∞イケメン・ジョニーはスーパースター? #42 | ワールズエンド・ツアー

ワールズエンド・ツアー

田中ビリー、完全自作自演。

完全自作、アンチダウンロード主義の劇場型ブログ。
ロックンロールと放浪の旅、ロマンとリアルの発火点、
マシンガンをぶっ放せ!!

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「ジョニーはMr.ロックンロール?」


「ジーター‼」
 開口一番、青年は叫んだ。少年の面影を強く残す、痩せた体躯からは意外な低音のかすれた声。
 ライトが彼を照らしている、金に染めた髪が黄金にさえ見えた。ギターをかざし、開放弦を思い切り鳴らす。調和のないノイズが飛び散る、残響が空間を支配する。
「デニス・ホッパー‼」
 そして彼はフェイドアウトを待たずに叫ぶ。咆哮の意味は誰にも分からない、分からないがその場の誰もが固唾を飲んでステージに立つ男を見つめている。
「ストレンジャー・ザン・パラダイス‼…………パリ、テキサス‼……イチロー‼」

「は……? 曲タイか?」
「ジーター?」
「デニス……なに?」
「……イチロー?」
 そこに集まった人々がざわめき始める。何を伝えようとしているのか、それがまるで理解できない。
 暗がりのなか、手にしたフライヤーを確認する者もいる、バンドの名前は『THE CIGARETTES』、メンバーはそれぞれ『ジョニー、ジャック、ヒラサワくん』と記載されている。ジーターもデニス・ホッパーなる人物もいない。もちろんイチローがいるはずもない。

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「あのバカ……」
 ステージの袖から彼らを見つめる美しい娘は呟いた、何度となく首を振る。
「あいつ……なんて正直なのよ……ものの例えってことが分からないのかしら……」
 彼女は指を鳴らしてスタッフに告げる、「早く演奏を、ヒラサワくんに合図して」。

 開演一時間前だった。円陣を組んだバンドメンバーとマネージャーはライヴの成功を祈願し、短いアドバイスをフロントマンであるジョニーに送ったのだ。
「ジョニー、いい? まずはつかみよ、つかみ。いきなり度肝を抜かせてやりなさい」
「つ、つかみ……旅館じゃないのに……?」
「それは女将」
 やはり勘違いするジョニーに対し、ヒラサワくんが諭すように話す。
「聞けジョニー、何も難しいことはない。でかい声で……そうだな、カッコいいことでも叫んでやれ。なんでもいい」
「カッコいいこと、かぁ……」
「そうだ、意味なんてなくてもいい、叫び声でもいい。それから演奏スタートだ」
「分かったよ、ヒラサワくん。カッコいいことを叫べばいいんだね?」

「ナガシマさん‼」
 ジョニーはまたも叫んだ。栄光の背番号3、ミスタープロ野球、ナガシマシゲオ氏のことらしい。
 場内がどよめき出す。
……何を言ってるんだアイツは……最初のジーターって……ニューヨーク・ヤンキースのデレク・ジーターのことか?……ナガシマさんとか言ってるし……次はシンジョウあたりか……。

「ジョニー、もういい、ギターを鳴らせ‼」
 焦ったヒラサワくんが叫んだ、それを合図に天野くん(ジャック)がカウントを打ち始める、いよいよバンドがロックンロールを鳴らすのだ。リズムが刻まれ出したところでジョニーのギターがそれに乗る、音塊が打ち鳴らされ破壊的な力で加速する、音速のパンクが誰もキズつけない機関銃になる。
「俺はジョニー‼ ミスター……ミスター・ロックンロールだ‼」
 ジョニーはようやく相応しい言葉を放った。このとき、ロックンロールが始まった。


<ロックンロールは続いてゆく……>

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前回までのおバカさんたち



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