the sunshine underground -7 | ワールズエンド・ツアー

ワールズエンド・ツアー

田中ビリー、完全自作自演。

完全自作、アンチダウンロード主義の劇場型ブログ。
ロックンロールと放浪の旅、ロマンとリアルの発火点、
マシンガンをぶっ放せ!!

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 解体を終え、すでに廃材にされた資材が連絡橋を越えてゆく。
鉄の塊、暴風すらも吐きながら、地を揺らして列をなして走ってく。
錆びた空き缶を跳ね上げた、それを見ていた、黒煙をあげてトラックが橋を越えてゆく。
 いつか渡ろう、そうガゼルと話したあの小さな橋は落ちてもうない。
代わりにできたのは運搬車輌と作業員だけが通行を許可された連絡橋だ。
サンシャイン・アンダーグラウンドに生きる人々はそれを通過することができない。
小銃を携えた憲兵はゲート両端でその目を鈍く光らせる。

 時は過ぎた。
わずかなようでたかがしれた日々を生きる僕たちには随分な時間だ。
塔を眺め、見果てぬ想いを抱いたあの冬。
まぶたによぎるのは昨日のように鮮烈な色彩であり、はるか過去のモノクロのグラデーションにも想う。
 サンシャイン・アンダーグラウンド。
僕らの生まれ育った故郷。それはいま、大きく姿を変えようとしている。
真偽は検証されないまま、ニホンコクを襲う新型の感染症の発生源とメディアは騒ぎ、誰もが知ろうとしなかった不毛の地は今、病の根源のように扱われている。

 サンシャイン・アンダーグラウンドは、それを所持する国家の政府によって、解体、撤去されることが決まった。そして、すでにその作業は昨日からスタートしている。
いくつかの段階をふみ、2年後、僕たちが成人するころには完全にその姿を新たにする。
そこに住む者、そこに生まれた僕たちの処遇についてはまだ何も決められてはいない。
命の存在は認められても、その命はどこにも保障されてはいない。集団自決を願う声が大多数を占めるとの報道すらあったという。
 時間は、ない。


☆☆☆


 偽造の国籍、慣れ親しんだ新たな名。
僕はディータを捨てて橋を渡る。ニホンコクへゆく。言葉ならすでに学んだ。

 連絡橋のちょうど裏側、かつての造船ドッグで現在は“廃船の岬”と呼ばれ、朽ちた船が潮風にその姿を痛ませ続ける港に僕はいた、そこは密航者が出入りする場所であり、また、アンダーグラウンドで密造された違法の品々が持ち運ばれ、あるいは持ち出されている。
 海軍の監視船が定期的に運航している、ここもすでに無法の場所ではなくなりつつあるからだ。
かつてほど“入国者”は多くないが、それでもいなくなったわけではない。
警備船から掃射された凶弾を浴び、棄民と呼ばれる無国籍者はここ一週間で数十人が殺害された。
その光景は渡り鳥の群れを狙う猟者のように見えた。連中は背を向ける人々に鉄の弾を浴びせ、その悲鳴に笑い声さえあげていたからだ。

「本当に行くのか」
 ガゼルは深く被っていたニット帽を引っぱり脱ぐ。
胴体の半分が沈んだタンカーの陰、一隻のボートに乗り込んだ僕にもう一度、ガゼルの声が飛んでくる。ああ、とだけ僕は答え、それ以外の選択肢はない、そう付け加えた。

 なあ、ガゼル。
最後になるかもしれない、ひとつだけ聞いておきたいんだ。
離れてもここは僕にとっても故郷だって言えるだろう。
ディータは、ディータという名前は君にもらった。
あの鉄塔はまだしばらくはなくならないだろう、なあガゼル、僕がもしここへ帰ってくることができたなら、今度こそあの頂上へ昇ってみないか。


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……続劇