「イケメン・ジョニーがパンクに吠える!!」
「ジョニー、見ろ」
天野くんは顎をしゃくりステージを示した、そこにはすでに演奏を始めたバンドがいる。
観客たちは嬌声をあげ、そのバンドが弾き出すリズムに合わせ、揺れては踊る、ピエロの扮装をしたヴォーカリストは場慣れした様子で聴衆を囃し、煽り、空間を支配するかのように振る舞う。
ジョニーは観ていた、ライヴを体感していた、そしてライトを独占し、無敵に跋扈する異形のものを観察していた。
たたき起こされたばかりでどこか呆けた表情ではあったが、視線は真っ直ぐにバンドを貫いている。
これがパンク……これがロックンロール……。
初めて経験するロックンロールのライヴ。
速射砲のように放たれる音圧に撃たれる、だが痛みはない、快感さえ憶えていた、血液が沸騰し細胞が燃え上がるような感覚。ジョニーはそんな経験をしたことがなかった。
「天野くん……」
「……ん?」
「すげえね、俺たち、こんなことやるんだね……」
「ああそうだ、ジョニー、よく見てなよ」
「天野くん、俺、挨拶してくるよ!!」
「……は?!」
そう言うなりジョニーはステージに駆け出した、一迅の風がごとく人と人の隙間を縫う、意味を聞こうと、あるいは制止しようとする天野くんとヒラサワくんを置き去りに、気づけばステージに上がってゆくジョニーの後ろ姿にライトがあたっていた。
一連の動作にはまるで無駄がなく、音速を思わせる速度があった。
「しゅ……瞬間移動?」
「あ、あいつ何を……?!」
天野くんとヒラサワくんは顔を見合わせた、いったい、ジョニーは何をするつもりなのか。
挨拶する、そう言った。
それは何を意味するのか。宣戦布告ということかもしれない、遥か格上のバンドにケンカでも売りかねない……。
様々な思いが脳裏をかすめ、そして走馬灯のように過ぎてゆく。
演奏は途切れていた、突然、ステージに闖入してきたジョニーと、その不穏な気配がライトの下を支配する。
同時に、なぜかヴォーカル・マイクはジョニーが手にしていた、その瞳を輝かせ、沈黙するヴォーカリストと相対している。
ライヴハウスに沈黙が走る、その場に居合わせる全ての者が突然の珍客に注視していた。
「ジョニー……いったい何を……」
天野くんは状況を、現実を飲み込めずにいた。
「もう……ここでライヴなんて……やれない」
ヒラサワくんは一ヶ月後に控える自バンドが活動を自粛せざるを得ない状況にまで追い込まれることを想定していた。
そして、誰もがジョニーの第一声を待っていた。
「おれ……おれ……パンクやるんだ、やるよパンク!! みんな、よろしく!!」
ジョニーは興奮を隠さずに叫んだ、それは単なる個人的な決意表明でしかなかった。
「あ、おれ、ジョニー!! こんにちは!!」
ジョニーは宣言どおり挨拶をした、わりに普通の挨拶だった。
演奏を止められたバンドも、そして一挙手一投足を見つめていた観客も、肩透かしをくわされたのだった。
<不敵に不定期に続く>
⇒失笑必至の前回まではこちら♪