PEファンドは、飽くまでもファンドの投資家に対する善管注意義務が第一ですので、投資の意思決定において最低限必要なのは、「自らが責任を持てないような事柄」に影響された結果、投資家に損害を与えないことだといえるでしょう。投資委員会などの機関が、独立して意思決定を行なうことが重要であり、間違ってもその他の利害関係者の意向に投資の最終決定が左右されてはならないものと考えています。そうでないと、投資家への説明責任が果たせないことになりますし、ひいてはその他の株主にも悪影響を及ぼすことになるからです。以前も述べたとおり、そもそも、投資ファンドは、利害相反を持つものが運営することは断じて避けるべきことと考えます。


 次に、「あるがまま」の当該事業の<状態>を正確に把握することだと思います。状態、というのは、最近の銀行審査的に言えば、会計士などのお墨付きを貰った静態的な「実態純資産」などになるわけですが、我々は、今後自らがその事業の経営に参加していく、という目でもっと動態的に見ることが大切になります。すなわち、ヒト・モノ・カネの流れが実際にはどうなっているのか、役職員はどう考えているのか、業界の方向性はどうなのか、その中でどうすれば成長を図ることが出来るのか、といったことです。

 実際には、そういう動態的な分析を続ける中で、静態的な意味での財務諸表上の「粉飾」などもより正確に発見できるものです。すなわち、経営者の本能として、売上の成長や利益の増強を図ってきたわけですので、そういった「損益計算書」上のお化粧がなされることが多いわけですが、会計の仕訳は入り払い(貸方・借方)が一致するはずなので、そのお化粧の皺寄せは、「バランスシート(貸借対照表)」にいくことになりがちです。実態のない資産(バランスシートの左側)の積み上げ、たとえば、費用とすべきお金の払いを、投資勘定に入れてしまう、といったことは、よくあることだろうと思います。そしてそれは多くの場合、借入の増加や過去の増資によって支えられてしまっています。こうしたことは、業界分析やヒト・モノ・カネの流れをよく見て「不自然だ」という素朴な疑問からわかることも多いと思います。


 そこまで把握できれば、後は、そうしたことを全部織り込んでも、投資回収が出来るというボトムラインを押さえた上で、投資後の戦略(成長戦略、確実なコスト削減策)を練り、それを条件として投資にあたっての地ならし(話し合い)を行なっていくということになるでしょう。この段階に至れば、特に、バランスシートの右側、すなわち借入金を支えている(或いは今後支えていく)銀行との合意は是非とも必要なことでしょう。


 そして、投資後は、そうした地ならしの結果に沿って、その会社の経営陣・従業員自身に能動的に経営改善に取り組んで戴くことがとても大切なことだと考えています。もちろん、ファンドも、産業の知見を持ったパートナーたちがそれを全面的にサポートしていくことになるでしょう。


 内部収益率(IRR)が20%だとか30%だとかという専門用語で語られ、それが独り歩きして的外れな儲け過ぎ批判に接したりすることもありますが、そういった数字は、飽くまでも上記の作業のほんの一断面に過ぎないように思います。カネを出す見合いとしての物的な担保がなく、投資後の経営責任もあるという、高いリスクを負うPEファンドによる分析は、唯一の担保である経営資源、すなわちヒトモノカネの実態を把握するということに尽きるということです。