ジョン・メリウェザー
元ソロモン・ブラザーズの債券トレーダー。ソロモン・ブラザーズはメリウェザー率いる債券アービトラージ部門で莫大な利益をあげ「ウォール街の帝王」と書きたてられた。
メリウェザーは同社の副会長まで登り詰める。
後にLTCMというヘッジファンドを立ち上げ、1995年は+43%、1996年は+41%と高い運用成績を収める。
日本を代表するトレーダー、明神茂や松本大(現マネックスCEO)はメリウェザーのチームで働いていた。

今回はメリウェザーの率いるチームが莫大な利益を上げたアービトラージについて書いてみようと思う。
アービトラージとは日本語に訳すと裁定取引と言うらしく、つまり理論値からの乖離を狙った取引である。マーケットは所詮人間が取引しているわけだから往々にして理論値からずれた価格形成をすることがある。そのずれはいずれ修正されるはずであるからそこで利益を得ようとする取引を裁定取引という。

以下、難易度別に3つのアービトラージの例を紹介して説明しよう思う。
※ 説明はなるべく簡易化している。

レベル1.オンザラン銘柄とオフザラン銘柄
債券(国債を想像してほしい)には同じ年限・償還期限でもより最近に発行されたものと、より昔に発行されたのもがある。この中でより最近発行された銘柄をオンザラン銘柄といい、昔に発行された銘柄をオフザラン銘柄という。

通常、投資家はオンザラン銘柄を好む傾向があるため(オンザラン銘柄に買いが集まるため)、オンザラン銘柄はオフザラン銘柄に比べて割高になることが多い。
しかし、オンザラン銘柄もいずれオフザラン銘柄になるため、価格は修正される。
割高なオンザラン銘柄を売って、同じ量の割安なオフザラン銘柄を買い、価格が修正された後反対売買を行えば利益が上がることになる。

レベル2.債券先物と受渡し銘柄
日経225先物のように債券にも先物が存在する。
日経225と債券先物の違いは、債券先物は受渡し決済ができるということである。

受渡し決済とは、決済する時現金の受渡しではなく、同じ価値の現物の国債で決済することをいう。例えば、もし債券先物を買っていた場合、期限になるとそれが同じ価値の国債に変わって自分の口座の債券先物が現物の国債に変わっていることになる。

ここで大事なのは、債券先物と受渡しされる国債が「同じ価値」であるということである。
もし交換される物の価値が違えば、その取引が成立しないのは明白である。

しかし、ここでも人間の取引によって価格形成されるため、価値の乖離が発生する。
※先物と受渡し銘柄の理論値を考えるためには、ベーシスやインプライドレポレートというものを理解する必要がある。これを説明すると一気にレベルが跳ね上がるため、ここでは省略する。もし金利マーケットで働くことを志すのであれば必須の知識なので興味があればtwitter @yutabalに聞いてみるといい(丸投げ)。

この乖離を利用、つまりレベル1と同じように割高な方を売り割安な方を買い、修正されたところで反対売買を行えば利益があがる。

レベル3.金利スワップ取引
実際メリウェザーはこれで莫大な利益を上げたように思う。
説明を始める前に前提として、メリウェザーはこの取引を行った時代は高金利時代であり、今後の金利低下を予想していたことを念頭においておく。

photo:01


図の上から順に説明していく。
※ 会社名は全て例である。

まず、トヨタ自動車は銀行から融資を受けている。
もちろん融資を受ける代わりに、トヨタは銀行に固定金利を払わなければいけない。時代は高金利で今後の金利低下が予想されていた上に、トヨタは格付けが高いので金利が下がった時に一定の手数料で融資契約を解除できる条項があった。

ここに目をつけたメリウェザーは、トヨタ自動車とスワップ契約を結ぼうとする。
スワップとは固定金利と変動金利の交換である。この場合、ソロモンがトヨタに固定金利(トヨタが銀行に払う固定金利と同じ利率)を払い、トヨタがソロモンに変動金利を払う。
これで、トヨタは融資の支払いを固定金利から変動金利に変えることができ、今後の金利低下に対応することができる。

ソロモンはトヨタに固定金利を払い変動金利を受け取るわけだから、金利低下した場合支払う金利よりも受け取る金利が小さくなり損失を被ることになる。

このためにソロモンは国債買う。国債を買うことによりクーポン収入として固定金利が入り(この固定金利をトヨタへの支払いに充てる)、なおかつ金利低下時に国債価格が上昇して利益を享受することができる。

仮に金利上昇した場合、ソロモンは国債価格の下落により損失を被ることになるが、そこはトヨタと締結するスワップ契約の手数料としてとっておけば損失をカバーできる。

メリウェザーは、まだ浸透していなかった金融工学をいち早く導入・駆使し、アービトラージにより莫大な利益をあげ、ウォール街の帝王と呼ばれたソロモン・ブラザーズで副会長まで登り詰めた。

しかし、そんなメリウェザーも最近ではパフォーマンスが振るわない…



実はこのエントリーには続編がありまして、それは追々アップ致します。
次のエントリーが続編になるかはわかりませんが…





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