カルメン・演奏会形式@なかのZERO大ホール中野区民合唱団第21定期演奏会2013.12.22 | リーベショコラーデ

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thoughts about music and singers

2013年、暮れも押し迫った22日日曜日、某ピアノコンツェルトの切符を買ってありましたが
堀万里絵さんが「カルメン」を演じる(タイトルロール)というのを直前に知り、
4000円のチケットを棒に振って!(笑)カルメンに行きました。

中野区民合唱団の定期演奏会だそうです。



市民オペラというのを最近知りましたが、なかなか侮れないことも知りました。
二期会主催のものよりよっぽど面白くて熱があるもの「も」あるのです。
カルメンは日本で初めてオペラで観ましたが、それも市民オペラでした。
以来、カルメンはDVDも含め何作もオペラを観ていますが、あの綾瀬市市民オペラより優れた演出はありません。市民オペラがメトロポリタンのカルメンより良いなんて誰が想像できるでしょうか!


ということで、行ってきました。

演奏会形式+日本語のカルメン、、、苦手な形式ですがそこは堀万里絵さんですから、カルメンが。
あの人ほど今の日本でカルメンが似合う人はおらんでしょう。背高いし、フラメンコ踊れるし、美人だし、メッツォソプラノだし。
(カルメンとメルセデスがなぜソプラノでなくメゾなのか、という話しを昔書きましたが割愛)

万里絵さんがカスタネット叩いて踊ったのは予想外の素晴らしい演出でした。
フラメンコには前蹴りの形でスカートを上げる踊りがありますが、あれは短足の日本人がもっとも不得意でサマにならない踊りですが、これができるのは堀万里絵だけでしょう。(あと青木エマさんが身体的には似合います)

もともとこの合唱団は宗教音楽を演奏しているそうですが、ミサやらコラールやらって、結局ゴッドを信じていない日本人には無理ですので(中身がチンプンカンプンでは歌えません)、オペラにしたのは良かったと思います。しかも演技なしですから団員にとって難しいことは無いし。今後も「オペラ」を演奏してくれるなら中野まで行きたいと思います。

解説書に指揮者の山崎滋さんが面白いことを書いていました。
『(人物としての)カルメンは、脚本、演出によっていろいろな見方がありますが、仮に2つの見方に絞ると、一つは天性の悪女として、自分に対して正直に「なるようになるさ」と自由奔放に生きる女として見るパターン。
もう一つは実はもっと情け深くて昔の日本女性のように誰かに尽くす為に生まれてきたような人物として見るパターン。

(中略)

カルメンの想定年齢は17~18歳ですが、単に奔放なだけではなく、(中略)見た目のコケティッシュな美しさに周りが振り回されて、本人の思わぬ方向に事態が動いて結果的に破滅へと導かれてしまっただけではないかと考えます。
(恋の)対象がエスカミーリョに変わっていった部分についても解釈がいろいろあって、その一つに、カルメンがもともとホセと死ぬ運命であることを予見していて、その運命からホセだけでも遠ざける為に、わざとエスカミーリョに近づく振りをして敢えてホセが自分から去って行くように仕向けたのではないかという考え方があります。』

・・・念のため、以上は彼の解釈ではなくて彼による一つの解釈の紹介です。

解釈というのは個人の自由であって何をどう解釈しようと構わないものですが
何かをそのように解釈する、というのは必ず本人の願望に基づいている

そうあって欲しい」とか「そうであればスッキリする」とか「自分が得をする」からです。例外はありません。

わざとエスカミーリョに近づいてホセを自分から去って行くように仕向けた・・・

そんなことは絶対にありませんね。


ちゃんとその理由が説明できます。なぜかというと、
人間、他人になにかをさせたい時は、その方法は一つしか無いのです。
それは
『みずからそうしたいと思わせること』
です。(澤村翔子さんもこのことをよく記憶しているそうです)

ホセは自分から去って行く気になるわけがない。

だから殺されたわけです。運命を予見できるような女が「このことをするとどうなるか」に気が回らないはずがありません。

というような話しを、演じる人と話しができたら楽しいだろうな、と思う訳です。
以上、説明を終わります。


あと、歌唱についてですが、

ミカエラの安達さおりさん、奇麗な良い声をしています。ご年齢を存じませんが、ミカエラの実年齢の二倍半はあるでしょう。
それにしては声はミカエラにとっても合っていました。通常、日本語のオペラの歌唱というのは何を言っているのか聞き取りにくいものですが、日本語の発音も聞き取りやすくて素晴らしかった。けれども歌い方が古臭いです。あれは「お母さんと一緒」で歌われるような歌い方です。それで自分の世界を築いてこられた実績のある人なのだということは伺われましたが、他の新しい世代の歌手の歌唱とギャップを感じます。

後の主役三人は文句なし。三人のリサイタルのようでした。

残念なのはフラスキータ(佐藤優子さん)とメルセデス(杉山由紀さん)です。
その演出がまったくつまらなかった。出番が無い。どっちがメルセデスかも全然分からない。
せっかく若くて有望な歌手を呼んでるのだから、もっと出番を作るべきでした。
この二人が出るから来た人もいるでしょうに。

フラスキータとメルセデスというのは、大抵の演出でも「どーでもいい」役回りになっているものですが、そこへ行くと前述の綾瀬市の市民オペラではメルセデスにソロで踊らせたり歌も歌わせたり、とっても強い個性を与えていました。あんな演出はもう二度と観られないと思います。

杉山由紀さんは、第63回全日本学生音楽コンクール声楽の部で第一位と横浜市民賞を両方獲得した、という物凄い人です。横浜市民賞の選定員を今月の2日にしたばかりなので、あんなに票が割れる賞を両方獲れる人がいるなんて凄いと思います。歌声がほとんど聴けず、とっても残念でした。

佐藤優子さんは、ソロの歌が少しありました。良い声をしています。声量もありました。声音もよく通る声でした。もっと歌わせる工夫が欲しかった。この二人は経歴に「中野市民合唱団定期演奏会出演」とは書かないでしょう。ほとんど何もさせてもらってないし。残念。名前を見かけたらまた伺いたいと思う二人でした。

みんな、頑張れ!