(初めに断っておくが、大失策とは介入がこのセッションで今後行われないという仮定のもとでの判断であって、例えば明日協調介入などが入れば、また判断は変わってくる。)

今回の介入が大失策と判断するのは、別に80円台まで押し上げたドル円がすぐに反落してしまったという安直な理由ではない。
政府は1日に4兆円という過去最大の介入を行ったわけだが、果たして4兆円もつぎ込んだ成果が得られたのか、甚だ疑問に思うからである。

そもそも、日本政府はなぜ介入を行ったのだろうか。
政府は表向きには円高是正のためと言っている。
しかし、現状、日本の貿易収支は限りなく0に近く日本全体で考えれば円高でもさほど問題ないように思う。
それを考えると、政府が介入をした真の目的は「輸出企業の海外移転を防ぐこと」にあるように思う。

円高になって困る代表格はトヨタなどの輸出企業である。このまま円高が進めば、トヨタなどの輸出企業は海外移転を進めるほかないだろう。トヨタが海外移転してしまえば、日本国内は空洞化して雇用喪失など2次被害が拡大し日本の成長率が阻害される。
日本政府としては、トヨタなどを国内に留まらせるために円売り介入という輸出企業救済策に打って出たと考えるのが自然である。つまり日本政府は、円売り介入を行いドル円の水準を押し上げ、輸出企業にドルを80円(トヨタなどの社内レート)で売らせてあげようとしたわけだ。

では、輸出企業を助けるために1日に4兆円を使って介入することが効果的な方法なのか?

僕の答えは否である。

極論を言ってしまえば(多くの国民は反論するだろうが)1日に4兆円も使って為替介入を行うよりは、直接輸出企業に資金を投入した方が、もっとずっと少ない資金で同じ効果が上げられると考えられる。

日本最大の輸出企業であるトヨタの為替感応度(為替が1円動いた時の営業利益の変化幅)はドル円で300億円と言われている。
今回の為替介入を実施した水準は77円台前半(簡略化のため77円とする)であり、介入によってつけた高値は80.25円(簡略化のため80円とする)である。つまり介入で押し上げられた水準は3円ということだ。
トヨタの為替感応度で言うと300億円*3円=900億円ということになる。しかし、これは1年間の営業利益においての効果であり、ドル円が80円台に乗せたのはせいぜい数十分である。さらに、ドル円が80円台にのったのはロンドン時間だったため、トヨタが80円台でドルを売れたのは一体どのくらいの量だろうか、ごく少量に違いない。今、ドル円が77円台で推移していることを考えると、今回の介入でトヨタが得た便益は100億円にも満たないだろう。大分多く見積もってトヨタに100億円の便益があったとしても、日本最大の輸出企業であるトヨタの便益がたかだか100億円である。
便益が4兆円に達するには、トヨタと同クラスの輸出企業が400社必要ということなるが、日本にそういった会社を400社も見つけることができるだろうか…


では、はたして日本政府が出した4兆円という大金は一体どこに消えてしまったのだろうか。
それはもちろん投機家たちだ。
日本の証拠金トレーダーは介入前に過去最高水準にドル円のロングポジションを積んでいたことは周知の事実である。彼らの利食いが入ったことはくりっく365のポジションを見れば明白だ。
また海外のHF(ヘッジファンド)等からは、80円付近から断続的に売りが入っていることも推測される(現状77円台で推移しているわけだから売りが入っているのは当たり前なのだが)。


しばらく為替水準が円高のまま推移するなら、今回の為替介入は大失策と判断して間違いないと思う。今回の為替介入でハッピーになったのは投機家たちだけだ。
外為特会の資金を使っているとはいえ、元は国民のお金。それを1日に4兆円も使ってほとんど効果を出せていないのだから、国民はもっと政府に怒りを示すべきだと僕は思う。



今日はグラフ等のデータを掲載しないという怠惰なエントリーですいません。





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