「イケメン・ジョニーも働かざるを得ないらしくて。」
うーむ……。
青年はその細くも上質な筋肉を有する両腕を組み、今日も何かを考えている。吸い殻が溢れる灰皿、その上にまた根元まで吸われた灰が押し込まれ、彼は缶ビールをすする。
金色に染めた髪、計算のうえに刻み込まれたギリシャの彫刻さえも思わせる端正な顔立ちではある。
しかし、その美しい顔を歪めるほどの苦悩が彼を包んでいる。
友人に食事代を借りたばかりの彼だったが、突然の来客……彼が住むアパートメントの大家さんだったわけだが……の話によると、彼はすでに三ヶ月分の家賃を滞納しているのだという。
その額は15万を少し越える。
ジョニーは思う。
なぜ、こんな小汚く、狭い部屋に住むだけでそれほどな大金が必要になってしまうのか。
この小さな、学生時代から住むアパートメントのどこに一ヶ月に五万強もの賃貸料が必要になるのか。
分からない。
いくら考えても理解できない。詐欺に近い行為ではないのか。
「払えないけど……払えても払いたくないな……」
なぜなら、15万もの大金を手にした記憶はジョニーにはない。
就労意欲はなく、現実、働いてもいない、また、とくに働きたいという欲求もない。
ひとつの格言がジョニーに去来する。
「働かざるもの食うべからず」。あるいは「働かざるもの飲むべからず」。
ふふん。
ジョニーはそれを逆手に思考する、いわゆるポジティブシンキングである。
「なるほどな……つまり、食べず飲まないなら働く必要もないわけだ」
しかし、食べない限り、やがては餓死が待つ。
死、か……。
「まだ早いよな……やっぱり働くしかないのか……せちがらい世の中だな……世の中?……誰のことを指すんだろう……俺には分からないけど……」
世の中はまあいいか。
だらだら寝ててもしかたない、意を決したジョニーは近くのコンビニに行ってみることにした。
詳細はまるで記憶にないが、アルバイト募集の貼紙があったような気がしたのだ。
「条件次第では働いてやらないでもないよ……いくらイケメンでも空腹は我慢できないものさ」
借金や滞納している家賃のことはすでに忘れていた。
着の身着のまま、ジョニーは履歴書さえ持たずコンビニへと向かう。
「いまだろう、いま。過去の経歴なんかじゃないさ。いまこの瞬間、生きている俺がすべてなのさ」
肝心なことはしっかりと忘れてしまう。まさにジョニーそのものであった。
(不定期に続く)
前回まで♪
∞イケメン・ジョニーはスーパースター (1話~9話まで)。
illustration and text by Billy.