に換算できないほどの薄給なのだ、チケット代、会場でのCDやグッズの売り上げはほとんどが事務所に吸い上げられ、気まぐれに手渡される「ギャラ」だけが収入のすべてなのだ。

「さすがに草ばかりじゃ体力が続かないよね……」
 無限かとも思われるエネルギーを持つジョニーも音を上げる。
「……草?」
「なんか食べるものあるのか……?」
「良かったら食べる?」
 楽屋で待っててよ。ジョニーはギターを置き、ステージを降りフラフラとどこかへ去った。
「どこ行くんだろ、ジョニー……?」
「さぁ……」
 数分後。
 スーパーのナイロンを抱いた彼が戻ってきた、何が入っているのか、サッカーボールほどにふくらんでいる。
「ジョニー、おまえ……これ……」
「近くに公園があったから。新鮮だよ」
「雑草じゃねーか!」
「こんなもの食べてたのかよ、ジョニー?」
 ジョニーは適当につかんだ緑色をそのまま頬張った、もそもそと咀嚼する。
「食べないより……マシかなって……野菜に見えるし……」
「いやいや……いやいやいや……美味しいのかよ、それ……」
「不味いけど、お腹いっぱいになる」
「……公園の雑草って……なんかいよいよ……いよいよ……」
 人として最底辺あたりだな……ヒラサワくんはそう言おうとしてやめた。

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「なにやってんのよ、あんたたち……」
 声に振り返るとマネージャーであるまどかさんが立っていた、眉根を寄せ、不審そうにオトコたちを睨んでいた。腕組みをしたまま、ヒールを鳴らして踏み込んでくる。
「なに……楽屋で雑草食べてるってあんたたち……人としての尊厳はないの……」
 自らがマネージメントしているバンドでありながら、あからさまな軽蔑が声色にこめられていた。
「尊厳の前に命だからね。まどかさんも食べる?」
 はぁ、と溜息をついて彼女は言った。
「そろそろ開演時間よ。ばっちりカッコいいステージやってきなさい。終わってから御馳走してあげるから……」
 男たちは色めきだつ、その眼に光が宿る。
「マジっすか! よーし!」
「行くぞジョニー!」
「行こう!」
 三人は駆け出した、狭く薄暗い通路の向こうには飢えた狼の叫びを待つ人々が待っている。
「行ってこいっ、THE CIGARETTES?」
 まったく放っておいたらバカなことばかり……。そう思いながらまどかさんは笑顔だった。聴こえてくるロックンロールがトップギアでスタートしていたからだった。
 カッコいいよ、あんたら……。

 でも、ジョニーが集めてきた雑草はゴミ箱行きになっていた。


<ロックンロールは鳴り続ける……>


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おバカさんたちの軌跡と奇跡。


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あの夏、ぼくらは流れ星になにを願ったんだろう……
流星ツアー(表題作を含む短編小説集)


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あの人への想いに綴るうた


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