「月の旅人」
生まれた土地を離れる季節、
もうすぐここは雨に流され、
僕らはそれを避けるよう、
新たな場所へと地図を広げる、
童話で見かけた盗賊たちが持っていた、
蛮刀みたいな月が白く光るころ、
月の涙が世界をおおい、
満月には洗い流され、
月に生まれた僕らはここを、
遠く離れて生きる場所、
それを探して放浪、流浪の日々になる、
水色の羽根を持つ鳥が、
終わらない雨期を告げ、
彼らもまた別の緑が咲く地を求め、
湿り気ある風を抱き、
夜には月が浮かぶ湾をゆく、
月の民と生まれた僕は、
季節ごとに住家を替えて、
雨の降らない寒地へと、移動しながら陸を渡って、
月の涙を振り向きながら、遥か先を見続ける、
恋人はもういない、どこか知らない国へ渡った、
月の地に生き続けるのを嫌ってたんだ、
私はヒトで鳥ではないの、どこかで静かに暮らしていたい、
誰もが一度は思うこと、
小さな僕がそうだった、
いまの僕はこの生き方に慣れすぎて、
歳をとるのも忘れてる、
せめて彼女が元気にいますよう、
夏の世界を探して次へ、
ピックアップを連ねて走る、
その地でまた誰かに出会う、
恋さえまたするのかも、
それも束の間、僕は永久の放浪者、
ただひたすらに泳ぎ続ける魚と同じ、
明日見る土地は新たな世界だ、
夢に見るは見知らぬ誰かで、
それを何度も繰り返す、
それを何度も繰り返す、
寂しさまぎれに見知らぬ誰かを抱く夜が、
その季だけの恋人を、旅立つたびに忘れてゆくよう、
孤独に慣れゆく自分の輪郭、いつもどこかにうつろわせ、
あの夏、ぼくらは流れ星になにを願ったんだろう……
流星ツアー(表題作を含む短編小説集)
あの人への想いに綴るうた