「――ほら、こっちよ!大神くん」
かえでさんと手をつないでテラスに出ると、夜空にはまんまるお月様が浮かんでいた。
今日は十五夜。
しかも今年みたいに満月とぶつかる年は珍しいらしい。
「はい、お酒をどうぞ。大神くん」
「ありがとうございます。かえでさん」
大帝国劇場のテラスはお月見にはもってこいの特等席!
こういう年に一度の特別なイベントは
特別な人と過ごすに限るよな
それに今夜は満月だ。
かえでさんみたいな美女を前に
俺の中のオオカミ男はどこまで出番を耐えられるやら…
「今夜の月は十五夜にふさわしくキレイですね。かぐや姫に出てくる空飛ぶ籠が本当にあったら、それに乗ってもっと近くでお月見ができるのにな…」
「んふふ~な~にひとりでロマンチスト気取ってるのよ~?大神くんっ!!」
――バシッバシッバシッ!!
「いてっいてっいてっ」
「じゃあ、空飛ぶ籠に乗って~、酒をもっと買ってこ~いっ!!あははははっ♪」
~~ハァ…
これでかえでさんが酔っぱらってなかったらムード満点なのになぁ…
「うふふっ♪お月見で飲むお酒は格別よね~ほ~ら~!大神くんもじゃんじゃん飲みなさいっ!!じゃんじゃんっ♪」
「は…はい…」
せっかくの風情がこれじゃ台無しだな…
~~なんだか月見だんごでもやけ食いしたい気分…
「…くしゅんっ!」
「あ…、かえでさん寒いですか?」
「ん…。ちょっとね」
「俺の上着でよかったらどうぞ」
「ふふ♪ありがとう気がきくわね、大神くん」
俺の上着を袖を通さずに羽織ると、
かえでさんは赤い顔をニコニコさせて頭をなでてくれた。
…さっきのかえでさんのくしゃみ、かわいかったな
酔っぱらってる時はもっとオヤジみたいなくしゃみするのかと思ってたけど…
「…ん?どうかした?」
「い、いえ…」
「そういえば知ってる?大神くん。月の表面に見えるあの影…、日本ではうさぎに例えられることが多いけど、中国ではカニ、欧州では女性の横顔に例える人が多いんですって」
「へぇ、そうなんですか。そう言われるとそう見えるかも…」
「ふふっ♪知ってて損はないお月見トリビアよ」
「その…、――ここから見えるかえでさんの横顔も月に負けないくらいキレイですよ…」
「………」
~~やばい。
少しくさい口説き文句だったかな…
「…かえでさん、あの――」
「――くー…」
「……へ?~~寝てるし…」
かえでさんはいつのまにやら俺の肩に寄りかかって寝息をたてていた。
~~これだけ酒を飲んだ後じゃ、しょうがないといえばしょうがないが…
「かえでさん、風邪ひきますよー。部屋に戻りましょう」
「うーん…。帰りたくなぁい…。大神くぅん、もう一軒つきあって~…」
「~~ここは居酒屋じゃありませんって…」
「うにゅ~…。じゃあチュウしてくれたら戻ってあげる…」
「…了解」
――チュッ
「ふふふっ大神く~ん、だっこ~」
「…はいはい」
かえでさんは、ぐてんと俺に身を預けると、俺にお姫様だっこを命令した。
…やれやれ。
かえでさんは酒が入ると甘えんぼうになるんだからな…
……文句を言いながらも顔のニヤケが戻らん
かえでさんのかわいくて無防備な寝顔をこう見せつけられちゃな…
なので、俺は自分の中にいるオオカミ男の声にしたがって
部屋までの移動中、かえでさんを起こさないように静かにもう一度唇を奪ってやった。
月見酒に付き合わされたんだから
これくらいの対価はもらってもいいだろう…
「ふふっ…大神くぅん…」
かえでさんも夢の中で俺とのキスを楽しんでいるらしい
「今日は満月なんですからオオカミになってもいいですよね…」
今夜のキスは少し酒くさかったけど、
月見だんごみたいに甘かった…